反応器 撹拌その2

 前回からのつづきで、撹拌機 インペラ型式と性能についてご紹介します。下図は前回も紹介しましたが一般的なインペラ型式です。


型式は大きく低粘度用と高粘度用とに分けられますが、水や有機溶媒のようなシャバシャバした液体を撹拌するには比較的直径の小さなインペラが使用されます。一方、水あめやハチミツの様なネバネバした液体を撹拌するには槽内に大きく広がったインペラを使用します。という事で、一般的なインペラについて一個づつ見ていこうかと。


フラットパドル Flat Paddle 傾斜パドル Pitched Paddle

シャバシャバの液を混ぜるのであれば、まず検討するのはパドルになるのかなと。古い文献では櫂型などと書かれていますが、平べったい板をリブに何枚かくっつけるタイプとなります。パドルが垂直であればフラットパドルとなり、斜めになっていれば傾斜パドルとなります。量産プラントではフラットはあまり使わないと思います。文献では時々見かけますが、実験結果の検証のしやすさを優先しているのだと思います。一方、傾斜パドルは下向きの強い流れを生み出せるので槽内全体の混ざりも良いし、まあそこそこ剪断もかけられるので便利ですね。パドルの傾斜角は45度が一般的です。45度になっていない例もごく稀にありますが、何か理由が有るのだと思います。

板を切り出して斜めにして溶接すれば出来るので製作費が安価なのが重要でしょうか。小さめの槽であればインペラ1個のみを設置しますが、大きくなれば複数個設置して多段化します。乳化重合反応器では傾斜パドルを2段として設計した経験が有ります。


プロペラ Propeller 


プロペラってのは推進機の事ですが、飛行機のプロペラに形が似ているからこう呼ぶのかなと。まあ、飛行機では空気を動かしますが撹拌機では液体を動かします。そうであれば船舶のスクリューのほうが近いような気もしますが。液を軽く混ぜたいな~と言う用途では一般的かなと思います。現場作業などで手持ちミキサーを使って一斗缶のペンキとかを混ぜているのを見ますが、先端に付いているのは大抵はこのプロペラですね。パドルでも良いのでしょうけど、直径が大きくて持ち運びにくいとか角があるとぶつかって危険とかの理由があるのかなと。

タービン Turbine


水車とか発電機の羽根車に似ているのでこの名称だと思います。ただのタービンだとフラットパドルと同じになりますが、タービンはディスクと併せてディスクタービンとして使用する場合が多いですね。比較的高い回転数で使用されるので液液分散などに使用されます。ディスクが有ると気体を吹き込んだ際の「すっぽ抜け」が防止されるので、気液分散用途にも多く使用されているようです。ブレードを傾斜させて傾斜タービンも有ります。


後退翼 Retreated


後退翼ですが、ファウドラーと呼ばれる例が多いですね。後退翼なのでブレードが少し湾曲しており、ブレード先端が根元より後ろ側にあるので後退翼です。ファウドラーというのは米国ファウドラー社の事だと思いますが、この会社が製品として世に送り出したのだと思います。このタイプが他のインペラと少し違うのは、槽底部に近いところに設置する点です。パドルやプロペラ、タービンは底部からは少し離れた位置、大抵は下鏡板と直胴部との繋ぎ目である TL (Tangential Line) に合わせて設置します。一方、ファウドラーは出来る限り底部に近づけます。大抵は1段で使用されますが、2段で使用する例も時々見かけます。撹拌機メーカーの方から聞いた話では、ブレードを通常よりは厚くしてそこに冷却水の流路を製作し、冷却水を流す様にした事もあるんだとか。通水部のシールが大変そうですね。

と、ここまでは低粘度用インペラですが、以下は高粘度用インペラです。

アンカー Anchor


古い文献や書籍では錨型となっています。船のイカリと似ているのでアンカー Anchor ですね。低粘度用と高粘度用での大きな違いが直径です。高粘度用では槽内に大きく広がった状態となっており、ブレードと槽壁との距離が近いです。考えてみれば、液粘度が大きいので容易には壁面近傍の液は動かないですね。なので、無理やりブレードを近づけて壁面近傍の液を動かすというか、「掻き取る」ようなイメージでしょうか。ブレードと壁面との距離は クリアランス Clearance と呼ばれ、量産反応器で 数十[mm] まで狭くする場合が有ります。反応器の内径が 3,000 [mm] であっても クリアランス 30 [mm] と言うのも有りですね。で、このアンカーですが構造が簡単なので結構使われます。ただし、壁面の掻き取り効果は有りますが、槽内の循環効果は小さいです。

