化工計算ツール No.2 重力流出時間 層流流れ

 化工計算ツールの第2回目ですが、プラントでもちょこちょこ設計する機会のある 重力流れ Gravity Flow による容器からの流出時間 計算法についてご紹介します。概要は以下のとおりです。タンクからタンクに液体を移送する際などですが、うまい具合に上下に位置していれば、重力で流下させる方法が採用可能です。その際に、一体何分くらい待てば内液を排出出来るのかを予め知っておくと何かと便利です。と言うか、バッチ操作におけるサイクルタイムを決める際に必要となりますし、逆にサイクルタイムに制約がある場合には、配管仕様を調節して所定時間内に液が落ちきる様にする必要が有ります。

この例では、タンクのレベル①から出口配管レベル②まで内液を排出します。単なる重力による排出であれば 「トリチェリの定理」を適用すれば排出時間は求められます。ですが、出口配管に損失がある場合には流量は減少し、流出時間は長くなります。




で、今回は配管内の流れが 「層流」の場合について考えます。計算式は以下のようになります。以下の計算式を見ると、流出時間 empty time の計算式① にパラメータAとBが含まれています。A を計算する 式②はバルブや継手類の損失を見積もるものであり、B を計算する式③は配管の損失を見積もるものです。液面レベルですが、基準点(排出箇所) からの高さが高い方を h1 [m] とし、低い方を h2 [m] とします。式①の大かっこ [ ] に 1,2 が書いてありますが、かっこ内の h に h1 を入れて得られた値から、h に h2 を入れて得られた値を差し引きます。定積分の計算と同じ要領となります。


で、最初の図にある条件を代入して計算すれば、流出時間はすぐに出ます。せっかくなので配管サイズを以下のように変えてケーススタディしています。配管サイズは配管用炭素鋼鋼管 SGP から選択しています。と言っても、一般的に使われるのは 25A 1B (1インチ) とか 50A 2B (2インチ) とかでしょうか。わざわざ 10Aとか15Aは使わないですね。



EXCEL®で計算して、その結果を縦棒グラフで比較しています。SGP 1B だと2.8 [min] で所定量が流出されます。因みに排出所定量は 113 [L] となります。

例えば、現場に作業者が行ってバルブ操作をする場合を想定します。タンクの場所まで行って、まず上部バルブを開けて液を装入します。オーバーフロー位置まで液面が上がれば、液が流れてくるのでバルブを閉めます。次に出口配管のバルブを開けて液を排出します。出口ノズルはタンク側壁に設定してあり、液レベルがここまで来れば自然に流出は終わります。このような操作法であれば、特に流出時間を計時しなくても良いのですし、レベル計を見ておく必要も無いので楽ですね。流出させる所定量となる位置に出口配管ノズルを設置しておけば良いですね。液装入時間に加えて 流出時間3分くらいであればまあ待てる時間かなと思います。

一方、配管サイズがこれよりも小さくなると 排出時間は大幅に増加し、1/2B では 17.4 [min] もかかります。ずっと待ってるのには長めです。また、これよりも大きな配管にすると流出時間は1分程度まで短くはなりますが、あんまり太くしてもどうなんかなと思いますね。新たに配管を設置するのであれば、お金がそれだけかかる事になりますし・・・。結局 1B くらいが良いバランスと言う事になるのかなと。


で、ここで気をつけなければならないのは、配管を太くすると管内流速が増加し流れが「乱流」となります (レイノルズ数が 2300 を超過する)。この計算式は 「層流」の場合にのみ適用可能なので、本来は使えません。この結果はあくまで参考となり、より正確に流出時間を求めるには 「乱流」用の計算を実施する必要が有ります。「乱流」の場合については次回ご紹介しようかと考えています。

この重力流れによる流出ですが、原料を装入する際や反応後の液を排出する際など いろいろと使われます。本当にザックリとした計算であれば、出口配管の損失を全く考慮せず、「トリチェリの定理」 u= √ (2gh) が適用可能です。今回の場合、流出開始時のレベル高さは 2.4 [m] なので、この値を代入すると 流速は 6.86 [m/sec] となります。SGP-1B 配管では 最初の流速は  1.22 [m/sec] ですので、だいぶ違いますね。まあ、配管長が 20[m] もありますし、バルブやエルボも有るので当然と言えば当然ですが。なので、出口配管がそれなりにある場合はきちんと計算したほうが良いですね。タンク底部のドレンノズルに短い仮配管でも設置して、ジャーっと液抜きをしてドラム缶に受けたい場合などには適用可能と思います。


参考文献
「配管技術ノート」 第II部 33. 重力流出時間の計算 pp.91-96 
大野光之著 工業調査会 2004年刊





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