反応器 設計方程式

 更に前回からのつづきですが、今回は設計方程式について少しご紹介します。


CSTR 多段連続操作 設計方程式

反応工学の教科書を見ると、完全混合槽型反応器 CSTR の多段連続操作における物質収支 基礎式は以下のように表わされます。j番目の反応器に注目すると、定常状態においては流入した反応物量と流出する反応物量の差は反応器内で生成した反応物量に等しい、と言う事になります。ここで、流量は体積ベースであり本来は転化率によって変化しますが、簡単に考える為 常に一定とします。そうすると、下図に示すように各反応器の平均滞留時間θ を表わす式が得られます。




CSTR 1槽連続操作 設計方程式

更に、今 考えているのは1番目の反応器であり、流入するのは原料モノマーだけで転化率はゼロなので以下のように単純な式となります。因みに右辺と左辺の各項の次元を確認すると、どちらも時間の単位となっています。ここで、流量、初期濃度 及び 転化率は設定条件であり、更に温度を設定すれば重合速度も決定可能です。となると不明なのは反応器滞留量 V1 のみであり、極めて簡単な計算で求められます。


ここで、転化率の単位を [%] としてグラフの横軸にとり、重合速度の単位には [%/hr] を用いて 逆数 [hr/%] とした上でグラフの縦軸とします。両者の関係をプロットすると右上がりの曲線となります。この曲線上にある1点では 転化率 XM1[%] とそれに対応する 重合速度の逆数 1/-rM1 [hr/%] となっていますが、両者を掛け算すると [hr] となり、これが平均滞留時間θ1 となります。これを図式的に描けば上図に示すようにハッチングしてある長方形の面積と等しいと言う事になります。平均滞留時間が得られたので、これに流量を掛け算すれば滞留量 V1 が得られます。

計算例

今回の設計例条件で実際にグラフを描いてみると以下のようになります。Rp は -rM と同じ重合速度です (Rate of Polymerization)。 ここでは反応器1槽の結果に加えて2槽の結果も併せて示しています。1槽の結果はまあ当然として、2槽の結果ですが平均滞留時間を示す長方形が2つ並んで描かれています。最終転化率は 70% に設定していますが、1槽目転化率は任意に設定することが出来ます。ただ、1槽目と2槽目の反応器の大きさが異なると言う事は製作費が割高になるので、ここでは同じ滞留時間になるように計算しています。


反応器2槽の場合、トータルの滞留時間は 3.74[hr] となっており、これは 1槽 5.21[hr] よりも小さく、従って滞留量も小さく 反応器容積も小さくなる事が分かります。今回の場合、大体3割は小さくなるようです。これを更に3槽とすればトータル滞留時間も更に減少します。が、その分 撹拌機やら反応液移送用ポンプといった付帯設備・機器が必要となり初期投資が増加し、あまり得策とは言えなくなります。そんなこんなで、1・2・3槽のどれにするかと聞かれれば まあ2槽くらいにしておきましょうか、となるのかなと。

もちろん、敢えて1槽にして大きな反応器とすると言う選択も有ります。例えば共重合反応器では得られるポリマーの組成が重要になりますが、複数の反応器で重合すると各槽内のモノマー組成が逐次変化する事になり、結果ポリマー組成も分布を有する事になります(液クロなどで実測可能)。まあ平均組成が目標範囲内であればOKと言う場合も有りますが、どうしても組成分布を抑制したい場合には1槽を選択する場合も有ります。複数反応器であっても、モノマーを追加添加して組成の変化をキャンセルすると言った方法も有るにはありますが面倒臭いですし、各槽の転化率をリアルタイムで把握するのは結構大変です。プロセス粘度計を反応器出口配管に設置しておいて、転化率と粘度の関係から推定する方法もあるようですが。パイロットプラントで使ってる例を知ってますが、不調だったようで結局使わなくなった様に記憶しています・・・。

完全混合槽型反応器 CSTR を用いる場合のプロセス設計は比較的簡単な数式で実施できるので、反応工学の勉強にも有用かと思います。これが 管型反応器 PFR になると積分操作が必要になって来るので、反応速度式が複雑な重合反応ではややこしくなります(まあ数値的に解けば良いですが)。 

今回はこの辺りにして、次回は熱収支の詳細についてご紹介します。



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