化工計算ツール No.111 反応器 設計方程式 Levenspiel Plot

 今回は反応工学における反応器 設計方程式について取り上げます。流通式反応器と言えば、大きく分けて 連続槽型反応器 CSTR , Continuous Stirred Tank Reactor と 管型反応器 PFR , Plug Flow Reactor が有りますね。このブログでも ずーっと前に「反応器 設計方程式」で取り上げました。 その時は、CSTR 1槽と2槽で必要な反応器容積について計算しました。

で、CSTR や PFR を複数組み合わせた場合の反応容積の最適化においては、Levenspiel Plot と呼ばれる図示法が用いられます。なので、そんな辺りを計算してみようかなと。この Levenspiel Plot ですが、提唱したのは Octave Levenspiel 先生ですね。ご専門は 化学反応工学で、著書には "Chemical Reaction Engineering" が有りますね。

実務でもこの辺りは良くやりましたね。そうそうポンポンと量産スケールの反応器を設計する機会が有った訳では無いですが、若手社員の教育用資料を作ったりする際にはいろいろと計算してみたりしてました。まあ、んでも反応工学は面白いですよね。反応速度が分かっていれば、諸条件を用いて必要反応容積が計算されますんで。で、反応器形式によって反応容積が大きく影響を受けますし。




反応器 設計方程式  Reactor Design Equations


✔ 連続槽型反応器 CSTR

反応工学関連の書籍には必ず載ってますね。で、CSTR 1槽のみの場合と 2槽以上の多段で使用する場合が有ります。CSTR 1槽における物質収支と反応速度から以下の設計方程式が得られます。で、考えているのは 定常状態 Steady State なので物質収支の式①において差し引きはゼロとなります。で、式①を変形すると式②となりますので、これが設計方程式となります。ここで、転化率が式③で定義されるとすると式④となります。

更に1次反応であれば反応速度式は式⑤で表わされますんで、これを使って式⑥が得られます。この式を使えば反応器出口の濃度が計算出来ます。で、更に多段CSTR の場合ですが 2槽目入口濃度として1槽目出口濃度を用いれば良いですね。同じように3槽目入口濃度としては2槽目出口濃度を使います。同じように計算していけば、各反応器における出口濃度を逐次的に全部計算出来ますね。式⑥には τ が含まれますが、これは反応容積を流量で割り算した値で空間時間 Space time と呼ばれます。反応工学だと「空間時間」なんですが、ずっと「平均滞留時間」Mean Residence Time と言ってましたね。まあ、意味は同じなんですけど。



✔ 管型反応器  Plug Flow Reactor

前述の CSTR は大前提として「槽内液が完全混合状態にある」って事ですね。例えば、槽内液にエイッと別の液を投入した際、入れた瞬間に液全体の濃度が均一になる状態です。これを達成するには槽内液の混合速度 無限大が必要となりますんで、実際には実現不可能ですよね。んで、PFR ですが 断面方向には均一でも、流れ方向には混合していない状態です。良く言われるのが 「回分反応器」 Batch Reactor が流れ方向に移動する状態とか言われますね。まあ、実際には PFR においても逆混合 Back Mixing しますし、細かい事を言うと拡散もしていますね。

で、設計方程式は下図のとおりとなります。管の中を流れていく途中で反応が進行し濃度が変化していくので、その過程は式⑦で表わされます。見て分かるように微分型ですね。なので、この式を積分範囲 体積 0~V 、濃度 CA0 ~ CA,out で積分して得られるのが、PFR の設計方程式となります。それが、式⑧・⑨となります。更に1次反応 速度式が適用出来る場合には式⑩が得られ、この式から出口濃度が計算されます。




計算例  Examples


✔ 連続槽型反応器 CSTR 

参考書籍の例で計算してみますが、ポリスチレンの重合反応ですね。計算条件は以下のとおりです。反応容積全体を一定として、反応器数を 1,2,3,4 と増やした場合の最終転化率(反応率) を計算してみます。また、反応は1次反応として速度定数値を設定しています。

  • 流量    0.004   [m3/sec]    →   14.4 [m3/hr]
  • 全反応容積       4    [m3]  
  • 入口濃度  7,200   [mol/m3] → 748.8 [kg/m3]
  • 速度定数  0.0025 [1/sec]

