今回は液物性として水の物性計算式についてご紹介します。水は例えば反応媒体としても使われますし冷却水といったユーティリティーとしても使われる、ケミカルプラントにおいては重要な液体です。となると、当然 密度や比熱といった物性が必要となります。ここで、重要なのは温度依存性です。その温度での物性値が必要となります。ケミカルエンジニアリングにおいては、常温の物性値 1個が有れば良いと言うわけでは有りません。
加えて、現状では EXCEL® を使って化工計算を実施するのが一般的です。そうであれば、適当な計算式としておいて、その計算式をセルに入力しておけば所望の温度における物性値を瞬時に計算する事が出来るので非常に便利です。今回ご紹介するのは、蒸気圧、蒸発潜熱、液比熱、液粘度、液密度、液熱伝導率 および 表面張力です。まあ、一般的に良く使用する物性ですね。
水 物性計算式
何でもそうですが、シングルソースは何かと怖いので複数の計算式で検証してみます。別の物性計算式を以下に示します。前述の計算式と比較するとexp が含まれていたり、多項式の形になっている点は同じですね。各定数値は図中の表に示すとおりです。
水 物性計算結果
計算結果です。まずは、蒸気圧、蒸発潜熱、液比熱 及び 液粘度です。グラフ中の Lit.1 文献1 は「化学装置」記載の計算式で、Lit.2 文献2 は広島大学の文献に記載されている計算式です。また、とびとびのデータとして JSME と IAPWS を併せて示していますが、JSME は日本機械学会 「伝熱工学資料 第4版」に記載されている値です。一方、IAPWS は The International Association for the Properties of Water and Steam (国際 水・蒸気性質協会) による物性値です。
まあ、一見して分かるように計算式による値は、JSME や IAPWS の値とほぼ同じですね。ですので、まあどちらの計算式を使ってもよろしいかと。で、文献1 計算式による液比熱の値は単調増加となり、文献2 や JSME 、IAPWS の結果と大きく異なっていたので、除外しています。Perry の結果もほぼ同じなので、その計算式を使っても良いとは思います。
文献2 はネットで見つけたものですが、実務でもちょくちょく使っていました。定数が少し多いですが、まあEXCELであれば一旦入力すれば良いですし。JSME や IAWPS とも良く合ってますね。
次に液密度、液熱伝導率、表面張力 および プラントル数の計算結果です。まあ、文献1でも2でも実用上は問題無いですね。Perry 7th edition には 輸送物性についての計算式は記載されていませんでしたので、グラフには記載していません。
IAPWS 国際水・蒸気性質協会
IAPWS ホームページ
International Association for the Properties of Water and Steam (iapws.org)
上記ホームページ サイドバーの "Education" をクリックして飛んでいった先のページで更に "Online Water and Steam Property Calculator" のリンクをクリックすると上図に示した水・蒸気物性計算機が現われます(外部サイトのようです)。Function で知りたい物性項目を選択し、温度や圧力などの条件を入力して Calculate ボタンをクリックすると値が得られます。
便利なんですが、潜熱を知りたい時は少し戸惑いました。潜熱自体は Function 内には含まれていません(Latent Heat とか Vaporization Heat が見当たらない)。なので、代わりに Specific Enthalpy を選択し、蒸気状態のエンタルピーと液体状態のエンタルピーをそれぞれ求めて、両者を引き算しました。その時、温度が100[℃]以下であれば、その温度における飽和圧力を予め求めておき、それを入力する必要が有りました。温度20[℃] であれば以下のような感じです。只で使っておいてアレですが、正直面倒くさいです・・・。
- 温度 20 [℃]
- 飽和圧力 2.33921 [kPa]
- 蒸気エンタルピー 2537.47 [kJ/kg]
- 液体エンタルピー 83.9199 [kJ/kg]
- 潜熱 2453.6 [kJ/kg]
昔は、と言っても30年ほど前ですが、日本機械学会の蒸気表 Steam Table をペラペラとめくって物性値を読み取っていましたが、隔世の感が有りますね・・・。
とまあ、水の物性は結構頻繁に使用するので、エクセルに定数値を記入しておき、それをコピペして使っていました。前述のように化工計算では温度依存性を考慮する必要がありますので、どうしても計算式の形にしておかないと使い勝手が悪いですね。
参考文献
「水、水蒸気および空気の簡便な温度関係物性式の設定に関する研究」 久保田、羽倉
広島大学 生物生産学部 紀要 1994年
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