今回は前回と同様に物体(液体)の冷却について取り上げます。ただ、前回と異なるのは、冷却媒体温度が一定では無いという点です。冷却水で容器内部の液体を冷却する場合などが該当し、ケミカルプラントでも頻繁に見られる状況なので設計する機会も多いですね。
■ 物体の冷却 媒体温度が変化する場合
機器の構成や前提条件などは下図のようになります。
今回は一般的な容器(ベッセル)を想定しており、円筒容器で上下鏡板はED (2:1半楕円体) とします。また、容器にはジャケットが設置されており、ここに冷却水を通水して冷却します。で、冷却水はどこから来るかというと、まあ大抵の場合はその工場内のヘッダー配管から持ってきますね。大きなループ配管がずーっと敷設されており、そこから必要に応じて枝配管を分岐させて、ユーザー機器(熱交換器、反応器等) に冷却水を供給します。図にあるように供給配管からの枝管をジャット下部に連結して冷却水を供給します。「入」が有れば当然 「出」が有るので、ジャケットを通過した冷却水は枝管を通って戻り配管に戻ります。一般的には入側にバルブを設置して、必要なときだけ冷却水を通水します。
そんなに使用頻度が高くないのであればマニュアル操作のバルブとする場合もあるでしょうし、現場が遠いのであればリモート操作が出来る電磁弁とか調節弁にする事もあるかと思います。で、このバルブを全開とすればヘッダー配管から冷たい冷却水が流れ込んで来て、ジャケットへと流入します。容器内液と冷却水との間に温度差が有れば熱交換が起こり、内液は冷却されます。で、入ってくる冷却水の温度はいつも同じですが、出てゆく冷却水の温度は時間的に変化していきます。ここが取り扱いが面倒になる点ですが、いずれにしても冷却過程における熱収支を考慮すれば、計算式が導出されます。
■ 計算式
結果だけを示すと以下のようになります。exp が含まれており前回の計算式と似たようなものです。
また、式①を変形して式①' としていますが、所要時間θ[sec] について解いたものです。この式を使えば、目標温度に到達するのにかかる時間がドンピシャ分かるので便利です。
また、媒体戻り温度ですが 得られた内液温度T を使って式③で求めます。最初はだいぶ温まった状態で戻って来ますが、時間が経ってくると 温度差が小さくなり交換熱量も小さくなるので 戻り温度は 供給温度に近づいてきます。上図の温度変化模式図がその辺りを示しています。
■ 計算例
計算例を以下に示します。2種類の条件で計算していますが、下図を見ると分かるように大きな容器と小さな容器です。量産プラントとパイロットプラントくらいでしょうか。伝熱面積は接液部面積として計算しており、総括伝熱係数 Uは どちらも 100 [W/m2 K] としています。冷却水 供給温度は 20 [℃] 一定です。また、冷却水流量ですが さすがにスケールが違うので同じ流量とは出来ません。大きい容器は 10 [m3/hr] くらいで、小さい容器は 1 [m3/hr] くらいとしました。
Case 1. 大容量容器の方がゆっくりと冷却されています。で、例えば目標温度 60[℃] まで冷却するのに必要な時間を式①' で計算すると、大容量容器では 3.35[hr] かかり、小容量容器では 0.62[hr] となりました。40分くらいでも結構長いですが、3時間だと時間がかかり過ぎてバッチ数が稼げないとか支障があるレベルですね。何故このような結果になるのかと言えば、以前 ご紹介した 反応器の除熱における問題と同じ理由です。簡単に言えば、内液単位体積当たりの伝熱面積が小さい為ですね。下段のグラフは内液単位体積当たりの交換熱量の経時変化ですが、Case 1. 大容量容器ですとずーっと小さいままですね。これがなかなか冷えない要因です。
冷却水 戻り温度を見ると、冷却開始直後が最も高くその後時間経過とともに低下します。内液温度が下がってくると、交換熱量が減るので冷却水の温度上昇も小さくなります。
とまあこんな感じで冷却水などの媒体を使って容器内液を冷却する場合のケーススタディがチャチャっと計算出来るので、非常に便利です。それで、内液の冷却において重要なのは以下の項目です。
- 総括伝熱係数 U
熱移動のしやすさを表わしており、大きな値ではより熱が伝わります(温度差一定、伝熱面積一定として)。今回の例では 100 [W/m2 K] としましたが、液体-金属壁-液体の組み合わせであればこの程度か、大きくても 500 [W/m2 K] くらいでしょうか。 - 伝熱面積 A
今回は接液部面積としましたが、これこそ変えようが無いですね。どうしても増やしたいのであれば、伝熱コイルを設置する方法も有りますが限界も有りますし。 - 冷却媒体供給温度 t1
温度差を大きくする為に媒体温度を下げます。冷却水であれば 20~30[℃] ですが、より温度の低いチルド水とか冷凍水とか呼ばれるものを使います。プラントで異なるでしょうが 5~10 [℃] くらいでしょうか。で、クーリングタワーで得られる温度よりも低い媒体を作るには、圧縮式や吸収式のチラー(冷凍機) が必要になりますが、そうするとユーティリティー費用(電力費) がかさみますね・・・。
どうしてもすぐに冷やしたいのであれば、容器の出口に外部熱交換器を設置してワンパスでサッと冷やすとかの対処が必要となります。その分、お金がかかりますけどね・・・。液体を冷やすとか温めるとか、一見簡単そうですがスケールが大きくなると結構大変ですね。
と言う事で今回はこの辺りで。
参考文献
「熱交換器設計ハンドブック 増訂版」 尾花 英朗著 工学図書株式会社 2000年刊
第6章 非定常プロセス
※ 上記 参考書籍は非常に有名ですが、最近はこの手の書籍もあまり出版されませんね。実践的で様々な熱交換器に設計法について記載されており、日本の会社で勤務していた時には重宝していましたが、韓国行きに合わせて自腹で購入しました。便利なんですが厚くて重いので、何とか全ページ自炊して PDF化しています。また、熱伝達係数をもう少し厳密に計算したいのであれば、日本機械工学会の「伝熱工学資料」なども便利ですが、こと熱交換器になるとこの書籍しか思いつきません。今は熱交換器もソフトウェアで設計計算するので、地道に計算するとかは無いのかなーと。
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