反応器 撹拌その5

 前回投稿から少し間が空きましたが、引き続き 重合反応器の撹拌についてご紹介します。前回までは低粘度用インペラについてでしたが、ここからは高粘度用インペラについてご紹介します。今回取り上げている重合反応器の全内容積は 24[m3] だったのですが、これに代表的な高粘度用インペラであるダブルヘリカルリボン Double Helical Ribbon を適用した場合、下図のようになります。



ダブルヘリカルリボン インペラ仕様

まあ、仕様といっても扱える箇所はそんなに有りません。

・ リボン数
リボンが二重巻になっているダブルヘリカル DHR が一般的です(二条)。ごくたま~にシングルリボンと言うのも海外の文献・書籍で見かけます。逆に条数が多い、トリプルリボン Triple Ribbon とかクアドルプルリボン Quadruple Ribbon も有りますが、特殊です。どうしても、槽壁面の掻き取り頻度を上げたい場合などが該当するようです。リボンが1条だとインペラ 1回転で 1回しか掻き取られませんが、リボンが4条であれば 4回 掻き取られます。掻き取りから次の掻き取りまでの時間が短くなるので、例えば壁面に結晶が析出してしまうとか付着物が成長してしまう場合でしょうか。後は、壁面での伝熱を促進したい場合かなと。

・ リボン外径
槽内径との比率 d/D を 0.95~0.97 が一般的でしょうか。何回か量産スケールの反応器に適用する DHR 仕様を決定しましたが、その際にはクリアランスを 40[mm] で決め打ちしました。 例えば、槽内径が今回のように 2,554 [mm] であれば クリアランス 40 [mm] であれば、インペラ径は 2,474 [mm] となります。d/D 値は 0.9687 となります。更に狭いクリアランスを選定することも出来ますが、製作が難しくなります。反応器 缶体 (いわゆるドンガラ) の製作精度が 0.5 [%] だったとすれば、真円からのズレは 12.77 [mm] となりますが、この場合にクリアランス 10 [mm] を選定すると、最悪 インペラが壁面と接触してしまいます・・・。また、逆にクリアランスが広すぎると、リボンで液をエイッと押し込んでもするりと液が逃げてしまうのでポンピング作用が低下し、DHR の性能が低下してしまいます。

・ リボンピッチ
ヘリカルリボン 1巻分の高さの事です。上図にも pitch として明示してあります。このピッチですが、普通は リボン外径と同じとします。ピッチ値を大きくすると、螺旋がゆるくなりリボンの角度が立ってきます。一方、ピッチ値を小さくすると螺旋がきつくなり、巻数が増えます。因みに、ピッチ値をどんどん大きくしていくと最終的にリボンは垂直となり、これはアンカーインペラと同じです。で、リボンが垂直となると円周方向の流れが支配的となり、ポンピング作用は低下します。その代わり、製作はしやすくなるので安価となります。そこまでポンピング作用が必要では無い用途であれば、アンカーインペラもアリだとは思います。一方、螺旋を詰め込んで行くとネジのようになりますが、ポンピング作用は増加すると思います。ただし、容易に想像がつくように製作は面倒になり、高価になるかと。そんなこんなで、ピッチ=リボン外径に落ち着く事になるかと思います。

・リボン高さ
ピッチは巻の詰め込み具合ですが、リボン高さは全部で何巻にしますか、と言う事です。リボンの下端は反応器の下部 TL に合わせるのが一般的です。で、上端はどこまで巻くのかですが、まあ最高に巻いていっても上部TL までですね。そこより上にまで巻くと、上部鏡板に接触します。加えて、何でもタダでは無いのでリボン巻数は必要かつ十分にしましょうか、となると最低でも液面まであれば良いんじゃないかとなりますね。ですが、設計の際にはリボン先端が液面よりも明らかに上になるようにしていました。と言うのも、潜熱除去方式反応器では還流液 Reflux を反応器に戻しますが、シャバシャバの低粘度液が液面に戻りますね。ここで、液面から液内部へと還流液がスムースに取り込まれて行って欲しい訳です。その際に効いてくるのが、リボンブレードの裏側に形成される巻き込み流れだと考えています、個人的には。なので、液面よりも高めになるようにリボン高さを決めていました。とは言え、1.13巻とか中途半端だとやはり製作が大変になるので、1/4巻づつ増やす感じでしょうか。上図では 1.25巻、即ち 1と1/4巻 にしています。



・リボン幅
リボンブレードの幅ですが、インペラ外径の10 [%] とするのが一般的です。DHR ではリボンが2条なので、合計では インペラ外径の 2割となります。リボン幅はポンピング作用の大小に効いてくるので、あまりに細いと液を押し出せません。かと言って、幅広すぎても製作が難しくなるので、10 [%] が妥当だと思います。因みに、リボン幅をどんどん大きくして行くと、いずれはシャフトに到達してスクリューとなりますね。


DHR 仕様ですが、書き始めるといろいろと有りますね、やはり。とは言え、一般的な仕様を整理する以下のような感じでしょうか。これ以外に、ボトムインペラはどんな形にするかが有ります。反応器の下鏡板分にはインペラが何も無いと、リボンによる循環流れによる流動しか期待できません。それだと少し心許ないので、例えばアンカー形状やパドル形状のインペラを設置すると言うのが有りますが、これがベストと言うのは正直分かりません。設計実績ではパドル形状を採用していました。ちょっと変わったところでは、あるメーカーさんが螺旋形状のインペラを採用していました。リボンをずーっと下鏡板の排出ノズル近傍まで巻いていきますが、そのままでは接触するので、一定のクリアランスを維持してかつリボンが対数螺旋形状となるように考えられていました (神鋼環境ソリューション、商品名 : LOGBORN)。理にかなってるな~と思いましたが、お高くなるのかな~とも思いました。

  • リボン数        : 2条 
  • リボン外径     : d/D = 0.95 ~ 0.97  製作可能なクリアランスとする
  • リボンピッチ  : リボン外径と同じ
  • リボン高さ     : リボン上端が液面より上になるように
  • リボン幅        : リボン外径の 10[%]
  • ボトム           : アンカー、パドル等 適宜設置

と、今回はこの辺として、次回はDHRの運転条件について触れて、更に撹拌動力や性能を計算してみます。

参考文献

「新しいヘリカルリボン翼 ログボーン」 神鋼パンテック技報 第37巻 第3号 1993年


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