いろいろと有りまして投稿の間が空いてしまいましたが、気を取り直して新しいシリーズを始めたいと思います。どうしようかと少しだけ考えましたが、反応器の時のように続き物にしてしまうと、「前回何書いたっけ?」となるので今回は単発の読み切りにしてみようかと。となりますと、まあありがちな化工計算ツールでもアップして行こうかなと。
という事で、第1回目は 「熱交換器の出口温度計算法」です。下図に示すように熱交換器なので高温側流体と低温側流体があり、それぞれ入口温度と流量・比熱は予め与えられているとします。加えて、総括伝熱係数U と伝熱面積 A も与えられているとします。となると、知りたいのは各流体の出口温度ですが当然簡単には出せませんので、「どうしようかな」となります・・・。
熱交換器 出口温度 計算法
で、どうするのかと言えば、熱収支式を使って試行錯誤法を適用します。例えば高温側流体出口温度 T2 を仮定し、その仮定値を使って今度は 低温流体の出口温度 t2 を計算します。すると、対数平均温度差 ⊿t が出せるので、UとA と掛け算して交換熱量を出します。T2 を仮定した時点で高温側流体の失う熱量が出ていますが、これはU・A・⊿t で得られる交換熱量と同じでなければ熱収支が成立しません。両者がほぼ一致していれば、T2仮定値が正しかった事になり計算は終了です。もし、全然違うのであれば 仮定値を過程し直して再度同じ計算を行います。
まあ、最近はEXCELで計算するのが普通なので、「ゴールシーク」とか「ソルバー」を使って反復計算をすれば良いですね。ですが、少し工夫すると反復計算をせずに出口温度を出すことが出来ます。この方法は便利だったので実際に業務で使っていました。自分しか使わないシートであればソルバーでエイッと計算しますが、誰かにシートを送って使って貰う際、「ソルバーで使って解いて!」と言っても、「?」となる場合もありますので。また、何回も計算する場合には、いちいちソルバーを起動するのも面倒ですし・・・。
まず、熱収支式を以下に示します。見てのとおり、高温側流体(Oil) の失う熱量計算式、低温側流体 (Cooling Water) の得る熱量計算式 及び 熱交換器 交換熱量計算式の3つとなります。交換熱量計算式には 温度差 ⊿t が含まれますが、対数平均温度差 LMTD を適用します。
Pの値が分かれば、式⑥から分かるように低温側出口温度 t2 が得られますね。分かりやすく、式⑥を t2 について解くと式⑨になります。次に、この t2 を使って 今度は式⑤を使って T2 を求めます。分かりやすく書くと 式⑩となります。上記の順番どおりに計算していけば反復計算せずに各流体の出口温度が求められます。
出口温度 計算例
実際に計算した結果を以下に示します。計算条件は以下のとおりです。
- 高温側 Oil 流量 1,000 [kg/hr]、比熱 1.89 [kJ/kg K] 、入口温度 80 [℃]
- 低温側 CW 流量 500 [kg/hr]、比熱 4.2 [kJ/kg K] 、入口温度 25 [℃]
- 総括伝熱係数 U 465 [W/m2 K] 、伝熱面積 A 5 [m2]
計算してみると、高温側流体は 80 → 33.4 [℃] まで温度が下がり、一方 低温側流体は 25 → 67.0 [℃] まで温度が上がります。入口/出口温度をプロットしてみると、結構良く熱交換している事が分かります。実際、パラメータ Pの値は 0.763 なので納得の結果です。因みに、こういった熱交換が出来るのも「向流熱交換器」だからであり、与えられた温度差を有効に使えると言うことになります。
で、なかなか便利なこの方法ですが、実は使えない点が一つだけ有りそれは パラメータ R値が 1となる場合です。式⑦を見ると等式のすぐ右隣の分数の分母は "R-1" となっており、もし Rが1であれば 分母がゼロとなり、分数自体は無限大になってしまうので計算出来ません・・・。例えば、高温側・低温側流体がどちらも同じ種類(どっちも水であれば比熱が同じ)で流量(gとG)も同じであれば、式⑤の分母と分子が同じとなり、R=1 となるので使えません。
また、EXCEL の計算テーブルを見ると、試行錯誤法でも今回ご紹介した方法でも、どっちも使用するセルの個数もほぼ同じですので手間はほぼ同じですね。違いと言えば、 ソルバーを起動しなくても良いよ、くらいでしょうか。まあ、「流体条件をいろいろ振ってみて出口温度の結果をグラフにプロットしてみたい!」とかであれば、いちいちソルバーで計算しなくても良いので便利です。という事で、ちょいと計算してみました。
