化工計算ツール No.108 撹拌におけるバッフル効果 Baffle Effect in Mixing

 今回は撹拌操作におけるバッフル効果 Baffle Effect について取り上げます。邪魔板とも言いますね。以前から思っていましたけど、名前があまり良くないですよね~「邪魔な板」とか。層流域で運転される撹拌槽では、絶対と言っていいほどバッフルは使いませんね。バッフルが有っても 有効に作用しませんし、そもそも ダブルヘリカルリボン Double Helical Ribbon などの 狭クリアランスタイプ Close Clearance type では、インペラブレードと槽壁面との距離が狭いのでバッフルを設置する事は物理的に不可能ですね。

と言う事で、バッフルが重要なのは乱流域での撹拌においてですね。まあ、普通はバッフルを付けますよね。なんですが、大抵の場合 「槽内径に対して 10%の幅を有する平板タイプバッフルを等配置で4枚設置する」ってのが一般的でしょうか。何故そうするのかと言えば、「完全邪魔板条件」Fully Baffled Condition が達成されるんですね。逆に言うと、それ以上 バッフルを設置しても 既に撹拌動力最大の状態となっており、個数を増やしても幅を広くしても意味が無い、となるんですね。

で、そのバッフル仕様なんですが 仕様決定において不明な点がいくつか有るんですね。思いつくのは以下の項目です。

  1. バッフル枚数                         Baffle Number 
  2. バッフル幅                            Baffle Width 
  3. バッフル厚み                         Baffle Thickness 
  4. バッフル クリアランス            Baffle - Wall Clearance 
  5. バッフル挿入深さ                   Baffle Depth 

1と2についてはこのブログでも取り上げた撹拌動力推算式を使えば対応可能です。3 については、正直不明です・・・。一般的にはSUSなどの鋼板を加工して製作するので、そんなに厚くはなりませんね。なんですが、伝熱面積として使う例も有ったんですね。中空のバッフル構造として、更に内部に配管を通すんですね。で、冷却水とかを通水します。どんどん太くしていくと いずれ丸棒になるかと思いますが、その場合の推算式は有りますね。このブログでも取り上げています。

で、問題は4と5ですね。槽壁面に隙間なくピッタリくっつけてある場合も、結構離して設置するのも両方見た事が有ります。また、挿入深さも液面から槽のTL, Tangential Line までズバーンと設置する場合が一般的かと思いますが、上の方だけに部分的に設置するってもの有りました。更に、すごく特殊な例ですが、バッフルの設置角度を変えてあるってのも有りました(しかも可変式)。普通は流れ方向に対して直角に設置しますけども。そんなこんなで、今回は4と5について少し計算してみようかなと。




撹拌におけるバッフル効果  Baffle Effect in Mixing


✔ バッフル効果  Baffle Effect


そもそも「撹拌槽には何故バッフルを設置するのか?」ですが、いくつか理由が有りますよね。参考文献には例えば以下の3点が挙げられています。

  • 目的に応じたフローパターンの形成
  • 動力、吐出流量、せん断速度などの流動特性の制御
  • 伝熱面積の確保

フローパターンについてですが、水などの低粘度液を撹拌すると「供回り」が発生するのは大抵のヒトは知ってますね。例えば、ラボでビーカー内の液体をマグネチックスターラーでグルグルかき混ぜると、普通に供回りしてますよね。まあ、ラボではわざわざバッフルは付けませんしね。んでも、より短時間で均一にしたいのであれば、あまり好ましくは無いですね。また、供回り状態では動力消費は大きくは無いですね。固体的にグルグル回っているだけなので。より早く、より均一に混ぜようとするのであればそれなりに動力を投入する必要があります。そして、伝熱面積を確保する為にバッフルを設置する場合も有りますし、伝熱コイルが結果的にバッフルとして作用する場合も有りますね。

