タンクからの重力流出時間の計算ですが、前回は 配管内の流れが「層流」である場合の計算式と結果をご紹介しました。今回は、「乱流」の場合を取り上げます。
基本的な機器構成は前回と全く同じですが、以下のように液物性が異なります。
粘度は前回の 1/58 となっており、だいぶシャバシャバです(有機溶媒です)。
密度 粘度
前回 1,179 kg/m3 0.018 Pa s (18 mPa s)
今回 785 kg/m3 0.000308 Pa s (0.308 mPa s)
さて、計算式ですが以下のとおりです。「配管技術ノート」に記載されている内容となります。前回と異なる点は、摩擦係数 f の値を Reynolds 数の関数として求める事です。Re数の定義から分かるように、液物性と配管径が一定であれば 平均流速 u により Re数は増減します。また、摩擦係数 f は Re数により変化します。となると、困った事が起きます。即ち、 f を求める為には Re が必要であり、u が必要となります。しかし、u の値は f の影響を受け変化します。 なので、スイスイと順番に計算する事は出来ません。解決法としては、試行錯誤法などの反復法を使って計算をする事になります。
因みに今回の計算では、Blasius 式を用いて摩擦係数を求めています。なので、平滑管として取り扱った事になります。より現実的には粗面管として取り扱うべきですが。
計算フローチャートは以下のようになります。まず、液面高さ h1 における 配管内流速 u1 を求めますが、ここに反復法を適用します。u1 を仮定して Re1 を計算し、その値から 摩擦係数 f1 を求めます。式③を用いて f1 から u1 を再計算します(u1'とします)。となると、u1 と u1' がそれぞれ求まりますが、この両者がほぼ等しければ最初の仮定値が正しかった事になり終了となります。同じ要領で 液面高さ h2 についても同様の計算を実施します。
ここで、h1とh2のそれぞれに摩擦係数が得られたので、両者の算術平均値をとります。この平均摩擦係数を式②に代入して パラメータ α 値を求め、その値を式①に代入すれば流出時間 t が得られます。式①の鉤括弧 [ ] は 前回と同じ様に、h に h1 を代入して得られる値と、h に h2 を代入して得られる値との差となります (定積分と同じ要領)。
ここで、h1とh2のそれぞれに摩擦係数が得られたので、両者の算術平均値をとります。この平均摩擦係数を式②に代入して パラメータ α 値を求め、その値を式①に代入すれば流出時間 t が得られます。式①の鉤括弧 [ ] は 前回と同じ様に、h に h1 を代入して得られる値と、h に h2 を代入して得られる値との差となります (定積分と同じ要領)。
実際にはEXCEL で計算します。図中に "Iteration" と記載してありますが、u1 のセルに適当な値を入れると u1' が計算されます。適当に入れているので、u1 と u1' は異なります。で、新たに u1 の値を入力しなければなりませんが、得られた u1' の値をそのまま u1 セルに入力します。コピペしても良いですが、そんなに桁数が有る訳でも無いので、直接入力しても良いですね。で、この操作を何回か繰り返すと 両者の値はだんだんと近づいてきて最終的に同じになります。まあ、厳密にはわずかに差は有りますが、 1/1000 以下の差であればほぼ同じと見なして計算を終了します。逐次代入法と言う事になるのかなと。ソルバー機能を使っても良いですが、いちいちソルバーを起動するほどでも無いですし、手入力で事足りますし。
で、上記の結果をグラフにしてみると以下のようになります。SGP-1B (1インチ) で比較すると層流では 2.8 [min] でしたが、乱流では 2.3 [min] となりました。まあ、液物性が異なるので一概には言えませんが、そんなに変わらないと言う結果になりました。乱流だとジャバーっと流れるイメージが有りますが、今回はそうはならなかったと言う事でしょうか。
今回の場合の摩擦係数値は、層流の場合と乱流の場合とでそれほど差異が有りません。まあ、1.5倍程度のひらきでした。下図は化工便覧 第6版 記載の摩擦係数線図です。赤矢印は層流での摩擦係数値、青矢印は乱流での摩擦係数値です。
配管部分のみを考えれば、抵抗が 1.5倍であれば その分 流出時間にも効いてきそうですが、抵抗はバルブやエルボの分も加算されるので、配管部分の抵抗が相対的に小さくなったものと考えられます。結果、層流でも乱流でも流出時間はそれほど変わらなかったのかなと。
と言う事で今回はこの辺で。
参考文献
「配管技術ノート」 第II部 33. 重力流出時間の計算 pp.91-96
大野光之著 工業調査会 2004年刊
「化学工学便覧 改訂6版」 化学工学会編 丸善 1999年刊
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