化工計算ツール No.14 保温材

 10月になりだいぶ寒くなってきたので、今回の投稿は「保温材」について取り上げます。例えば保温材の経済的 最適厚さなどは他のブログやサイトでも多数取り上げられているようなので、実際に保温材についての伝熱計算をやってみて、その結果についてコメントしてみようかなと。

以下のような配管 SGP 2B に45[mm] の保温材を施工した場合を考えます。配管内の流体温度は 100[℃]、外気温度は 25[℃] とします。加えて、保温材材質や年間稼働時間を決定して JIS や配管関連書籍を調べてみると保温材厚さが分かります。

この例ではロックウールを使用し、年間 8,000 [hr] 運転するのであれば 保温材厚さ 45[mm] とあります。で、その時の放熱量は 22 [W/m] となります。もちろん、もっと厚くすれば放熱量は減少しますが、一方 保温施工費用が高くなるので 初期費用が増えます。その設備を何年で償却するかにもよりますが、減価償却費用がかさみます。であれば、多少 放熱量が多くて燃料費がかかったとしても 施工費用を抑えたほうがトータルで見ると経済的となります。この辺りは配管 慣用流速の考え方に似ていますね。計算式は JIS A9501 に載っていますし、ネットで検索すると出てきます。償却を何年でするかとか燃料単価はどの程度なのかは、各企業やプラントの立地・ユーティリティーの種類によっても違うので、プラント建設時に予め検討しておいて 一覧表を作っておくんだと思います (実際に見ましたね韓国で)。




※ 図には Cover が有りますが、ロックウールなどの保温材を施工してそのままと言う事は無くて必ず保温カバーを被せます。まあ、放熱量の計算では無視していますが(熱抵抗が非常に小さいので)。
ネットで調べると ラッキングカバー Racking Cover と言うようで、厚さ 1ミリ以下のカラー鋼板、ガルバリウム鋼板、ステンレス鋼板との事です。大体 銀色ですね。保温カバーを被せてカバーの両端を接合しますが、その際に 「ハゼ」 と呼ばれる手法を用います。で、更にコーキングしたりして雨水の浸入を防止したりもします。ですが、足で踏みつけて潰れてしまった保温材を時々見かけますが、せっかく綺麗に施工しても このようになっては全く意味が無いですね・・・。作業の際にどうしても上を跨がないといけないのであれば、小さい昇降用ステップを設置するとかしないと駄目ですよね。潰れてしまった保温材はそもそも厚さが減少していますし、隙間から雨水が侵入して有効熱伝導率が大きく上昇するので 保温効果が大幅に減少します。


保温材 伝熱計算 計算式

多層 中空円筒における熱流量Q 計算式において、配管内壁の対流熱抵抗と保温材 外側の対流熱抵抗を加えたものが 式②となります。式①は総括熱抵抗を表わしています。伝熱工学の教科書でよく見かける式ですね。

各変数の値は全て分かっていますので、それらの値を式②に直接代入して計算しても良いですし、式①を用いて全熱抵抗値を求めてから熱流量Q を計算してもどちらでもOKです。



保温材 熱損失 計算例

計算条件ですが冒頭の図にあるとおりで、それ以外の例えば 熱伝達係数などは以下のとおりです。

  • 流体温度  100 [℃]
  • 周囲温度  25 [℃]
  • 配管寸法  SGP 2B 外径 60.5[mm]
  • 配管材質  炭素鋼 熱伝導率 51 [W/m K]
  • 保温材厚さ 45 [mm]
  • 保温剤材質 ロックウール 熱伝導率 0.0423 [W/m K]
  • 流体側 熱伝達係数 1000 [W/m2 K]
  • 外気側 熱伝達係数 12 [W/m2 K]

せっかくなので、保温材厚さを変えて計算しています。まずは 単位長さ当たりの熱損失量 [W/m] の結果を以下に示しますが、経済的 最適厚さ 45[mm] よりも厚くしても それほど効果は無いことが分かります。なので、すごく厚くしても初期投資がかかるだけで意味が無いですね。放熱量の計算値ですが 21 [W/m] となり、手持ちの資料に記載されている値 22 [W/m] とほぼ同じです。



で、次に各部の温度値ですが 重要なのは保温材 表面温度 T3 でしょうか。流体温度 100[℃] に対して少しでも保温材が有れば表面温度は大きく低下する事が分かります。保温材 厚さ 45[mm] であれば 28.7[℃] となり、この程度であれば素手で触れても熱くは感じませんね。更に保温材を厚くしても計算結果にあるとおり外気温度に近づくだけとなります。一方、配管内外表面温度ですが どちらも100[℃]に近く、保温材を施工した配管の温度はほぼ流体温度に等しい事が分かります。まあ、その為に保温材を施工しているので当たり前と言えば当たり前ですが。
 