ヘリカルリボン Helical Ribbon



で、アンカーのブレードをネジの様に螺旋状にして送液効果を持たせたのが、この ヘリカルリボン Helical Ribbon です。普通は上図のように螺旋を二重にして ダブルヘリカルリボン Double Helical Ribbon とします。で、リボンブレードだけだと構造を維持できないので、シャフトからサポートアームを伸ばしてリボンとつなげる事で強度をもたせます。高粘度用といえば、個人的な意見ですがこのダブルヘリカル 一択かなと思います。ただ、まあアンカーよりは複雑なのでお値段は高いです。小さい規模であれば反応器 缶体にフランジを設置して、上部をフルオープンとすれば予め組み立てたインペラをスッポリと入れ込めますが、大きな反応器では難しくなります。なので、ヘリカルリボンを 1/4周分づつ 反応器のマンホールから搬入し、槽内で組み立てます (多分)。だいぶ大変ですよね。

スクリュー Screw


ヘリカルリボンのリボンブレードをシャフトの方に伸ばしていくとスクリューになりますね。液の逃げが無いので送液効果は更に大きくなります。反応器に適用している例も有るには有りますが、だいぶ用途を選びます。一方、樹脂の混練などで使用する押出機 Extruder では筒状のバレルの中にこのスクリューが設置されており、強力に溶融樹脂を送液・吐出します。反応器でスクリューを使う場合には、必ず戻りの流路を作っておかないと循環流れが形成されません。なので、例えば 反応器の中央にドラフトチューブを設置し、その中にスクリューを設置します。スクリューからの吐出液はドラフトチューブの外側を反対方向に戻り、またスクリューに吸入されます。こうすると一方向の強い流れが形成される事になります。

と、インペラタイプの説明だけで長くなってしまったので、各インペラの性能についてはまた次回ご紹介します。

参考文献

「新増補 混合および撹拌」 化学工業社 2000年
「化学工学の進歩34 ミキシング技術」 化学工学会編 2000年
「化学工学の進歩42 最新 ミキシング技術の基礎と応用」 化学工学会監修 2008年
「最近の化学工学44 ミキシング 変貌する撹拌・混合技術」 化学工学会編 1992年
「最近の化学工学66 多様化するニーズに応えて進化するミキシング」 化学工学会編 2017年


追記 2022年6月6日

各インペラの絵ですが一応自分で描いています。2Dよりは3Dだろと言うことで、新しく描いていますが、ソフトウェアとしては "FreeCAD 0.19" をちょこちょこ勉強しながら使っています。前は "SketchUp" を使っていましたが、だいぶ前に商用ソフトウェアとなりました。その前は、Google が開発しており完全にフリーだったんですけどね。

この "SketchUp" ですがブラウザベースであれば今でもフリーで使用出来ます。ざっとラフに描く時は "SketchUp" の方が今でも使いやすいと感じています。コマンドとかも普段使うものはそれほど多くはなく、かつ直感的なので使いやすいですね。対する "FreeCAD" の方は拘束とかパラメトリックとか厳密では有りますが、少々癖があると言うかすぐに絵にしたい時は少し歯がゆいです。その反面、いろいろは機能が有りまして上記のダブルヘリカルとかスクリューをチャチャっと描けるのには感動しました。フリーなので不安定なのかなと懸念していましたが、まあ上記のような複雑なモノで無ければまず落ちませんね。デスクトップパソコンのCPUは Core i3-7100 とそこそこ前のもので、グラフィックも内蔵GPUのままですが特に問題は有りません。と言いつつ、アマゾンでお手頃価格のグラボを物色していますけど・・・。

"SketchUP" は基本的なコマンド・機能は有りますが、込み入った絵を描きたい場合はアドインなどが必要になるので、それを探してくるのが面倒でした。今のフリー版はごく基本的なモデリングしか出来ないようなので、3D CAD ってこんな感じだよ程度にしか使えないのかなと。なので、"FreeCAD" に手を出した訳なんですけどね。ただし、独習しよう!と言う時の参考書はほぼ無いです(アマゾンにいくつか有ります)。なので、ネットにアップされている記事や Youtube のレクチャー動画を見て勉強する事になります。

まあ、それでも一昔前は 3D CAD がフリーで使える様になるとは思いもしませんでしたが、その点は良い時代になったなと。3D プリンタとかが出てきて裾野が広がったのが要因のひとつかなと思いますけど。因みに、CFD とかも少し齧った経験がありますが、そこでも 3D モデリングが必要となります。例えば ANSYS社の "Fluent" Student 版は現時点でフリー使用できますが (最大セル数 51.2万と言う縛り有り)、これまた使い方には少し癖が有るというか。それぞれ 「うちのやり方が一番!」と思っているのだと思いますが、もう少し統一性が有ればアプリが変わっても勉強し直す必要も無くなり、ユーザーの利便性も良くなると思いますがいろいろと難しいんでしょうね。



この Gif アニメーションは、FreeCAD オブジェクト回転表示機能を使用し、その状態の画面を Windows10のキャプチャ機能で 動画ファイル mp4 として取り込み、更にその動画ファイルを Gifアニメーションに変換したものです。Gifアニメーションへの変換には オンラインの変換ツール (ラッコツールズ) を使用しました。









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