今回はガス吸収について取り上げます。参考文献によれば、「吸収操作は気相中の溶質ガスが気相から気液界面に移動し、液相に溶解、次いで液本体中に拡散する遂次プロセスである。この際、問題となるのは気液界面における溶質ガスの分配関係、つまリガスの溶解度と気相および液相内の拡散係数の大小である」と有りますね。例えば、空気中に微量のアンモニアが含まれているとして、その混合気体を水に接触させるといずれはアンモニアは水に吸収されますね。んで、気相中の拡散と液相中の拡散も勿論大事ですが、気体成分の溶解ってのも重要ですね。そもそも溶解しなければ吸収操作をしても吸収されませんしね。なので、その辺りの知見が必要になってくる訳で、それが「ガスの溶解度」とか「ヘンリー定数」なんですね。とまあ、その辺りをトピックス的に取り上げていくつか計算もしてみようかなと。あくまでも基本的な部分だけですけども。
実務では、ポリマープラントに設置される除害設備の仕様検討とかで経験が有りますね。装置 内圧調節用やパージ用に用いる窒素などイナートガス中に含まれる原料とか溶媒蒸気を除去する感じですね。水だとあまり吸収されないので油を使ったらどうか?とかもやりましたね。まあ、実現はしませんでしたけど。吸収液として使った油は最終的に熱媒加熱炉の燃料として燃やすとかでしたね、確か。
ガスの溶解度 Gas Solubility
✔ ヘンリーの法則 Henry's Law
これまた参考書籍によれば、「純粋気体あるいは溶質成分を含む混合気体を、溶媒である液体と温度一定のもとで密閉容器内で接触させると、溶質の気体は液体中に溶解して一定時間後に飽和状態になり気液平衡に達する」んですね。で、このとき溶媒に溶けた溶質の濃度を「気体の液体への溶解度」と言います。水中で魚が生きていけるのは、酸素が水に吸収されるからですね。まあ、二酸化炭素に比較すると溶け具合はだいぶ違いますけど。
そして、気相部と液相部において、下記の関係が成立する場合 それをヘンリーの法則 Henry's Law と呼び、比例定数がヘンリー定数 Henry constant となります。式①のKも 式②のHもヘンリー定数ですね。で、このヘンリーの法則ですが成立範囲が有って、すご~く成分濃度が薄い状態で成立するんですね。このヘンリーの法則は 2成分系のギブス・デュエムの式 Gibbs–Duhem equation から導出出来ますが、その際の前提条件がすご~く薄い濃度なんですね。具体的に言うと、「溶媒成分 モル分率 x1≒1.0」で「溶質成分 モル分率 x2≒0.0」 と言う事ですね。
また、このヘンリー定数ですが、分圧の単位や濃度の単位によって値自体が変わりますね。正直面倒くさいですね・・・。
✔ ヘンリー定数値 Value of Henry Constant
で、ガス吸収云々においてはヘンリーの法則を使うわけなんですが、そもそもヘンリー定数の値を知らなければいけませんね。この辺りは例えば化学工学便覧などの書籍を参照すれば良いですね。で、化学工学便覧 第6版に記載されている 水におけるヘンリー定数の温度依存性 計算式に基づいて計算してみると下図のようになります。酸素と二酸化炭素、そしてエチレンの3つです。温度範囲は 0℃からなんですけど、氷点下だと水が凍っちゃうからですね。
左側グラフは下図の計算式でエイッと計算した結果を温度に対してプロットしたものです。単位は [MPa] としています。また、右側のグラフは 逆数なんですね。単位圧力当たりのモル分率となるんで、まあ溶解度という事でしょうか。で、結果を見てみると高いのが二酸化炭素ですね。溶けやすいんですね、やはり。一方、酸素はだいぶ低いですね。エチレンは両者の中間って感じでしょうか。
✔ 計算例 ) ヘンリー定数 examples) Henry constant
参考書籍には簡単な例があるのでご紹介しておきます。実測データから、ヘンリー定数を計算してみます。
- 温度 25 [℃]
- 気相部 二酸化硫黄 分圧 250 [mmHg]
- 液相部 二酸化硫黄 溶解度 30.5 [g/L]
計算すると ヘンリー定数は 9.272 [kg/100kg-water atm] となります。で、この結果と言うかデータは化学工学便覧 第4版にも記載されているので そちらの結果も併記しています。なんですが、20[℃]と30[℃]のデータしか無いので、内挿して 25 [℃] のデータを求めています。まあ、当たり前ですが ほぼ一致していますね。
