前回からのつづきですが、今回は物質収支の計算に必要な重合速度についてご紹介します。
熱開始 重合速度式
久しぶりに重合速度式の資料を引っ張り出して見ていますが、だいぶ忘れていました・・・。で、熱開始重合の重合速度式ですが例えば以下のように表わされます。
熱開始重合なので過酸化物などの開始剤は使用しておらず、従ってその項は有りません。見てわかるように、温度とモノマー濃度(あるいはポリマー重量比率)のみから重合速度値が求められます。因みに、開始速度 ri を開始剤重合のそれに変えれば開始剤開始による重合速度式となります。
塊状・溶液重合におけるゲル効果
式の後半部分はゲル効果であり、転化率の上昇に伴って停止反応速度が低下する現象を表わしています。詳しくは高分子関連書籍に記載してありますが、転化率が上昇してポリマー鎖が互いに絡み合うようになると、活性なポリマーラジカルの拡散移動が阻害され、再結合による停止反応速度が遅くなり、結果として重合速度が高いまま維持されると言う事のようです。もちろん、モノマー濃度自体は減少しているので重合速度も減少しつづけていますけど。この辺りを見てみようかと思い、転化率を変えて重合速度を計算した結果を以下に示します。
ゲル効果を加味しないと重合速度をだいぶ低めに見積もってしまいます。その分、必要な滞留時間が増加し、結果として反応器が大きくなってしまいます。多少であれば設計の余裕分として取っておくと言った事も有るかと思いますが、ここまで差があるときちんと計算して、反応器仕様を決定すべきかと考えます。
転化率・温度の重合速度への影響
併せて転化率を一定として温度を変えた場合の計算結果を示しています。両方の結果を見て言える事は、スチレンの熱重合の場合 温度が低すぎたり、転化率が高すぎると重合速度が極端に遅くなり、必要な滞留時間すなわち反応器が非現実的なまでに大きくなりすぎるので選択すべきでは無いと言う事になります。じゃあ、転化率が低いところで高い温度で重合するのは良いのか?って事になりますが、その場合 得られるポリマーの分子量が極端に低くなり、成形した際に強度が不足するので使えないと言う事になります。加えて、転化率が低すぎると後段の未反応モノマー分離工程の負荷が過大となり、エネルギー消費の観点からやはり非現実的となってしまいます。何事もバランスが重要という事でしょうか。
次回は反応器 設計方程式について紹介します。
参考文献
"設計ガイド 重合反応装置" 嶋田・小笠原 化学工学 第53巻 第8号 597ページ 1989年
"重合反応工学演習" 高分子学会 培風館 1974年
"ラジカル重合反応の操作設計" 尾身信三 アイピーシー 1993年
コメント
コメントを投稿