さて、今回も蒸留に関連する内容を取り上げます。多孔板 Sieve Tray の様な棚段塔においては、上昇する蒸気と下降する液が接触する事によって分離精製が進行します。なので、気液平衡関係はもちろん重要ですが、設計や運転においては良好でかつ安定した気液接触状況を維持する事が大事となりますね。この蒸留塔の運転安定性ですが、まあ普通に考えて極端に液流量が多いとか、極端に蒸気流量が多い場合には何かしらの問題が有ると考えられますね。で、その極端な状況において発生するのがフラッディング Flooding だったり、ウィーピング Weeping です。今回は フラッディングについて計算してみようかと。
圧力損失と蒸留塔の挙動 Pressure Drop and Distillation Tower Behavior
✔ 蒸留塔内の気液挙動 Vapor - Liquid Behavior in Distillation Tower
以前にも取り上げましたけど、蒸留塔のなかでも多孔板塔における内部の気液流れについては下図のようになってますね。液体はトレイの表面とダウンカマーを通過して下へ下へと流れていきます。一方、蒸気はトレイ間の空間とトレイ開口部 そして 液中を通過して上へ上へと流れていきます。蒸気は液中を通過する際に液体と接触し、その際に気液平衡に基づいて精製が進行します。
✔ 圧力損失挙動 Pressure Drop Behavior
んで、蒸留塔の圧力損失ですが 下図のとおりですね。トレイの上下に差圧計 例えばマノメーターの圧力取り出し口を差し込んで液面高低差を実測します。そのようにして得られる圧力損失を 蒸気量に対してプロットすると 下図の様になります。ある蒸気量までは圧力損失は上昇し、その後も増加しますが その程度はだいぶ緩やかです。なんですが、ある程度まで蒸気量が増えると そこからは急激に圧力損失が増加します。この時、蒸留塔内には液体層が充満しており、液の流下は全く起きません。即ち、液が出てこなくなりますね・・・。この状態こそが フラッディング Flooding ですね。まあ、液が洪水状態になってるって事ですね。こうなってくると、もう安定的な運転は出来ませんね。液を供給しても塔底から液が出てこない訳ですんで。なので、このような状態になる際の蒸気量を予め把握しておく必要が有ります。
それと、あまりに蒸気量が少ないとそれはそれで問題が有って、ウィーピング Weeping となります。多孔板であれば、孔から液がポタポタ落ちてくる状態です。まさに、「すすり泣く」状態なんですね。本来はトレイ上を流れる筈の液が孔から落ちてしまうので、やはり効率は低下しますんで避けるべき状況です。余談ですが、プラントのストラクチャーでは 縞鋼板 Checkered Plate を使いますが要所要所に孔を開けてますね。これは ウィーピングホール Weeping Hole と言いますが 別に気液接触云々は関係無いですね。単に雨水や洗浄時の水が溜まると滑って危険なんで、孔を開けて水を落としてるんですね。
それと、あまりに蒸気量が少ないとそれはそれで問題が有って、ウィーピング Weeping となります。多孔板であれば、孔から液がポタポタ落ちてくる状態です。まさに、「すすり泣く」状態なんですね。本来はトレイ上を流れる筈の液が孔から落ちてしまうので、やはり効率は低下しますんで避けるべき状況です。余談ですが、プラントのストラクチャーでは 縞鋼板 Checkered Plate を使いますが要所要所に孔を開けてますね。これは ウィーピングホール Weeping Hole と言いますが 別に気液接触云々は関係無いですね。単に雨水や洗浄時の水が溜まると滑って危険なんで、孔を開けて水を落としてるんですね。
フラッディング 計算式 Flooding Calculation Equations
参考書籍にはフラッディング流速を計算する式がいくつか挙げられています。フラッディング流速が得られれば、その値の 80% くらいのベーパー流速となるように塔内径を決定すれば良いですね。
で、計算式ですが そもそも始まりは Sounder and Brown が提唱したパラメータ 式①のようです。式①中には フラッディング流速が含まれています。まあ、液ガス比をいろいろと変えて実験すれば、「おっ、フラッディングしてる!」と言うのが分かりますね。で、その時のガス流速も分かりますので、CSB の値が分かります。ただ、これだけだと今一つ使い難いです。なので、Fair が 液ガス比 L/V を用いたフローパラメータを使って CSB を整理したんですね。その際、重要な因子が有って それが「フローパラメータ」と「トレイ間隔」なんですね。大抵の蒸留関連書籍には Fair による相関図が載ってますね。ただ、相関図だといちいち読み取る必要があるので面倒くさいですね。それを相関式にしたのが式③です。
Fair 式以外にもいくつかフラッディング流速計算式が有りますが、Kister and Haas 式が使いやすいですかね。計算条件として、多孔板の孔径とか開口比の影響も計算する事が出来ますし。
計算例 Examples
んじゃま、早速計算してみます。参考書籍に載っている条件ですが、元ネタをたどると Perry Chemical Engineers Handbook 8th edition のようです。
✔ 各計算式の結果 Results of Each Equations
計算式が3種類あるので、まずはその違いがどれくらいかを計算してみました。せっかくなんで、トレイ間隔と液流量の値を変えています。計算条件である、アクティブエリア面積や液ガス流量、物性なども併せて示しています。塔断面積は 4.91 [m2] なので、内径は 2.5 [m] となります。まあ、そこそこ大きい感じでしょうか。
そして、計算結果ですが どの式でも同じ様なフラッディング流速になりますね。まあ、そうじゃないと困りますけど。下図上段グラフはトレイ間隔の影響ですが、間隔が狭くなるとフラッディング流速は低下します。フラッディング状態では、トレイ上に気泡を多く含んだ液体層が形成されますが、その層が上のトレイの下面に到達した時点で 完全に OUT ですね。そうならない為に ガス流速は下げてフラッディングしないように運転する必要があるって事なのかなと。
下段グラフは 液流量の影響ですが、まあ計算式の違いは有りませんね。そして、液流量を変えてもフラッディング流速はさほど影響を受けないようです。まあ、トレイ上の液層厚みが変化しますが この条件ではそこまで重要な因子では無いのかなと。
下段グラフは 液流量の影響ですが、まあ計算式の違いは有りませんね。そして、液流量を変えてもフラッディング流速はさほど影響を受けないようです。まあ、トレイ上の液層厚みが変化しますが この条件ではそこまで重要な因子では無いのかなと。
✔ 孔仕様の影響 Influence of Hole Spec.
