化工計算ツール No.91 ジャケット熱伝達係数 Jacket Heat Transfer Coefficient

 今回はジャケット 熱伝達係数 Jacket Heat Transfer Coefficient について取り上げます。反応器とか撹拌槽で加熱したり冷却するのであれば、ほぼ確実にジャケットを壁面外側に設置しますね。槽内にコイルを設置すると言う手も有りますが、ダブルヘリカルリボンのような槽内に大きく広がった、所謂 狭クリアランス タイプのインペラであれば 不可能です。まあ、ダブルヘリカルリボンインペラを設置するような重合反応器であれば、普通は潜熱除去方式を採用しますんで ジャケットを設置する意味はあまり無いですね。とは言っても、潜熱除去方式であってもジャケットは設置しますね。例えば、壁面温度を所定温度に維持する目的とか。

実務でもそれこそ何回も仕様を決定しましたね。低粘度液を扱う撹拌槽では結構ジャケットの貢献割合が大きいですね。まあ、それでも冷却負荷が大きいとどうしてもコイルを設置する必要が有ります。で、ジャケット仕様ですが ほぼほぼ 「スパイラルジャケット」 Spiral Jacket ですね。その名のとおり、媒体流体流路が螺旋状になってます。と、そんなところを計算してみようかなと。





ジャケット Jacket


✔ 型式  Types

ジャケットと言ってもいくつかタイプが有りますね。以下のようなものでしょうか。ラボスケールとかベンチスケールであれば平板ジャケットとかでしょうか。それだけだと熱伝達係数が小さいな~と言うのであれば、ディンプル付きにして流れを乱す事によって熱伝達を促進させますね。鋳物ジャケットは特殊ですが押出機で見たことが有りますね。また、半割コイルのジャケットってのも割りかし一般的かなと。媒体側の圧力が高い場合に使うのかなと思います。槽外壁にガッチリ溶接しますしね。コイル溶接ジャットは見かけたことは無いですね~。銅管をグルグル巻きにするってのも近いと言えば近いですけど、まあ溶接まではしないですね。そうなんですが、そのままだとさすがに伝熱効率が悪いので「伝熱セメント」でガチガチに固めますね。これは高温を扱うポリマープラントで見ましたね。

  • 平板ジャケット     Plain Jacket
  • くぼみ付きジャケット  Dimpled Jacket
  • スパイラルジャケット  Spiral Jacket
  • 鋳物ジャケット     Casting Jacket
  • 半割コイルジャケット  Half Coil Jacket
  • コイル溶接ジャケット  Coil Welding Jacket





✔ 平板ジャケット計算式  Plain Jacket Calculation Equations


ラボで使うようなガラス製反応器とかパイロットスケールの反応器では、わざわざスパイラルタイプにはせずに 平板ジャケットにしますね。反応器の外側に、ある流路幅を有するジャケットを設置します。で、ノズルは半径方向に設置したり、接線方向に設置したりしますね。この辺りの計算式は「熱交換器設計ハンドブック」に記載されています。その場合の熱伝達計算式は以下のとおりです。媒体入出ノズルの向きが半径方向なのか接線方向なのかで少し違うんですね。半径方向ではジャケット断面の上昇速度で、接線方向ではジャケット隙間における通過速度となります。それと、媒体入出の温度上昇による体積膨張に起因する速度増加も加味しています。




✔ スパイラルジャケット計算式   Spiral Jacket Calculation Equations


一方、スパイラルジャケットについては「熱交換器設計ハンドブック」には記載が無いので、別の文献から引用します。若しくは、流路寸法から相当直径を算出し それを使って強制対流熱伝達係数 計算式を用いれば良いですね。「強制対流熱伝達」についてはこのブログでも取り上げています。例えば、Gnielinski 式 とかを使えば計算できますね。

それと、式⑩で相当直径を計算しますがスパイラルジャケットの場合は少し注意が必要です。と言うのも、普通は流路断面積 S を浸辺長さ L で割り算して 4 を掛け算すれば相当直径となります。ですが、伝熱の場合では 浸辺長さは伝熱が起こっている辺長のみとしますね。なので、スパイラルジャケットにおいては De = 4 × (w × p) / p = 4 w となります。




計算例  Examples

早速 計算してみますが、ベンチスケールの槽と量産スケールの槽とで計算してみます。で、媒体流体は常温の水とします。媒体流量は変化させてどの程度熱伝達係数に影響するかを見てみます。

