化工計算ツール No.92 管路の損失 Loss in Piping

 今回は管路の損失について取り上げてみます。このブログでも損失については取り上げています。「多孔板の圧力損失」、「金網の圧力損失」や「バルブの圧力損失」です。で、今回ですが 管路中に設置された拡大・縮小における圧力損失について計算してみます。拡大管とか縮小管とか呼ばれますし、ディフューザー Diffuser や レデューサー Reducer とも呼ばれますね。なんですが、テーパー部の勾配を急にするのか、それとも緩くするのかで圧力損失が違って来ますね。で、何故 圧力損失が違うのかと言えば 流れの剥離が起こったりする為です。当然ですが流れの剥離とかは無い方が良い訳で、その為にはテーパー部の角度はこれくらい!と言う目安が有りますね。まあ、レイアウト上の問題でどうしても急角度になるのであれば、その状態での圧力損失を知りたいですね。

実務においても何回か検討した事が有りますね。例えば、管路中に多管式熱交換器を設置しますが、入口と出口はテーパー管とします。まあ、短くすれば材料費も少なくて済みますし、フランジ面間距離が短ければ何かと便利です。ですが、そうすると流れが剥離して流れが遅い部分が発生したりします。これは長期間運転において問題になりますね、異物の発生源になったりして・・・。



管路の損失  Loss in Piping

管路における損失と言えば、代表的な配管要素として バルブ・エルボ・ティーなどでしょうか。この辺りについては化工関連の書籍には大抵載ってますね。ザックリと計算するのであれば十分ですが、より詳細にみるのであれば 例えば「拡大管・縮小管」が有ります。今回はそれらについて取り上げるんですが、現象的には「流路面積の変化」ですね。流路がギューッと絞られたり、逆にブワーッと広がったりとかですね。

✔ 急縮小・急拡大の場合  Sudden Constricted, Dilated 


① 急縮小   Sudden Constricted
ベッセルとかの底部には抜き出しノズルが有りますが これは 出口 Outlet です。太い容器断面から 細いノズル断面へと流れが絞られる事で損失が発生します。これは流路断面積が狭くなる場合の一例と捉える事が出来ます。と言う事で、このような急縮小における計算式は以下のとおりです。式①は損失ヘッド式で、出口流速 v2 と縮流係数 Cc により計算出来ます。若しくは、赤の囲み部分を 損失係数 ζ に置き換えれば 式②となります。また、損失ヘッド [m] は圧力損失と式③の関係にあります。で、縮流係数と損失係数は 下流・上流の断面積比 A2/A1 によって整理されますね。 とは言え、数式化されていないと不便なんで多項式近似してみました。



② 急拡大 Sudden Dilated
急縮小あれば急拡大あり、ですね。で、急縮小よりは話は簡単です。定数値 ξ ですが ほぼ 1なんですね。参考書籍によれば 0.93 ~ 1.08 との事で、下流側で偏心が大きい場合は 1 よりは偏奇するようですけど。であれば、同芯の場合は 特に問題は無いのかなと思いますね。




✔ 緩やかに縮小・拡大の場合  Reducer , Diffuser 


① 緩やかに縮小  Reducer
所謂 レデューサーですが話は簡単です。出口流速基準でエイッと計算すれば良いですね。そして、損失係数は 0.04 です。流れが絞られるので剥離とかも発生しませんしね。




② 緩やかに拡大  Diffuser
ディフューザーですが レデューサーほどには話は簡単では無いですね。下図にあるように角度が大きいと流れが剥離して逆流したりします。計算式自体は 急拡大の式⑤が適用出来ますが、問題は 係数 ξ がどんな値をとるかです。結論から言えば角度で整理した実験結果とか近似式があるんですね。まあ、角度の最大値は 180度で これは急拡大に該当します。で、180度では 係数 ξ = 1.0 ですね。そして、角度の小さいところでは係数値も小さくなります。下図グラフのオレンジ色実線は参考書籍に記載されている図から読み取って作成したもので、青色のプロットは実験式⑧による計算結果です。適用角度範囲は 7.5 ~ 35度ですね。まあ、両者は合ってますね。




計算例   Examples


✔ 急縮小とレデューサー Sudden Constricted , Reducer

レデューサーは管継手のひとつなんで規格品が有りますね。せっかくなんでデカいレデューサーで計算してみます。因みに、この鋼製レデューサーの重量は 193 [kg] です・・・。 





このデカいレデューサーに水をドカーんと流します。まあ、そうしないと流速がそれなりの値にならないので。で、結果ですが レデューサーにすると 圧力損失は 約1/5 になりますね。この違いは損失係数の大小によるものですね。レデューサーの損失係数は 0.04 一定で、一方 このレデューサーの断面積比から計算される損失係数は 0.206 です。なので、0.206÷0.04 = 5.15 となります。




✔ 急拡大とディフューザー  Sudden Dilated , Diffuser

ちょいと手抜きして レデューサーを逆向きにしてディフューザーとします。同じく 急縮小を逆向きにして急拡大とします。






まあ、同じ様に急拡大の方がディフューザーよりも圧力損失は大きいですね。で、その差は4.3倍くらいです。




✔ 比較   Compare

で、せっかくなんで全部比較してみます。ご覧のとおり、向きを変えてもほとんど差異は無いんですね。で、少し面白いのは 圧力損失を比較すると 急拡大 < 急縮小 なんですが、ディフューザー > レデューサー なんですね。





まとめ  Wrap-Up

今回は管路の損失として、急拡大・急縮小 及び ディフューザー・レデューサー の圧力損失を計算してみました。まあ、規格品のレデューサーを使用する限りは それほどの圧力損失にはなりませんね。と言う事は、独自に仕様を決定してディフューザーとかレデューサーを設置する場合にも、断面積比がそこまで過大・過小とならないように気をつけた方が良いですね。どうしても断面積比が大きくなる場合には、長~くする必要がありますね。

冒頭でも少し触れましたけど、実務では ポリマー配管の途中に多管式熱交換器を設置した事があって、その際に入口はディフューザーで出口はレデューサーにしましたね。で、その部分の長さというか角度ですが、あまり急角度にならないようにしましたね。実際には、CFD を使って速度分布とかを求めたりしましたね。まあ、ポリマー溶液なんで高粘度ですし、層流になってるんでだいたいピストンフロー的にグイーっと押し出されて行きますね。それでも、壁面付近の流速とかせん断速度がどれくらいになっているかを検証しておきたかったんですね。 まあ、圧力損失自体は 多管式熱交換器の伝熱管の方がよっぽど大きいんで、あまり気にしませんでしたけど。



参考書籍・文献   References

  1. 「演習 水力学」 森北出版 1981年刊
  2. 「管路・ダクトの流体抵抗」 日本機械学会編 1979年刊
  3. 「プラント配管ポケットブック 第6版」日刊工業新聞社 2002年刊




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