出口温度 ケーススタディ例
上段のグラフ CW 流量の影響
高温側流体である Oil 条件(流量、温度) を固定し、CW の流量を変化させた場合の各流体の出口温度をプロットしたものです。オレンジ色実線が 高温側流体 Oil の出口温度ですが、CW が増加すると Oil 出口温度は下がり、冷却水入口温度 25[℃] に漸近していきます。例えば、Oil 温度を30[℃] 程度まで下げたいのであれば、CW 流量は 600 [kg/hr] もあれば十分で、それ以上増やしてもあまり効果は無いですね、というのが分かります。
下段のグラフ Oil 流量の影響
低温側流体である CW 条件(流量、温度) を固定し Oil 流量を変化させた場合の、Oil 出口温度 計算結果をプロットしています。使用可能な CW 量が決まっているとして、それを使って どの程度の Oil を冷やせるのかを計算したものとなります。冷却後の Oil 温度を 50[℃] まで許容するのであれば、Oil 流量 1800 [kg/hr] 程度までは処理出来ますよ、と言うのが分かります。
と、あたかも自分が編み出したかのように書いていますが、もちろん元ネタは有ります。文献名「EQUATRAN-M 技術計算用連立方程式解法言語 (4) EQUATRAN-Mによる熱交換器の設計・解析 ケミカルエンジニヤリング1985」にパラメータ式が載っていて、「これは使えるかも」と思って式⑧を誘導してみた訳ですね。
EQUATRAN-M自体は もともと三井化学が開発したソフトウェアで、FORTRAN とか BASIC とかより簡単に化工計算のプログラミングが出来るよと謳ったものです。結構昔からあるのですが、お値段も結構するので使ったことは無いです。会社に入った当初は、N88-BASIC とかでプログラミングしてました。その後、EXCELが登場し相当便利になりましたが、少し込み入った計算をする場合は VBA とかを組んでました。もう今は出来ませんけど・・・。このソフトウェアですが、今はオメガシュミレーション株式会社が取り扱っているようです。この手の数式解法ソフトについて、個人的に使ってみようかといろいろと調べた事も有りました。例えば 有料ソフトウェアであれば、Mathematica (すごく高い)、MATLAB(高い)、カルキングとかが有りますし、フリーであれば Maxima などが有りますね。これらについては、ネット上にもいろいろと情報が有りますし、導入法や使い方を解説されているサイトも見受けられますね。ですが、大体の化工計算は EXCEL で出来てしまうので、そこまでして数式解法ソフトの導入にチャレンジする事もないのかなと。実際、私の場合もそうでしたし、一昔前に比べると解説書やネット上の情報なども格段に充実してきました。例えば、東工大 伊東 章先生の「化学工学資料のページ」は盛りだくさんで非常に勉強になりますね。化学工学会誌の伊東先生の連載は欠かさずチェックしております。
という事で、今回はこの辺で。
参考文献
上記の文献以外にも以下のサイトでpdfファイルを閲覧・ダウンロード可能となっています。
https://www.omegasim.co.jp/product/eqg/literature/
※補足
化工計算分野における、王道と言うかデファクトスタンダード的なソフトウェアといえば、何と言っても aspentech 社の一連のソフトウェアでしょうか。いわゆる、プロセスシミュレーターですがほんの少しだけ触った事は有ります。ポリマープロセスの物質収支計算とかでも、aspen 登場後は GUI な感じで機器を組み合わせたり物質を指定したりして 実行させれば、それなりの時間で各ストリームの流量や組成計算 結果が得られると言う感じで 「へ~っ」と思いましたね。それまでは、外部のエンジ会社に依頼して計算して貰ったりしてましたが、基本入力条件を FAX (!!) で先方の担当者に送って電話で確認し、納期についてもネゴして何とか優先順位を上げて貰うようにお願いしてました。それで数日とか一週間後に出てくるのが(もちFAXで)、ブロックフローレベルの結果なので、各ブロックのより詳細な機器間のストリームの流量や組成は 電卓を使って手計算してました(!!!)。1990年代はじめはそんな感じでしたね。
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