反応器 潜熱除去方式その3 気泡上昇速度

 前回は潜熱除去方式における蒸発蒸気量を計算してみました。反応器 気相部については、まあスチレンの蒸気がスーッと上昇するだけなので、所謂 空塔速度でも出してみて過大で無ければOKなのかと。ですが、液相部については良く分からないと言う事でした。とは言うもののブラックボックスなのも気持ち悪いので少しは技術的に見ていこうかなと思います。


気泡上昇速度

液中で発生したスチレン蒸気は気泡となっています。サイトグラス(覗き窓)から覗いてみると液が白濁しているので気泡を含まれているんだなとは分かります。液中に泡が有ると言う事はそこには気液の界面が有るので、そこで光が乱反射して濁ると言う事ですね。因みに、反応器のサイトグラスは必ず対面に2つ設置して、1つは採光用というか光を入れる方で、もう1つ反対側のサイトグラスから中を覗き見ます。視野はそんなに大きくなくて、せいぜい直径100[mm]ぐらいでしょうか。なので、うまく場所を選定しないと肝心の場所が見えないよと言うか、大体見たいところはなかなか見えないと言うのが反応器あるあるですね。


気泡の大きさは正直良く分からないですが、大きさを仮定すればその気泡がどれくらいの速度で上昇するのかは計算出来ます。ある大きさの気泡が有って、その気泡が静止している液中を上昇する速度は以下の計算式を使って計算出来ます。


大抵の化学工学関連の書籍には記載されていますね。終末速度 Terminal Velocity の計算式で、気泡レイノルズ数によって適用出来る式が変わります。今回は気泡なので上方にあがりますが、もし液よりも重い粒子であれば沈降します。液粘度が高いとか気泡が小さい層流域であればストークス式が適用されます。適用レイノルズ数は2以下であったり6以下だったり、書籍によって違ったりします。今回は6としていますが、培風館の基礎化学工学ではそうなっていました。

空気 - 水

せっかくなので、水中に空気の泡をおいた場合の上昇速度を計算した例をご紹介します。気泡直径を変えて上昇速度を計算しています。計算条件は以下のとおりです。

  • 空気 密度    1.2 [kg/m3]
  • 水 密度    1000 [kg/m3]
  • 水 粘度   0.001 [Pa s]


気泡径 0.001 [mm] 即ち 1 [μm] であれば、毎秒 1[μm] も上昇しないですね。層流域なのでストークス式を適用します。これが 気泡径 1[mm] となると、毎秒 100 [mm] 程度は上昇します。炭酸飲料をグラスに注ぐと泡がシュワシュワ出て上の方に動きますが、イメージ的にはこんなものなのかなと。この領域は 層流と乱流と間の遷移域となり アレン式が適用されます。更に気泡を大きくして 100 [mm] とすると毎秒 1[m] 以上も上昇します。本当はこれだけ上昇速度が大きくなると気泡が変形し、キノコ形となったりして球形では無くなるので、終末速度も変わってきますが今回は球形を維持すると仮定しています。まあ、水のような低粘度液であれば、気泡はスーッと上がってしまい液中に長時間留まる様な事は無いね、と言えます。

スチレン - ポリマー溶液

で、次はネバネバのポリマー溶液とスチレン蒸気泡との組み合わせで、同じ様に計算した結果を以下にご紹介します。

  • スチレン蒸気 密度 2.68 [kg/m3]
  • ポリマー溶液 密度 967 [kg/m3]
  • ポリマー溶液 粘度 138 [Pa s]


グラフの縦軸目盛りは空気-水と同じにしてあります。結果を見ると、数ミリ以下の小さい気泡はほとんど上昇しないですね。で、気泡径 100 [mm] まで大きくしてみると 上昇速度は やっと毎秒 38 [mm]となります。1秒経っても自分の直径ほども上昇しないと言う事ですね。と言う事は、気泡は液中にずーっと留まり続けるので、液は気泡を大量に含んだ状態になるものと考えられます。今回の例では、反応器 液深さは 下部 TL から 2729 [mm] なので、この深さに気泡を置くと 液面に到達するまで 73 [sec] もかかります。水の場合は 数秒で液面に到達するので、全然違いますね。


で、何を言いたいのかというと、今回の例のようなポリスチレン重合反応器では発生した気泡が液中に留まり、結果 見掛けの液面位置が上がるものと考えられます。気泡が大量に含まれる事で嵩が増える訳ですね。まあ、多少見掛けの嵩が増えても液面位置は少し上ったかな~ですみますが、その程度が激しければ液面位置が極端に高くなり、反応器 上鏡板に到達してしまうとそこでアウトとなります。ノズルやら蒸気上昇管が、ベチョベチョのポリマー溶液で閉塞してしまいますので・・・。泡立ったポリマー溶液が反応器のサイトグラスまで到達し、中が全く見えなくなるとかは最悪過ぎて考えたく有りません。

という事で、次回はじゃあ実際はどうなのかについてご紹介します。

参考文献

「基礎化学工学」増補版 培風館 2021年刊







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