反応器 熱収支 つづき

 前回は冷却負荷 (単位体積当たりの冷却負荷) を計算してみましたが、その大小については特に言及していませんでした。なので、今回はそれについて触れたいと思います。前回算出したのは冷却すべき負荷でしたが、一方 冷却出来る能力はどの程度なのか? と言う点が重要です。まあ、結論から言えば 潜熱除去方式 一択となりますが、それ以外の方法の可能性について説明します。


顕熱除去方式による冷却能力

一般的には冷たい媒体をジャケットやコイルなどの伝熱面 裏面に通液し、内容液と媒体との温度差によって熱移動を行なわせます。顕熱除去方式と呼ばれる方法ですが、この場合の熱移動量 [W] は、総括伝熱係数と温度差及び伝熱面積の積によって求められます。また、熱移動量を反応器 内容液量で割り算すれば、単位体積当たりの冷却能力 [W/m3] が得られます。

 
それで冷却負荷ですが、この冷却負荷と上記冷却能力が等しくなるようにすれば、反応器 温度は上がりも下がりもせず 一定に維持される事になります。また、この時の総括伝熱係数の値は別途概略値を設定可能です。更に温度差については自分で設定可能ですが、常識的な値は大体決まっています。ですので、必要な冷却負荷に対して 必要な冷却能力 即ち 設置すべき伝熱面積 (単位体積当たりの伝熱面積) が得られます。


顕熱除去方式における必要伝熱面積

今回の例における必要な伝熱面積を算出してみます。冷却負荷は13.58を丸めて 14[kW/m3] とします。総括伝熱係数は内容液の粘度が高いのでこの程度かなと(機会を見つけてまた別途ご紹介します)。温度差は 20[K] とします。もっと大きくしても良いですが、冷やし過ぎはこの場合禁物です。反応器 内表面温度が下がりすぎると近傍の液粘度が大きくなり、簡単に言うと "皮" が出来て大きな熱抵抗となり非常に芳しく有りません (スキン効果と言われます)。

    • 冷却負荷     14    [kW/m3]
    • 総括伝熱係数   50    [W/m2 K] = 0.05 [kW/m2 K]
    • 温度差      20    [K] 
    • 必要伝熱面積         14    [m2/m3]

計算してみると、単位体積当たりの必要伝熱面積は 14 [m2/m3] となります。この値に反応器 内容積 16.17[m3] を掛け算すれば 226[m2] となり、これが反応器内に実際に設置すべき伝熱面積値です。 


反応器 コイル設置例

反応器 寸法は何回か前に示したとおりですが、いわゆるジャケット(外套) のみでは伝熱面積は全く不足します。なので、螺旋状のコイルを内部に設置して追加伝熱面積とします。ジャケットとコイルの合計が全伝熱面積となります。


外径 165.2 [mm] のパイプ (150A)を曲げ加工して螺旋状とし、何巻か積み上げて設置します。上記例ではコイル設置径を 1,800[mm] として 8[巻] 積み上げています。で、この場合のコイル表面積 (外径基準) は 7.47 [m2] となりました。これにジャケット伝熱面積を加えると 36.44[m2] ですが、前述の必要伝熱面積 226[m2] には全く足りませんね・・・。もっと伝熱面積を稼ぐために、コイルを二重三重に重ねてぎゅうぎゅうに詰め込む方法もありますが 、水のような低粘度液ではまあ可能でしょうが、今回のような高粘度液では液の流動が阻害され非常にマズい事になります。まあ、そんなこんなで 一般的な顕熱除去方式の適用は不可能であると判断せざるを得ませんね。

全く別のポリマー反応器でコイルを二重三重では無く 十重二十重くらいに詰め込んだ事例を知っていますが、液粘度自体はだいぶ低いものでした。こんなのも有るんだなーと思いましたが、まあ非常に特殊な例だと思います。

と言う事で今回は冷却能力についてご紹介しました。次回は潜熱除去方式の詳細についてご紹介します。


参考文献

"Temperature Control of Continuous, Bulk Styrene Polymerization and the Influence of Viscosity"  Louis S. Henderson, III, and Ricardo A. Cornejo

Ind. Eng. Chem. Res. 1989,28, 1644-1653






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