Kister and Haas 式は孔仕様の影響についても計算出来るのでやってみました。下図上段グラフは、開口率を一定にして孔径を変えた場合です。孔が大きくなるとフラッディング流速は低下します。開口率は一定なので開口面積は同じです。なので、通過するガス平均流速自体は同じです。で、孔径の大小によって孔数が増減しますね。その辺りの影響が有るには有りますが、それほど大きな影響は無いように思えますね。下段グラフは、孔径は一定として孔面積 即ち 開口率を変えています。開口率が増減するのでガス流速も変化しますが、開口率が2倍になってもフラッディング流速はそこまで影響は受けないようです。
まとめ Wrap-Up
今回は蒸留塔におけるフラッディング流速について計算してみました。今回は塔仕様が決まっている場合ですが、運転条件だけが決まっていて塔仕様を決定する際にも勿論適用可能ですね。その場合には、冒頭で触れたように フラッディング流速の 80% ほどで運転する様に塔内径や各部寸法を決定すれば良いですね。まあ、勿論一発で塔仕様が決定出来るほど甘くは無いので、いろいろとケーススタディをしながら各部寸法を詰めていく感じでしょうか。まさに化工計算の真髄とも言えるものですが、まあ大変は大変ですね。昔はEXCELとかは無いですし・・・。電卓をバシバシ叩いて得られた結果を紙に書き取って云々と言う作業が延々と続く訳ですね。
また、同じ様にガス流速が小さい方の運転限界である ウィーピングについても計算した事が有りますね。相関図とか相関式はフラッディングほど沢山有ったようには記憶していません。まあ、フラッディングの方が塔の大きさにより直接的に効いてくるので、そうなるのかなと思いますけど。ウィーピングについてもまた別の機会に取り上げたいと思います。
実務では、蒸留塔についてそこまで突っ込んで検討した事は無いですね。まあ、ポリマープラントなんで メインの機器では無いですし。とは言っても、ちょこちょこと検討依頼が来たりはするんで、その度に化工便覧や蒸留関連の書籍を見直して 検討してました。割と古い書籍だと、前述のように 寸法がヤード・ポンド法なんで 見ても全然ピンと来ないですね。温度も華氏だったり、熱量が英国熱量単位 BTU だったりすると、もうお手上げです。さすがに平成になってからの書籍は SI 単位系に直してありますけどね。
また、同じ様にガス流速が小さい方の運転限界である ウィーピングについても計算した事が有りますね。相関図とか相関式はフラッディングほど沢山有ったようには記憶していません。まあ、フラッディングの方が塔の大きさにより直接的に効いてくるので、そうなるのかなと思いますけど。ウィーピングについてもまた別の機会に取り上げたいと思います。
実務では、蒸留塔についてそこまで突っ込んで検討した事は無いですね。まあ、ポリマープラントなんで メインの機器では無いですし。とは言っても、ちょこちょこと検討依頼が来たりはするんで、その度に化工便覧や蒸留関連の書籍を見直して 検討してました。割と古い書籍だと、前述のように 寸法がヤード・ポンド法なんで 見ても全然ピンと来ないですね。温度も華氏だったり、熱量が英国熱量単位 BTU だったりすると、もうお手上げです。さすがに平成になってからの書籍は SI 単位系に直してありますけどね。
参考書籍・文献
- 「化学装置 プラントエンジニアリングメモ 第139回」2019年7月号
- 「蒸留工学 実験室からプラント規模まで」 講談社 1990年刊
- 「分離技術シリーズ20 やさしい蒸留」 分離技術会 2011年刊
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