次は流体から外気までの配管断面方向の温度分布です。保温材を施工すると配管温度はどれもほぼ流体温度に等しい事がこの結果からも分かります。




常温よりも高い若しくは低い流体を移送する配管では、ほぼ必ず保温材のお世話になります。ずっとポリマープラントの設計に携わってきましたが、大体の配管には保温材が施工されていました。厳密に言うと、例えば ポリマー移送配管はジャケット配管で、ジャケット部に高温の熱媒体油(150~250℃) を流しますが、そのジャケット部の外側には保温材を施工します。んでも、保温材厚みの計算とかはあまりやった事は無いですね、正直なところ。

量産プラントの熱媒ボイラーの負荷計算の際に、各機器の熱負荷を計算して合算し その結果に 放熱量 10%をのっけてました。 配管からの放熱量とか反応器などの機器類からの放熱量なども関係無く 一律 10% としてましたが、まあ常識的にそんなものなのかなと思います。もちろん、配管については 経済的 最適厚みが適用される訳で、妥当な結果になっていると考えます。

高性能 保温材

保温材といえば、ロックウールとかグラスウール、ケイカルなどが一般的かと思いますし、手元のプラント配管ポケットブックなどにも 各保温材の熱伝導率 温度依存性 計算式が記載されています。で、韓国で仕事をしていた時に高性能な保温材というのを知りました。その名も "Pyrogel" と言う商品名で Aspen aerogel 社が製造・販売しています。日本ではニチアスやグンゼエンジニアリングなどでも取り扱っているようです。


実際に施工している現場を見ましたが、「ホントにこれで大丈夫なのか?」くらいに厚みが薄いです。端切れを見た感じでは濃いネイビーのブランケットのような感じでした。カタログなどを見ると、一般的な保温材と比較して 1/2 から 1/5 の厚みになるとの事です。メーカーサイトにあるデータと手元 参考資料記載のデータを比較してみたのが以下のグラフです。まあ、確かに低いですね。




このデータを使って 同じ条件(流体温度、外気温度等) で必要厚さを計算してみた結果が以下の棒グラフです。単位長さ当たりの放熱量を 21[W/m] となる保温材の厚さを求めます。ロックウールの場合は 44.1[mm] となり、これはこの条件での経済的 最適厚さですね。グラスウールは同程度で、ケイ酸カルシウムは少し厚くなりますし、パーライトは大幅に厚くなります。で、Pyrogel はと言うと、ロックウールの半分以下の厚さで OK となります。



で、配管に保温材を施工した際の図を以下に示します。ロックウールは厚さ45[mm] としています。こうして比較して見ると、Pyrogel の細さと言うか 薄さが際立ってますね。まあ、お値段もそれなりにするんだと思いますが、こんなに薄く出来るのであれば配管レイアウトとか配管ラックの幅とかにも好影響を与えるのかなと思いますね。




保温材の思い出


と、こんな図を描いていたら パイロットプラントの保温配管の事を思い出しました。パイロットプラントではプロセスの変更がたびたび有り、結構 無理な配管レイアウトになってたりします。要は隣り合う配管が近い訳なんですが、だからと言って保温をしない訳にはいかないので 保温しますね。となると、保温配管に挟まれた非常に狭い通路が出来上がったりします。まあ、普通の人であれば 体を横にして何とか通れますが、結構恰幅の良い人だとお腹がつっかえて通れません・・・。どうすんのかな~と思って見てると、まあ迂回するんですね当たり前ですけど。

で、スチームトレース 銅管にうっかり触って火傷した時の事も思い出しました。温度が下がってくると固化したり析出するようなモノを扱うパイロットプラントでしたが、配管もフランジもバルブもスチームトレースでぐるぐる巻きにして 更にその上から保温材を施工してほんの少しでも温度が下がらないようにしてました。で、工事真っ盛りの際に現場で確認したい事が有って、「えーっと、確かこの辺りに・・・」と手を伸ばしたら 180℃ のスチームトレースに右手甲の親指の付け根が触ってしまいました。 これくらいの温度になると 熱いよりは痛いですね。まあ、ほんの数センチくらいだったので、特に冷やしもせずに 我慢して作業を続けました。最初は赤くなってたんですが徐々に黒ずんできて、1週間くらいは跡が残ってました。この例は建設途中の話なんですが、運転しているプラントでのスチームトレース配管などは剥き出しとせずにリボン状の布を巻き付けたりしますね。データシートの Insulation 欄に PP と書かれていて、最初何のことか分からず 上司に聞いたら 「Personal Protection 火傷防止だよ」と言われました、なるほどですね。

と言う事で今回はこの辺で。


参考文献

  1. 「プラント配管ポケットブック 第6版」 日刊工業新聞社  2002年刊
  2. 「大学講義 伝熱工学」武山、大谷、相原 丸善 1983年刊
  3. 「図解 初歩から学ぶ化学装置設計」 化学装置 9月号別冊 工業調査会 2008年刊
  4.   Aspen Aerogel 社 https://www.aerogel.com/
  5.   ニチアス https://www.nichias.co.jp/products/product/fireinsulation/high/aerogel01.html






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