反応器 液物性について

 反応器 潜熱除去方式について詳細に入ろうかと考えましたが、その前に液物性について簡単に触れておきたいと思います・・・。ここで紹介している溶液重合の反応器においては、転化率の増加に伴って液物性が大きく変化します。密度なども変化しますが、こと粘度についてはスチレンモノマーのシャバシャバの状態からポリマーのネバネバの状態へと劇的に変化します。今回の例で参考にしている文献には密度、粘度の計算式が記載されているので、それを用いて計算した結果をご紹介します。


液密度

ポリスチレン溶液 (ポリマーとモノマーの混合液) の密度は、温度と転化率の関数となっており、以下のように計算されます。グラフの縦軸は液密度で横軸は温度であり、転化率を変えて計算しています。

同じ転化率であれば、温度が上がると密度は低下します。また、同じ温度であれば転化率が大きくなると密度も大きくなります。今回の例である 140[℃] 、転化率 70[%] であれば 液密度は 967 [kg/m3] となります。



液粘度

また、ポリスチレン溶液の粘度ですが、以下に計算結果を示しています。グラフ縦軸は液粘度、横軸は温度、転化率は 40から 80[%] まで変化させて計算しています。液密度と異なるのはグラフの縦軸で対数目盛りとなっています。結果を見ると、同じ温度では転化率が10 [%] 増加すると液粘度は約10倍増加します。今回の例では 温度140[℃]、転化率 70[%] では 138 [Pa s] となります。スチレンモノマーの常温での粘度は 0.001 [Pa s] も無いのでポリマーになることで粘度が10万倍にも増加する事になります。 


液比熱

今回の例では液比熱はモノマーでもポリマー溶液でも同じ値 1.88 [kJ/kg K] としていますが、本来は温度と転化率で変化します。別の文献に記載されていた計算式を用いて計算した結果を以下に示します。液比熱については転化率の影響は大きくは無いですね。また、今回の条件 140[℃]、転化率 70[%] では 液比熱は 2.07 [kJ/kg K] と計算されましたが、1.88 [kJ/kg K] とは少し差異が有ります。物性については文献や参考書籍によって結構異なる場合も有り、こればかりは何ともなりませんね。まあ、設計実務においては仕様(寸法) が小さくなる様な物性は使わないのが一般的かと思いますが。


液 熱伝導率

顕熱除去方式では液の熱伝導率が重要になりますが、計算結果を以下に示します。比熱と同じ様に、転化率の影響はそれほど大きくは無いです。


とまあ、こんな感じです。ポリスチレンと言っても所詮は有機物なので、まあ一般的な化成品と同じ様な物性値となります。ですが、一般的な化成品との違いはやはり液粘度の劇的な変化でしょうか。反応器でも結構な高粘度になりますが、より下流の工程では更に2桁ほど粘度が上昇します。まあ、最後はカチコチのポリマーになる訳なので当然と言えば当然ですが。

次回に続きます。

※ 2022年5月13日 追記 物性計算式を追加しておきます




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