反応器を見たときの事

今から30数年前 化学企業に入社しましたが、まあ良い時代で1ヶ月ほどは新人研修が有りました。関東方面から関西を経由して九州方面まで順々に工場を見学して行きましたが、そこで初めて生産プラント規模の反応器を見ました。ポリスチレンの連続重合反応器でしたが、覗き窓から中を見ると、液面は真っ白でボコボコと泡立っていたんですね。「?」と思いましたが、引率の方に聞くと中の液は沸騰しているのだと・・・。何と言うかあの時のビックリを超えるビックリはその後のエンジニア生活でもほとんど有りませんね。

まあ、その後いろいろと仕事をしていく内にあれは潜熱除去方式の反応器で、重合熱を未反応モノマーや溶媒の蒸発によって除去しているのだとかが分かりました。それ以来、反応プロセス設計や反応器設計をしてきましたが、考えれば考えるほど良く考えられたプロセスだな~と思います。と言うことで、このタイプの反応器について実際に計算してみながら簡単にご紹介したいと思います。

この手の反応器の設計手法については1970~80年代にはいろいろと文献や書籍も多かった様に思いますが、それ以降はあまり見かけませんね。まあ、今さらポリスチレンのような汎用樹脂を国内で作っても儲けがほとんど無いので時代の趨勢なのかなと思いますけど。


物質収支

で、このような反応器1基のみの重合プロセスを考えます。スチレンモノマーの熱重合なので、100℃以上に温めるとそれなりに開始ラジカルが発生して重合が進行します。反応器は連続式完全混合槽型で非満液タイプです。




一般的には原料には溶媒を混ぜますが、ここではスチレン100%とします。供給流量は 3000[kg/hr] で反応温度 140[℃]、反応率(転化率)は70[%]とします。温度と転化率を決定すると重合速度は決まってしまいます。文献等を調べると Hamielec Model の重合反応速度式が出てきます。重合速度は本来は [kmol/m3 sec] といった単位で表わされますが、ちょいと変換して単純に [%/hr] とする事も可能です。1時間に仕込みの何[%]が重合するのかと言う事なので直感的に理解しやすいですね。この例では、13[%/hr] 程度となりますので、反応器内 転化率 70[%]を割り算をすると、時間の次元 [hr] が残ります。この値がいわゆる平均滞留時間なので、更に供給流量を掛け算すると反応器内の滞留重量となります。


反応器 寸法

重量だけでは反応器の大きさが分からないので、液密度で重量を割り算して体積とします。この例では16.17[m3] となりました。更に、非満液タイプなので上部には気相部を有していますが、液相部は全体の70[%]程度とするのが一般的です。で、全内容積を 24[m3] として反応器寸法を描いてみると以下のようになりました。



上下のHeadは2:1半楕円とし、直胴部の直径Dと長さLの比率 L/D は1.5としています。1だとずんぐりむっくりになりますし、2だとだいぶ細長い感じになります。人物の絵も併せて描いていますが、この手の反応器としては小さめでしょうか。

熱収支

さて、潜熱除去方式と言うくらいなので反応熱がどの程度なのか、と言うか熱収支を計算する必要があります。と言っても、それほど面倒では無くて、この反応器における熱の出入りを計算すればOKです。



図にあるように、供給液が持ち込む熱量、排出液が持ち去る熱量 そして重合熱を各々計算して収支をとると、値が残りますがそれが冷却負荷であり冷やさなければならない熱量です。この冷却負荷を除去してあげないと反応器内の温度を維持できません。そればかりか、徐々に温度が上昇し、そのままにしておくと更に温度が急上昇していわゆる暴走反応状態となります。ここで内圧が甚だしく上昇すると、例えばノズルのフランジ部からベーパーが漏出し、近くに着火源があれば最悪爆発してしまいます。そこで、そうはならないように内圧を開放する安全弁を設置しますが、そのサイジングにおいて暴走反応の発生を想定して噴出量を推定したりします。

蒸発量

さて、熱収支から冷却負荷が得られたので、これを使って潜熱除去に必要な蒸発量を求めてみると以下のようになります。必要なのはスチレンの蒸発潜熱[kJ/kg] であり、この値で冷却負荷[kJ/hr] を割り算すれば蒸発量 [kg/hr] となります。



今回の例では 蒸発量 2202 [kg/hr] となりました。毎時 2.2トンのスチレンが蒸発する事になりますが、蒸発するだけでは反応器の中身が空っぽになるので凝縮させて反応器に還流させます。図ではその為の還流凝縮器を設置しています。発生した蒸気は配管を通過して凝縮器に入り、そこで液体へと相変化し反応器に戻ります。この図では凝縮器を反応器の上部に設置し、凝縮液は重力により反応器に還流するようにレイアウトしています。

とまあ、このような感じで潜熱除去方式 重合プロセスの概略仕様を考えてみました。次回はこの結果をもとにして、技術的な項目をいくつかご説明しようかと思います。

※ 2022.4.24 結果を少し見直して修正しました。



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