ガス吸収操作 Gas Absorption Operation
✔ 溶解度曲線 Solubility Curve
✔ 回分吸収 Batch Absorption
で、次に上記の溶解度曲線を使って回分吸収を行った場合の計算をしてみます。以下の条件とします。希薄なアセトンを含む空気に水を加えてずーっと放置するような感じでしょうか。んでも、気体体積はそこそこ有りますが 水体積は そんなでも無いですね。
- 空気 - アセトン 22 [mol] 、アセトン モル分率 1.5 [%]
- 水量 16 [mol]
結果ですが、最初 水には アセトンは全く含まれておらず X0 =0 ですが、平衡に到達すると Xe = 0.00606 まで増加しています。一方、空気中のアセトンは 最初 Y0=0.01523 ですが、これが 0.01075 まで減少しています。まあ、こんな結果ですが この条件では更に放置しても 変わりませんね。
実際の計算ですが、溶解度曲線と操作線は交点座標を共有していますよね。なので、それを制約条件としてソルバーで探索させて交点座標を求めています。なんですが、溶解度曲線は飛び飛びのデータ点しか与えられていないので いささか面倒くさいです。これが近似式で表わされているのであれば、あまり細かい事を考えずにソルバーでドンピシャ答えが得られますね。2つの曲線の交点を求めるってのは有るんですね、割と。直線であればソルバーを使わずに済みますけど、曲線だとソルバーを使うほうが楽ですね。
✔ 向流ガス吸収操作 Countercurrent Gas Absorption Operation
で、ある微小区間 ΔZ における物質収支を考えると式⑥となり、整理して式⑦となります。更にこれを吸収塔全体に拡張すると式⑧となりますね。式中の L/G は液ガス比と呼ばれます。式⑧は 吸収操作における操作線の式であり、溶解度曲線と併せて必要吸収液量とかが求められますね。
以下の条件で最小水量を求めてみます。この操作では操作線が溶解度曲線と交点 B' において交わりますね。なので、これまたソルバーを使って x1' の値を探索する必要があります。
- アンモニア 溶解度曲線データは下図のとおり
- アンモニア含有空気流量 1250 [kg/hr]
- アンモニア入口濃度 10 [vol%]
- アンモニア出口濃度 4 [vol%]
今回は溶解度曲線を多項式近似しているので楽ですね。溶解度曲線上の1点と操作線上の1点が交点として共有されているので、その制約の上でソルバーを使って交点座標を探索します。そうすると下図のように交点座標が得られます。左側のY軸上の座標は既に設定されているので自明ですね。なので、操作線両端の2点座標から勾配を求めると 液ガス比 L/G が得られますね。ガス流量 G ってのは条件として与えられているので、液量 L が求められますね。この例では 水量 649 [kg/hr] が必要と言う結果となりました。まあ、実際にはもっと水量を増やしますよね。あくまでも理論的に得られる最小水量ってことなんで。
まとめ Wrap-Up
その後、時が過ぎて Windows やら Office やら EXCEL が一般的になってからも似たような事は数回はやったかなと。ソルバー機能を使えば反復計算とかも全然大変では無いので非常に便利ですね。で、化工計算をしたらその結果に基づいて 例えば充填塔とかの仕様を決める必要が有りますが、そっちの方がもっと大変かな~と。ガス吸収に関する計算自体は純粋に化工計算なんですが、充填塔とかの仕様となると充填物の仕様とか運転条件とかが絡んでくるんで 正直手に余りますね。なので、餅は餅屋で専門メーカーに任せたほうが良いのかな~と思います。どっちみち製作する段になったら専門メーカーに相談しますよね。とは言え、これくらいの流量の排ガス中の有害成分をガス吸収で除去しようとなった時に、必要な水量はどれくらいかな?ってのは 概略でも良いので事前にやっておくべきですよね。それで、設備のスケール感とかが分かりますし。
参考書籍・文献 References
- 「Excel で化学工学の解法が分かる本」秀和システム 2009年刊
- 「増補 ガス吸収」 化学工業社 2001年刊
- 「化学工学便覧 改訂6版」 丸善 1999年刊
- 「化学工学便覧 改訂4版」 丸善 1978年刊
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