✔ バッフルの無い場合のフローパターン  Flow Pattern without Baffles


参考書籍に記載されているバッフル無し撹拌槽におけるフローパターンは下図のとおりですね。図中の「供回り」している部分は「固体的回転部分」 Cylindrically Rotation zone と言いますね。槽内半径方向の速度分布も書いてますが、この固体的回転部分では速度値は直線状に変化するんですね。そして、この部分での角速度 Angular Velocity はどこでも同じなんですね。で、インペラの角速度ともほとんど同じです。更に、このような状態では液面が変形しますね。真ん中がグーッと凹んで、一方槽壁ではグイーっと液面が高くなります。甚だしい場合だとインペラが露出したりしますし、上部を開放している撹拌槽では液が槽から溢れ出したりしますね。インペラが露出すると軸受とかには致命的ですね。また、原料液などが槽外に飛び散ったりするのはこれまた問題ですよね。

で、解決策ですがバッフルを設置すれば確実に解決されますね。そして、そのような場合の動力推算式なども有るんですね。このブログでも何度となく取り上げています。なんですが、バッフル仕様としては 「バッフル枚数」と「バッフル幅」しか無いですね。




バッフル効果 計算式  Baffle Effect Calculation Equations


バッフル効果について、少なくともバッフル枚数とバッフル幅については考慮出来ます。まあ、それで大抵は事足りるんですが 例えば 「バッフルを少し短めに挿入した場合の動力はどれくらいなのか?」についても計算したいですよね。また、バッフルを槽壁にピッタリくっつけて設置した場合の影響とか。

✔ バッフル-槽壁 隙間の影響  Effect of Baffle-Vessel Wall Clearance

バッフルと槽壁面 クリアランスの影響についてですが、計算式は知りません・・・。なんですが、実験結果は有るんですね、以下のとおりです。で、よっぽど離して設置しない限りは関係無いんですね。下図を見ると 距離を槽内径に対して 0~0.2 の範囲では動力数 Np はほとんど変化していません。 なので、ピッタリくっつけても バッフル幅(槽内径の0.1) と同じくらい離しても動力は同じです。一般的な動力推算式は 距離ゼロを想定してますね。隙間があるとそこから液が逃げるんで 結構 動力に影響する感じもしますが、そうでも無いんですね。

下図にはディスクタービンを設置した場合を想定してインペラとバッフル配置を描いてますが、0.2 も結構限界ですよね。バッフルとインペラが結構近いです。こんな感じになるように設計するヒトは居ないと思いますね~。平面図でこれくらい近いと実際にはすご~く混み合っている感じだと思いますね。ブレードをバラしたり組み立てたりするのも一苦労かなと。

※ 丸棒バッフルの場合、クリアランス=ゼロにおいて最も動力数が大きくて、バッフルを離していくと低下すると言う実験結果が有ります。なんですが、C/D を 0.056 よりも大きくすると一定値になるようです。





✔ バッフル挿入深さの影響  Effect of Baffle Insert Depth


参考文献にはいくつかのインペラについて記載されていますが、最も一般的な傾斜パドル Pitched Paddle Impeller について紹介します。傾斜パドルの動力推算式自体はこのブログでも何回か取り上げています。んで、バッフル挿入深さについては 沢山ある計算式の中でたった1箇所に補正を加えるだけなんですね。以下のとおりです。

式⑮に (hB/H) の項が追加されているんですね。撹拌槽の液深さ H に対するバッフル挿入深さ hB の比率という形になっています。んで、参考文献によれば 下部Head については 「平底」Flat でも「皿型」Dished でも、特に補正などをしなくても使えるとなっていますね。





計算例  Examples


✔ バッフル挿入深さの影響  Effect of Baffle Insert Depth


では、早速計算してみますが バッフル-槽壁 クリアランスの影響については 前述のとおり 考慮しなくても良いですね。なので、バッフル挿入深さについて計算してみます。そこそこの大きさの撹拌槽に 槽内径 10% の平板バッフルを設置した場合とします。

計算結果ですが、動力線図は下図のとおりです。撹拌レイノルズ数 300 くらいまでは挿入深さに関係無く 同じ動力数となりますね、層流域なので。で、更にレイノルズ数が大きくなるとバラけてきます。レイノルズ数を 100万ともなるとほぼ一定値になります。で、その時の動力数を今度は無次元の挿入深さ hB/H に対してプロットしたのが下段グラフです。横軸は左端が 1 で これは液中全部にバッフルを挿入した状態です。右端はゼロですが、これは全くバッフルを挿入していない場合、即ち バッフル無し条件となります。