✔ ベンチスケール  Bench scale


槽内径 500[mm] に 片側 25[mm] のジャケットを設置して、媒体として水を通液した時の熱伝達係数は下図のようになります。まあ、結構 熱伝達係数値は大きいです、乱流ですし。それと平板ジャケットの場合、ノズル設置は接線方向の方が熱伝達係数値は大きいですね。そして、スパイラルですが ピッチ 70[mm] で2倍くらい大きな熱伝達係数値となります。まあ、流速が大きいのでそうなりますね。んでも、まあ この程度の差であれば スパイラルにする事も無いかなと思います。槽壁の熱抵抗は無視出来るとして、大抵の場合 主な熱抵抗は槽内側 (プロセス側) にありますんで、この程度の熱伝達係数値であれば問題無いですね。

とまあこんな感じなんですが、スパイラルの場合 螺旋状のバッフルを槽外壁に溶接します。で、どうしても隙間が出来ますね。すると、この隙間に漏れ流量が発生するんですね。そうすると、螺旋状に流れるべき流量が低下し、最終的に熱伝達係数も低下します。文献には、流量は 60[%] まで低下すると有ります。下図の計算も これを考慮していますね。その状態でも これくらいの熱伝達係数値が出るんで、十分と言えば十分ですね。





✔ 量産スケール   Commercial Scale


んで、次は量産スケールの槽について計算してみました。内径が 4倍になっているので、体積比だと 4の3乗=64倍となりますね。で、結果ですが 熱伝達係数値 自体はベンチスケールの場合と同程度ですね。で、そうなんですが 槽の図を見ると分かるように大きさはだいぶ違いますよね。となると、平板ジャケットだと本当に均一に流れるのかな?と言う疑問が湧きますね~。であれば、スパイラルにしてショートパスなどが起こらないように対策するべきですね!なので、量産スケールであれば スパイラル一択でしたね。




まとめ   Wrap-Up

今回は槽に設置するジャケット熱伝達係数について計算してみました。まあ、一般的な流量で流しておけば ジャケット側が大きな熱抵抗になることは まず無いですね。とは言え、適当にやっていると思わぬところに落とし穴が有ったりしますんで、毎回きちんと計算していました。前述のとおり、量産スケールではスパイラルしか選択しませんので、ジャケット流路幅とバッフルピッチを決めて熱伝達係数値を計算してました。それと、今回は触れていませんけど一応圧力損失も計算していました。流路内の流速が慣用流速内であれば、これまたまず問題にはなりませんね。

実務でも何回もやってるんですが、溶液重合反応器とかであれば ジャケットを上中下の3段構成にしたりもしますね。まあ、40[m3]もあるようなデカい反応器にドカンと一気にジャケットを設置するのも大変ですし。それ以外にも理由が有りますね。例えば、上段ジャケットは大抵 液面近傍に設置されるんですけど、所謂この辺りは波打ち際っぽい感じで付着物が発生しやすかったりします。なので、この部分は重合温度よりもちょいと温度の低い媒体を流して、少し冷し気味で運転するとかですね。

一方、懸濁重合とか乳化重合反応器では 発生する重合熱をきちんと顕熱除去方式で除熱しないと、所定の温度プロフィルを維持出来ないので、とにかくジャケットとコイルでガンガン冷やす感じでしたね。とは言っても循環流量はポンプ定格流量とかで決まっているので、媒体温度を上げたり下げたりするんですね。上げるのはスチームを吹き込めば比較的容易に出来ますね。一方、下げる方は冷凍水 Chilled Water (温度は 2度くらい) など より温度の低い媒体を混ぜるんですね。なんですが、これくらいの温度になるとクーリングタワーでは無理なんで冷凍機 Chiller で作りますね。この冷凍機ですが、電気で動かすんでガンガン使うと電気代が急上昇します・・・。と言うわけで、なるべく冷凍機を使わないようにするのが大変でした。まあ、出来ないものは出来ないんですけども。と、そんな技術検討とかをやってましたね。

参考書籍・文献   References

  1. 「熱交換器設計ハンドブック 増訂版」 工学図書 1974年刊
  2. "Heat Transfer Analysis of The Spiral Baffled Jacketed Multiphase Oxygen Reactor in The Hydrogen Production Cu-Cl Cycle"
    Mohammed W. Abdulrahman
    Proceedings of the 9th International Conference on Fluid Flow, Heat and Mass Transfer (FFHMT ’22)
    Niagara Falls, Canada – June 08-10, 2022 Paper No. 151




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