反応器 撹拌その3

 撹拌についての話題ですが、まだまだ続きます。前回はインペラの種類と特徴についてご紹介しましたが、もう少しだけ詳細について触れてみたいと思います。また、少し計算してみた結果を併せてご紹介します。

インペラ種類と特徴

参考文献 記載内容を参考にして以下の図を作成しています。d/D はインペラ径dと槽内径D との比率で、槽を上から見たときに槽内のどれくらいにインペラが広がっているかを表わしています。Anchor 以外は 大きくても 0.5 くらいです。一方、Anchor は高粘度液用なので槽壁面のすぐ近くまでインペラブレードが接近しています。スピードはインペラの回転数 [rpm] で、1分間当たりの回転数です。上から見て小さいインペラは高速で回転し、大きなインペラはゆっくりと回します。Hは剪断性能であり、Qは循環性能です。一番右端の列には Pv [kW/m3] の値が有ります。これは、液単位体積当たりの消費動力 Power Consumption per unit Volume なので、" Pv "と略称されます。まあ、概略値になりますが Propeller であれば 0.2~1 [kW/m3] とありますので、例えば 液体 10 [m3] を撹拌するのであれば撹拌動力は 2~10 [kW] となります。更に、撹拌にも効率が有るので総効率を 70[%] とすれば 2.86~14.3 [kW] 以上の出力をもつ電動機を設置する必要があると分かります。まあ、いい感じですね。


剪断と循環は撹拌操作において重要ですが、剪断は液を「切る」ような作用であり、一方循環はそのものズバリ 液を「循環」させ動かす作用です。まあ、インペラを高回転で回せば先端の周速度は大きくなるので、剪断作用が大きくなるのも理解できますね。Anchor や DHRでは比較的にゆっくりとインペラを回して、ブレードのポンピング効果によって槽内液を「循環」させる事になります。


インペラ系統図

ここで少し寄り道をしますが、そもそも 「何故こんなインペラの形になってるのかな~」と言う事に言及している文献や書籍はほとんど有りません(と思います)。大抵は「こんなインペラが有るよ」だけで、どんな由来で出来上がって来たのかには触れていません。ですが、撹拌分野の重鎮である故 村上康弘先生がまとめられた図が参考になるかと思いますのでご紹介いたします(書籍記載内容を参考にして描いています)。



村上先生の分類では、インペラ形状のオリジンは「円筒」であり、これを水平に切断すれば上から見て放射状に広がったインペラとなります。このインペラの特徴は上から見ると形状が良く分かりますが、真横から見るとあまり存在感が無い印象となります。マリン (プロペラ) などが該当します。また、円筒を垂直に切断すれば平板形状となり、横から見ると有るなと分かりますが、上から見るとただの棒のようになり印象が薄くなります。フラットパドルなどが該当します。村上先生のお弟子さんが開発したマックスブレンドやフルゾーンはワイドフラットパドル型などと呼ばれ、典型的なこのタイプと言えますね。また、最後に円筒を螺旋状に切断するとスクリューやヘリカルリボンとなります。
そして、これら3種類がいろいろと組み合わさり、時代とともに変化していって現在使用されているインペラになりましたと言う事ですね。真ん中ちょい右にはユニークな形状をした INTERMIG インペラが有りますが、これはEKATO社が開発したものです。公式ホームページによれば 1933年創立 ( ! ) のドイツの企業です。いろいろなタイプのインペラをラインナップしており、非常に面白いです。ヨーロッパの会社はホームページひとつとってみても、何とも「シャレオツ」ですね。

インペラ性能

インペラ性能はつまるところ、「エネルギーをそんなに食わなくて、それでいて良く混ざる」になるのかなと。一言で「混ざる」としてますが、撹拌の目的により「早く温まる」とか「二液が良く分散する」とか「ガスが液に良く溶ける」とかも有りますね。
それで、「混ぜる」にしても二液を一緒にして適当なインペラを突っ込んでグルグル回せば良いと言う訳では無くて、出来るだけ省エネでしかもチャチャっと完了したい訳です。バカでかい電動機を設置して非常識なまでの高速で回転させれば、そりゃすぐに混ざりますが初期投資はかさむし、電気代などの運転費用も馬鹿になりませんよ、となります。何より軸ブレしたりなどメカ的なトラブルの観点からはスゴく危険です。一方、ちっさい電動機でちっさいインペラをゆーっくり回しても、いつまで経っても混ざりませんよとなり、全然製品が出来ないんで商売あがったりとなります・・・。

で、その辺りをうまくやる訳ですが、何だかんだでまず最初に検討するのが「撹拌動力」でしょうか。混ぜるにしても何にしても動力を液に投入しないと何も始まらないので、当たり前と言えば当たり前ですが。様々なインペラの撹拌動力を見積もる為のデータや経験式は文献や書籍に記載されていますので、簡単に計算してみました。
上段の表はインペラの仕様と性能指標が記載されたものです。化工便覧 第6版 記載の内容を転記したものです。下段の表は内径 567[mm] の槽に 液深 600[mm] で常温の水を張り込んだ状態で撹拌した際の動力値計算結果です。この内径は 200L ドラム缶の値を使っています。なので、ドラム缶に内径と同じくらいの深さで水を張って (因みに 151リッター) 撹拌していると言うイメージです。回転数は 120 [rpm] とそれなりに回しています。


表だけ見ても良く分かりませんから、グラフにしてみました。上段のグラフは撹拌動力値ですが、インペラで結構差が有ります。平均だと 40[W] 程度です。ドラム缶のスケールだとその程度なんですね。で、この動力値を液体積で割り算して Pv 値を出してみたのが 下段のグラフです。インペラで差異は有りますが、平均で 0.27 [kW/m3] となります。まあ、低粘度液を混ぜているので、妥当な値ですね。この程度の動力が液に伝達されて、液が剪断を受けたり、槽の中を上下に動いたりする訳ですね。




と、撹拌動力の計算結果をご紹介したところで、今回はこの辺りとします。動力が分かれば、どの程度の容量の電動機を設置したら良いかが分かります。次回は動力以外の性能の計算結果についてご紹介します。

参考文献

化学工学便覧 第6版 第7章 撹拌




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