化工計算ツール No.4 物体の冷却 媒体温度一定

 今回は物体の冷却についてご紹介します。物体と言っても液体であり、例えば高温の製品液体を冷却するのに必要な時間を推定する場合などが有ります。また、配管に高温液体を通液させた場合、出口ではどれくらいの温度まで温度が下がっているかを見積もる事が出来ます。


■ 物体(液体)の冷却
以下のような2つの場合を想定します。まずは、円筒タンク内液体の冷却です。液体がある液面高さで保管されており、周囲の外気温度よりも高温だったとします。当然 熱は高温側から低温側へと移動(放熱)するので、液体温度は徐々に低下します。
また、配管内を通液する高温液体の有する熱が配管壁面を介して外気へと移動し、やはり温度が徐々に低下する場合を想定します。




■ 計算式
一方はバッチ的な冷却で、一方は流動状態における冷却となり一見して違う過程の様に見えますが、熱収支式などを適用するとどちらも同じ様に取り扱う事が出来ます。結果としては、以下の式で温度低下過程を計算します。式①はタンク冷却の場合で、式②は配管冷却の場合です。ここで、式①を見ると液体の重量 W[kg] と放熱する面積 A[m2] が含まれており、ですので別に円筒タンクに限定されるものでは無く、重さと放熱面積が分かっていれば計算出来る事になります。式②は配管径 D[m]と配管長 L[m] が含まれているので、まあ配管用にしか使えませんね。



計算式の下に温度推移を模式的に描いていますが、周囲温度 Tamb [℃] は一定であり、タンク内液体温度や配管内の液体温度が徐々に近づいていく様子を示しています。最初は液体温度と周囲温度との差が大きいので熱移動(放熱)も大きいですが、液体温度が下がってくると駆動力である温度差は小さくなり、その分熱移動も減少します。

■ 計算例
まず、円筒タンクの計算例を以下に示します。液体は水で初期温度は 100[℃]で、外気温度は 0[℃]とします。タンク径は 500[mm] で液面高さも 500[mm] とします。円筒形なので放熱面積が計算できます。また、放熱の熱伝達係数は 10,30 [W/m2 K] の2種類とします。10 [W/m2 K]は保温配管における放熱量を見積もる際にも適用される値で、まあこの程度です。30  [W/m2 K] はだいぶ大きな値で、例えば 保温材がヘタっていて放熱量が多めになっているとかを想定しています。

で、結果を見ると温度は結構下がりますね。まあ、12時間も経てば当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが。外気温度も 0[℃] と結構低いですし。因みに、上段のグラフは時間に対して無次元温度をプロットしたものです、Y軸は対数となっています。無次元温度は 初期温度と周囲温度を用いて 任意時刻の温度を無次元化したものです。分母は 冷却開始時の温度差 (初期温度 - 周囲温度) であり、分子は その時刻の温度差 (液体温度 -周囲温度) です。無次元温度が 1 であれば 冷却初期の状態となります(分母と分子が同じ)。そして、無次元温度が ゼロ であれば 液体温度が周囲温度と全く同じになった状態となります (分子がゼロ)。簡単に言えば、液体温度がどれくらい周囲温度に近づいているのかを表わす指標です。


熱伝達係数が 30  [W/m2 K] では 14時間後には 2.4 [℃] とほぼ外気温度を同程度になっており、この事から 保温の健全性はすごく大事だと言えます。温度が低かったら温水として使用出来ませんし、せっかくエネルギーを投入して温水を作っても それが全部無駄となってしまいます。

次に配管の場合です。SGP-1B 配管を使用し、4[km] 先まで温水を送ります。
放熱の熱伝達係数値はどちらも同じで、10 [W/m2 K] としています。で、何を変えているかと言うと、入口温度 Tin [℃] と 重量流量 G [kg/sec] です。Case 1. では 入口温度 100 [℃] の温水をそのまま 2.0 [kg/sec] で流します。一方、Case 2. では Case 1. の温水に 0 [℃] の冷たい水を加えて 2.5 [kg/sec] としています。となると、当然入口温度は低下し 80 [℃]となります。これを入口条件として配管に流します。


で、Case 1. と Case 2. の出口温度を比較すると 8.5[℃] の差が有ります。当然入口温度が高い方が出口温度も高くなっています。ですが、入口-出口の温度差を比較すると Case 2. の方が小さくなります。

 どうしても高い温度が必要なのであればどうしようも無いですが、50[℃]もあれば良いのであれば、入口で冷水を混合してしまえば送液中の放熱量が減るので、少しですが経済的になります。なんで、こうなるかと言うと ①入口温度が低いので放熱温度差が小さい、②流量が増えるので配管通過時間(放熱時間)が減少するのが理由です。②の通過時間は滞留時間などとも言われますが、タンク冷却における経過時間と意味合いは同じですね。

とまあこんな感じですが、この計算は冷却だけでは無く加熱にも適用可能です。タンク内の液体をジャケットにスチームを供給して加熱する場合などですね。ですが、気をつけなければならないのは、加熱源・冷却源の温度が一定の場合に限られる事です。外気温度であれば大気温度ですからその周辺はどこでも同じですね。また、スチームであれば圧力を一定としておけば温度は一定となります。

ここで、冷却源として冷却水を使うと、基本的には温度一定とはなりません。例えば冷却水をある温度で供給した場合、被冷却側液体から熱を受け取って冷却水自体の温度は必ず上がります。となると、上記の式①・② を導出する際の前提が崩れるので、また別の取り扱いが必要となります。まあ、抜け道が無いわけで無くて、冷却水を非常に大量に流せば、多少熱量を貰っても温度上昇は微々たるものになるので、見かけは温度一定とみなせます。ですが、冷却水を際限なく流す事は普通は出来ないんで、きちんと別の計算法を使いますね。温水でも同様で、徐々に温水温度が下がってくるので相応の取り扱いが必要となります。

それと最後に付け加えると、タンク内の液体とか配管内の液体は場所的に均一である事が前提条件となります。放熱の駆動力は温度差な訳ですが、壁面近傍の液体温度とタンク中心部の液体温度が異なる様であれば、どっちを基準にするかで放熱量も変わってきます。タンク内液体であれば、適当なインペラで撹拌しておくとかすれば、液温度を均一にする事は出来ますね(そこまでしなくてもOKとは思います)。また、配管内の液体温度ですが速度分布が有れば当然温度分布も形成されますが、駆動力である温度差を外気温度(これは一定)と液体の混合平均温度との差として定義すれば良いのかと思います。配管内液体の混合平均温度とは、その名の通り配管内断面を流れる液体の平均的な温度です。この投稿の参考文献である武山・大谷・相原先生著の伝熱工学では " Mixing Cup Temperature " と記載されています。イメージとしては配管出口で液体を適当な容器 (Cup) にジャーっと受けて(当然混ざるので Mixing ) 、そこに温度計を突っ込んだ時の温度(Temperature) ですね。

と言う事で、次回は物体の冷却のつづきとして、冷却媒体の温度が変化する場合について取り上げます。


参考文献
「大学講義 伝熱工学」 武山、大谷、相原 著 丸善 1983年刊
第9章 熱交換器 9.2 単流熱交換器

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