計算結果は以下のとおりです。見て分かるように、同じ反応容積であれば槽数を増やしたほうが最終転化率は大きくなるんですね。なんですけども、1槽を2槽にすると結構効果は有りますが、2槽を3槽にしたり更に4槽にしても頭打ちなんですね。この辺りはこのブログの「反応器設計方程式」でも言いましたね。なので、現実的には槽数を2か3くらいにするんですね。ここで、敢えて1槽にするってのは何か別の理由があるんだと思いますね。また、4槽になっている場合ですが、例えば顕熱除去方式が採用されているとそうなりますね。顕熱除去方式だと除熱速度を大きくとれないので、反応器1槽当たりの除熱負荷を小さくする為に槽数を増やします。



✔ 管型反応器  Plug Flow Reactor


CSTR と同じ条件で 管型反応器について計算してみると、以下の結果となります。CSTR の結果も併せて示しています。で、見ると明らかに PFR の転化率が高いですね。で、CSTR 槽数をもっと大きくしてみた場合、PFR の転化率にどれくらい近づくのかを計算したのが下図 下段グラフです。槽数を 35 まで増やしても まだ到達しませんね。まあ、それも当然で両者が等しくなるには槽数を無限大にする必要が有りますね。





✔ Levenspiel Plot

で、これまでの計算式を使って横軸に転化率、縦軸に (流量×入口濃度)/反応速度 値をプロットすると 下図のような右上がりの曲線が得られます。そして、目標転化率に対する 縦軸の値が得られます。

- CSTR 1槽
この場合は 目標転化率 0.9 に対して縦軸値 16 が得られます。 で、両者を掛け算すると14.4 [m3] となり、これが必要な反応容積となります。図示すると上段グラフにあるように四角形の面積が該当しますね。

- CSTR 3槽
各槽 出口転化率として1槽目 0.3 とし、2槽目 0.6とし、3槽目は 0.9 とします。各転化率に対して縦軸値が 2.29、4、16 なので、各四角形の面積を求め合算すると必要反応容積は 6.69 [m3] となります。

- PFR
こちらは四角形では無くて、曲線の下側部分面積を積分したのが必要反応容積であり 3.68 [m3] と得られます。

まあ、ここまでさんざん言ってきたように Levenspiel Plot を実施してみても、やはり PFR の優位性は変わらないって事になりますね。で、これを定性的に言うと PFR においては反応物濃度が高い状態で反応が進行するので、当然 反応速度は大きくより多く生成物が得られます。一方、CSTR においては 槽内は原料より薄い濃度となっているので、反応速度も小さくて、結果 生成物も少なくなるって事ですね。



まとめ  Wrap-Up

今回は反応器設計方程式と Levenspiel Plot について取り上げました。ここでの計算例では 1次反応だったんですが、ポリスチレンの重合速度式ってのはそんなに単純では無いですよね。このブログでも取り上げたように、Hamielic モデルの重合速度式はそこそこに複雑で、複数の数式から構成されるので、単純に積分出来ないですね。まあ、それでも図示法や数値的に計算は出来るんですけども。

重合反応器に限らず反応容積を決定するってのはそのプラントの成否を決定するくらい非常に重要なんで、今回取り上げた内容も大事ですよね。となると、当然ですが反応工学的な知識や知見も必要になりますね。流動とか伝熱とかの単位操作も重要ですが、反応工学も負けず劣らず重要ですね~。

また、Levenspiel Plot を提唱した Octave Levenspiel 先生ですが、1926年生まれで 2017年に逝去されています。生まれたのは 中国の上海ですが、15歳の時 真珠湾攻撃により太平洋戦争が勃発し、その為 マニラに抑留されていたとの事です。20世紀初頭では こういった事が有りますね。 Levenspiel 先生の名前でネット検索すると、https://levenspiel.com/ というサイトがヒットします。Levenspiel 先生ご夫妻の生前のお姿を拝見出来ますね。


参考書籍・文献  References

  1. 「基礎式から学ぶ化学工学」 化学同人 2017年刊
  2. 「反応工学 改訂2版」 培風館 1993年刊

website

  1. https://levenspiel.com/
    Octave Levenspiel 先生ご夫妻の追悼サイト 


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