無次元 挿入深さが 1~0.4 くらいまでは、動力はそれほどには低下しませんね。そこから更にバッフルを引き上げると動力は急激に低下しますね。なので、バッフル挿入深さでバッフルの効き具合を調節する場合、ちょこっと引き上げたくらいではあまり意味が無いんですね。どうせやるなら、グイーっと引き上げないと。この撹拌槽に  2.0 [m]の液面高さとなるように常温の水を張り込んで、回転数 60[rpm] で撹拌した場合の動力はこんな結果となります。

  • バッフル挿入深さ 2.0 [m]   動力 2.16 [kW]  Pv 0.344 [kW/m3]
  • バッフル挿入深さ   0.6 [m] 動力 1.32 [kW]    Pv 0.210 [kW/m3] 

まあ、バッフル挿入深さは 2.0[m]のままで撹拌回転数を 51[rpm] まで下げると、同じ Pv は達成出来ますね。それはそうなんですけど、「回転数自体は変えたく無い!」と言う場合には有効な方法かなとは思いますけど。





✔ 撹拌時の自由液面形状   Free Liquid Surface Shape during Mixing


ついでに撹拌時の自由液面形状について計算した結果も載せておきます。参考文献中の一連の計算式を使うと液面の凹み具合とかが得られます。上記の撹拌槽・回転数でバッフル枚数を 0~4枚まで変化させた場合の結果です。

まあ、それらしい形にはなっているかと思いますけど。で、バッフルが無いと結構液面形状は変化するんですね。なんですが、1枚設置するとだいぶ平たくなります。んで、4枚設置すると もうほとんど平べったい液面となりますね。まあ、バッフルが良く効いていて 槽内において「供回り」は発生していないと思いますね。



 

まとめ  Wrap-Up

今回は撹拌におけるバッフル効果について計算してみました。要はバッフルの効き具合がどれくらいなのか?を推定したい訳なんですよね。「バッフル枚数」、「バッフル幅」 に加えて 「バッフル挿入深さ」について 動力がどの程度になるかを見積もる事が出来るんですね。これで大抵の用途には適用出来るんじゃないかな~と思いますね。

実務においても撹拌については いろいろと計算しましたね。ですが、バッフルについては「完全邪魔板条件」とするのが普通だったように記憶しています。若しくは、伝熱コイルを詰め込んだ際に バッフルとしてどの程度動力に影響するか?とかですね。で、冒頭でも触れたように槽の上部にだけバッフルがあって、しかも角度が可変型になってる場合には取り扱いに苦労しましたね。角度を変えた場合には、流れ方向に対する投影面積を使ってバッフル有効幅を算出して動力を計算したように記憶しています。いつもお世話になっている名工大グループには、「バッフル設置角度」の影響についても推算式を発表して貰いたいです。それと、無次元のバッフル挿入深さが 1.0 以下である場合、槽壁のどこら辺に設置するのか?と言う問題も有りますね。大まかに分けると 上の方、真ん中辺り、底の方でしょうか。この辺りについても研究されていて、大抵の場合は 高さ方向の位置はあまり関係無いようです。平パドル Flat Paddle と底部設置の組み合わせでは、フローパターンが特異な状態になるんで避けたほうが良いみたいです。

まあ、細かな仕様の影響については CFD でやっても良いですね。撹拌槽のジオメトリーってのはそこまで複雑という訳でも無いんで。ただ、誰でも出来る訳でも無いですし。10年くらい前には、将来はもっと一般的になるかな~と思ってたんですが そんな感じでは無いですね。


参考文献・書籍   References

  1. 「撹拌におけるバッフル効果」
       神鋼パンテツク技報 第36巻 第3号 1992年
  2. 「乱流撹拌槽の撹拌所要動力に及ぼす邪魔板挿入深さの影響」
       化学工学論文集 第37巻 第5号 2011年
  3. 「邪魔板のある撹拌槽における液自由表面形状の推定法」
       化学工学論文集 第30巻 第3号 2004年
  4. 「化学工学の進歩 42 最新ミキシング技術の基礎と応用」 三恵社 2008年刊















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