反応器 熱収支 つづく

 反応器 熱収支でまだ言いたい部分が有るので、それに触れておきます。量産反応器のスケールでは熱の除去がボトルネックになるのですが、内部にコイルを設置しなくても良い方法が有ってそれは反応器をすごく小さくする事です。これは反応器のスケールアップにも関連する事なので以下に検討例を示します。


反応器 熱収支のおさらい

前回説明したように冷却負荷と同じだけの冷却能力を反応器が有する必要が有り、現実的な条件を設定した上で 単位体積当たりの設置すべき伝熱面積 AJC/VW[m2/m3] を計算すると 14 [m2/m3] でした。


反応器を小さくする

で、次に反応器の容積を小さくして、その際の反応器 寸法を用いて伝熱面積(=接液部面積) を求めてみます。反応器内径と円筒部長さとの比率は 1.5 で一定とします。計算結果を以下に示します。簡単の為に、コイルは設置せずジャケットのみを考えます。


両対数のグラフとなっていますが、見てお分かりのように反応器 容積が小さくなると単位体積当たりの伝熱面積は大きく増加します。グラフ中の赤い線で強調した値は A/V が 14[m2/m3] 程度となっている条件であり、反応器 全内容積は 0.05 [m3] 即ち 50リッターです。だいぶ小さいと言うか、まあこれはパイロットプラントにおける反応器のサイズですね。図にしてみるとこんな感じです。


この程度の反応器であれば、今回の運転条件における冷却負荷であっても内部にコイル等の伝熱面積を追加せずに運転出来る事になります。が、反応器 24 [m3] を 0.05 [m3] までスケールダウンする必要があり、これは容積比で 480分の1 です。逆に言うと、この小さい反応器を使って同じ生産量を維持しようとすれば、480個 設置しなければならないと言う事です・・・。まあ、これはこれで無理ですね。

反応器スケールの影響

量産スケールの反応器において、冷却媒体を用いた温度制御を実施する限りこの問題は常につきまといます。実際、実機スケールの乳化重合反応器を設計した際には、冷却負荷をクリアする為に追加伝熱面として バンドル (伝熱管を束ねたもの) を複数個設置しました。乳化重合では反応媒体は水であり、そこまで液粘度が高いわけでも無いのでデッドスペースの発生は少ないものと考えましたが、それでも反応凝集物の発生・付着が懸念されたのでそれなりに悩みました(伝熱管の配置や間隔)。その後、その反応器は建設、試運転を経て商用生産を開始しましたが、伝熱管に酷い付着物が蓄積して全然運転出来ませんでした、と言う事にはならなかったのでだいぶホッとしましたね。

まあ、詰まるところ反応器のスケールアップにおいて、容積は内径の3乗に比例して増加するが面積は2乗に比例して増加する、と言う事ですね。結果、デカくすればするほど伝熱面積は不足してしまう事になります。まあ、温水を保管する水槽などではなかなか冷めにくいと言う利点になるかと思いますが。恐竜があれだけ巨大化したのも、体温を維持する為だったとか聞いた事が有りますが、なるほどね~と思います。もう一つ余談を言うと、パイロットプラントの反応器では放熱等の影響で冷え過ぎる傾向が有り、ジャケットに通液する媒体温度を反応器の内温より少し高めにし、逆に加温する事で安定的に運転出来てました。まあ、そうすると反応器 接液部での重合速度が大きくなり、ポリマーが付着してしまう難点が有りました。

で、次回はやっと潜熱除去方式の詳細に入れるかなと。



コメント