反応器について長々と書いてきましたが、この辺りで締めたいと思います。で、どんな事を書いてきたかを振り返って見ると以下のような感じでした。
- 重合速度式 スチレン熱重合
- 完全混合槽型反応器 CSTR 設計方程式
- 反応器内容積と概略寸法
- 熱収支計算 液物性
- 潜熱除去方式 概要
- 反応器 撹拌
前提条件
まず、必要な生産量と年間稼働時間が前提条件として有ります。それに適用可能な重合速度式を持ってきて、設定した運転温度や転化率における重合速度値を計算します。次に、その速度値に基づいて反応器に必要な有効容積(保持液量)を求めます。反応器内に保持する液量が分かれば、適切な余裕等を織り込んで全容積を求め、更に反応器の寸法を決定します。寸法と言っても、 反応器型式が CSTR でかつ上下鏡板が 2:1 半楕円体であれば、決めるべきは内径Dと直胴部の長さL(TL-TL長 略してTL長) の2つとなります。 しかも、内径とTL長との比率 L/D は大体 1~1.5 程度なので、1.5 とすれば自動的にDとLが決まります。
収支計算
次に熱収支計算を実施して運転温度を維持するために必要な熱除去速度(除熱量)を求めます。重合反応器ではそれなりの除熱量となるので、除熱方式は潜熱除去の一択となります。潜熱除去方式を採用した場合にはモノマー蒸発量を求め、その値を使って蒸気配管等の仕様を決定します。モノマーは凝縮させて反応器に還流させるので、凝縮器も必要となります。潜熱除去方式では反応器内の圧力を調節してモノマーを沸騰させるので、別途 どの程度の圧力となるのかを見積もっておく事も必要となります。まあ、必須では無いですが発生した気泡の上昇速度を概略見積もる事も可能かと。
撹拌機 仕様
最後に撹拌機の仕様を決定しますが、転化率が高いと液粘度も相当に高くなるので、やはりダブルヘリカルリボンの一択になるかと思います。まあ、コストダウンの為にアンカーとする選択肢も有るかと思います。DHR を選択すれば、各部寸法の一般的な仕様が決まっていますのでそれを適用します。よほど特殊な製品や運転形態でない限りは、一般的な仕様で問題は無いと思います。どうしても不安なのであれば、ラボやパイロットで検証すべきでしょうね。
まとめ
とまあ、こんな感じで重合反応器の仕様を適宜決定していく訳ですが、いざやってみるとそれなりに大変では有ります。まあ今は エクセルなどの強力な武器が有るので、いろいろとケーススタディを実施し、その結果をグラフ化したりして可視化すれば良いですね。ただ、そうやって決定した仕様で製作した反応器を使用し、実際に生産した際にどんな結果となるのかは、やってみないと分かりません。
スチレンの重合反応器であれば不明な点はほぼ無いので、失敗する事も無いです。これが、結構 特殊な樹脂や特殊な反応形態となると、不明点がそれなりに存在するので、やってみないと分からないとか出たとこ勝負で仕様を決定する場面も有ると思います。その不明点を一つでも二つでも潰しておく為に、ラボやパイロットで試作やデータ取りを繰り返す訳ですね。そうやったとしても スケールアップには何らかの危険がつきものだと思います。
そんな訳で、反応器に限らず機器の設計においてはどこかに余裕を持たせておくとか、仮に失敗してもリカバリー出来るような仕様としておくとかを適宜盛り込んでおきます(私はそうしていました)。もちろん、誰が見ても明らかにオーバースペックでしょ!では同僚や上司にガッツリ指摘されてしまうので、あまり目立たないように盛り込んでおきます。まあ、敢えて目立つような仕様の箇所を作っておいて、そちらに注意を向けさせておいて、実はこっちにも余裕を盛り込んでおくなどと言ったセコい手も使ったりしてました・・・。
何と言っても「試運転してみたら全然運転出来ないよ!」とか「製品 全部オフスペックだよ!」と言うのは絶対に避けないといけないので・・・。毎回 100点満点がもちろん良いですが、それは無理なので、ほぼ確実に70点となるように目指してましたね。「100点もあるけど、30点も有るよ」だとエンジニアとしては NG かと思います。なので、カッコいいハイテクよりは確実なローテクを優先しますし、そして前述のようにセコセコと設計上のポケット(余裕のこと)を盛り込んでましたね。それと、設計計算についても決め打ち (所謂 鉛筆を舐める的な)は可能な限り避け、時間の許す限りケーススタディを実施した上で、仕様を絞り込んでました。まあそうするとどうしてもそれなりの時間が必要になる訳で、結果 ブラックな勤務となってしまいますね・・・。21世紀の令和時代にはそぐわないなとは思います。
と、いつの間にかおっちゃんの愚痴となってきたので、そろそろ終わります。一連の投稿でもう少し触れたい箇所や内容も有ったので、それらについてはまた機会を改めて投稿したいと考えています。
補足
今回はポリスチレンの反応器を取り上げた訳ですが、ポリスチレンを工業的に生産し始めたのは第二次大戦前のドイツ企業らしいです。この辺りの歴史も調べてみると非常に興味深いです。で、ドイツ敗戦後にアメリカの調査団がごっそり技術を持って帰って、自国で生産を開始したようです。そんなこんなで 1950・60年代 日本の石油化学産業 勃興・発展期に化学企業がこぞって技術導入したんですね。ポリスチレンの生産量も一時期は 全世界で 1000万トンほども有りましたが、昨今は脱プラの流れやコロナ禍の影響なのか減少傾向ですね。
余談ですが、その国における 例えばポリスチレンだったらポリスチレンの年間消費量を全人口でエイッと割り算してみます。で、グラフの横軸に「一人当たりのGDP」 をとって、縦軸に計算した 「一人当たり年間プラ消費量」をプロットします。そうすると、GDP が多い国・地域ほどプラ消費は増える傾向があるようです。グラフを4領域に分けると、アメリカなど右上の領域となり、ガッツリ儲けてガッツリとプラを使ってますね。欧州は環境意識が高いのでアメリカほどは使いません。途上国は左下の領域となりますが、経済発展とともに徐々に増えていきます。アメリカほどでは無いけど、欧州なみの一人当たりプラ消費になると考えると、その分 プラが不足します。なので、「よっしゃ、このプラスチックのプラント作って一儲けしちゃる!」となる訳で、プラント増設のプロジェクトがプレスリリースされたりする訳ですね。若しくは、「うちのプラ買いませんか!?」と言う売り込みのモチベーションとなるのかなと。ただまあ、脱プラの流れが強まってきてますので、今後はイケイケドンドンとは行かないのかなとも思います。
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