化工計算ツール No.16 小ネタ集

 たまには軽めの投稿でもと言う事で、小ネタをいくつかご紹介しようかなと。

  1. Antoine式を変形して 圧力から沸点温度を求める
  2. 気体の状態方程式から密度を求める
  3. 圧力の換算

実務において何回と無く使ってました。EXCEL で計算するというよりは、現場で電卓しか使えない場合などにチャチャっと計算出来る方法ですね。


1. Antoine式を変形して蒸気圧から沸点温度を求める

Antoine式は3定数の蒸気圧式で、定数が少ない割には精度が良いとされています。で、普通は温度から蒸気圧を求めますが、逆に蒸気圧から沸点温度を求めたい場合にも使えます。例えば、減圧下における沸点温度を求めたい場合ですね。



スチレンの場合、以下のようになります。と言うか、まあ普通の蒸気圧曲線ですね。
圧力を下げてみると以下のように沸点温度も下がります。

  • 圧力 760 [Torr abs]   沸点温度 145.2 [℃]
  • 圧力 200 [Torr abs]   沸点温度 100.8 [℃]
  • 圧力 50 [Torr abs]   沸点温度   65.2 [℃]

例えば、スチレン中に含まれる重合禁止剤 (4-ターシャリーブチルカテコールとか) を除去したい場合、ロータリーエバポレーターでスチレンを蒸発させて回収しましょうかとなります。ジワーッと蒸発させても時間がかかるだけなので沸騰させますが、大気圧ですと 145[℃] なので、これはもう重合温度ですよね。なので、重合してしまいます。まあ、短時間であれば問題無いとは思いますが。まあ、普通 ロータリーエバポレーターは減圧出来るので、減圧しますよね。200 [Torr] まで減圧すれば 100 [℃] で沸騰します。更に、50 [Torr] まで減圧すれば 沸点温度 65 [℃] となるので、だいぶ安心ですね。
で、沸騰する際には潜熱が奪われるのでフラスコを温水バスで加熱しますが、沸点温度よりも少し高めにしないと熱が移動しませんよね。沸点温度 100[℃]だとバスの温度はそれ以上にする訳ですが、媒体が水だと沸騰しますよね・・・。と言う事からもそれなりに減圧した方が重合もしにくいし、媒体温度も 100[℃] 以下になるので好都合と言うことになるのかなと。

Antoine式は圧力の単位や温度の単位で定数 A,B,C の値が変わってきます。例えば、圧力 [Torr] 、温度 [℃] における定数値と、圧力 [kPa]、温度 [K] における定数値を混ぜて使うとおかしな結果となります。




2. 気体の状態方程式から密度を求める

理想気体の状態方程式③を変形すれば、任意温度と圧力における気体密度計算式④が求められます。



気体の分子量が分かっていれば、式④に温度と圧力を代入すれば 密度が求められます。よほどの高温、高圧でなければ適用可能と思います。スチレン 分子量 104.15 [kg/kmol] の場合は以下のようになります。因みに気体定数は 8,314 [J/kmol K] です。

この計算式ですが、真空系の設計などに使用してましたね。




3. 圧力の換算

前述の蒸気圧や密度では圧力値に [Torr] いわゆる [mmHg] を使っています。ですが、このご時世 SI単位系を使うのが一般的で その場合 組立て単位である [Pa] となります。で、古い資料では 工学単位である [kg/cm2] も載ってたりします。で、現場とかで圧力単位を相互に換算する事が結構ありました。換算係数を覚えておけばそれで済みますが、しばらく使わないでいると忘れてしまうので、以下のような方法を使ってました。


  1. 圧力単位は [Pa]、[Torr]、[kg/cm2]、[mmH2O] 
  2. 換算元の圧力を 一度 [atm] に戻す
  3. [atm] を更に換算先の単位にする

で、図解するとこんな感じです。中心にあるのが [atm] で、 それ以外の圧力単位とは定数値を掛け算したり割り算して相互に変換します。




例) 450 [Pa] は [kg/cm2] ではいくらになるか?

450 を 101,325 で割り算して 0.004441 [atm] にします。これに 10,332 を掛け算すると  45.89 [mmH2O] となります。



例) 3.5 [kg/cm2] は [Torr] ではいくらになるか?

3.5 [kg/cm2] を 1.0332 で割り算して 3.3875 [atm] にします。これに 760 を掛け算すると 2574.5 [Torr] となります。

 


この方法ですが、割り算して掛け算するので二度手間といえば二度手間なんですが、この方法では以下の3つだけを覚えておけばOKです。[Pa] に関しては、[kPa] とか [MPa] があるので小数点の位置が変わりますね。また、[kg/cm2] では 1.0332 となり、 [mmH2O] では 10332 となります。[Torr] と [mmHg] は 760 のみです。

  • 101,325  or  101.325 or 0.101325
  • 760 
  • 1.0332 or 10,332

と言う事で今回はこの辺で。

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