化工計算ツール No.20 ベッセルのL/D

今回は円筒型容器 ベッセルの L/D (高さと内径の比率)についてご紹介します。
まあ、言うところの貯槽ですが、同じ円筒型であっても容量の大きな長期貯蔵用のタンクでは無く、プロセス機器として使用される比較的容量の小さい容器について取り上げます。一般的にはベッセルと呼ばれると思いますが、ドラムと呼ばれたり、更に小さいとポットとも呼びますね。

外見は以下の図のような感じでしょうか。円筒型の側壁、上下鏡板、ノズル、マンホール、吊り上げ用のラグ、自立する為の脚部などで構成されています。



ベッセルの最適 L/D 

この円筒型ベッセルにおいて 側壁部の長さ L と内径 D の比率 L/D はどの程度にするのかについてですが、決まった値は無いと思いますと言うか知りません。ただ、以前居た会社で調べてみた事が有ります。ほとんどが竪型ベッセルでしたが 大体 1.5~2.0 くらいでした。因みにより容量の大きな コーンルーフタンクでは 1.0~1.5 くらいでしたね。

まあ、「ベッセルのL/D は常識的にこんなもんでしょ!」とは思いますが、経済的な観点から最適な L/D は導き出せるのか、と言うのが今回の眼目です。まあ、元ネタとして 参考文献があるんですが、それによると以下の2点で考えています。

  • 製作費の観点から溶接線を最小とする L/D はどの程度なのか? 
  • 材料費の観点から重量を最小とする L/D はどの程度なのか? 

溶接線ですが、その字のとおり溶接箇所の長さです。まあ、普通は人間が溶接する訳なんで溶接線の長い短いが工数の大小となり、それに単価を掛け算すると溶接に要する費用となりますね。まあ溶接費用=製作費とは一概には言えないとは思いますが、まあ目安にはなるのかなと思います。配管工事とかでも、溶接に関する工数をダイヤインチとかで見積もりったりしますよね。まあ、あまり詳しくは無いのでアレですけど。

一方、重量は使用する鋼材の重量なので、単価を掛け算すると材料費となりますね。こちらは分かりやすいかと。余談ですが、高級材料であるチタンの重量単価はステンと比べて高いですが、密度が小さいので実際の重量から材料費を計算してみると、そこまでメチャ高では無いです。と、チタンを扱う業者さんが言ってました。まあ、よっぽどのエグい液を扱うのでなければチタンとかは使いませんけど・・・。


円筒型ベッセルの全内容積

まずはおさらいですが、 円筒型ベッセルの全内容積は以下の式①で計算されます。上下の鏡板は 2:1 半楕円体 (2:1 Ellipsoidal Dished Head) です。この式①を 内径Dについて解けば 式②となり、全内容積 V を決めれば 内径D が得られます。ここで、n = L/D としています。ED は式が単純で扱いやすいですね。これが 10% SD とかになるとキリの良い数字にはならないので面倒くさいです。 




溶接線を最小とする L/D

さて、溶接線を最小とする L/D を求めてみます。で、今回考えている ベッセルの溶接線ですが以下の図に示すとおりです。鏡板と側壁との溶接線×2箇所(上下) と、シェル部の溶接線との合計とします。まあ、もっと大きなと言うかシェルが太いのであれば複数の板を溶接するので溶接線も増えるかと思いますが。

で、式③のDに式②を代入すると、式④が得られます。この式から緑色の傍線を引いた箇所を抜き出して 関数 f(n) とします。これが式⑤です。この式⑤の値が最小となるnが求めたい L/D となります。更にこの式⑤を微分して式⑥にすれば、この式⑥がゼロになる時の n が求めたい nです。と、文章では分かりにくいのでグラフを描いてみます。





n に対して f(n) と f'(n) をプロットすると以下のようになります。
関数 f(n) は最小値を有しています。なので、一次導関数 f'(n) =0 になるときの n の値が最小値をとる時の n の値です。n=2.642 と言う値が得られました。まあ、一次導関数を使わなくても、 f(n) の値が最小となる n を EXCEL のソルバー機能を用いて求める事が可能です。

n = L/D が 2.642 となると、結構 細長いですね。ですが、まあ有り得ない訳では無いですね。例えば、常温で固体の粉体添加剤をベッセルに投入し、加熱溶解してからフィードする様な場合だと、このような比較的細長い L/D にする事もあるかと思います。加熱用にベッセル外側にジャケットを設置してスチーム加熱するのであれば、このような細長い方が好都合ですね A/V (加熱面積/体積 比率)が稼げるので。液面計を設置するにしても、細長い方が液位の変化が大きくなるので、分かりやすいですね。

とまあこんな感じで、溶接線を最小にしたいと言う場合では、L/D = 2.642 にすると経済的ですよと言えます。




重量を最小とする L/D


次は鋼材重量を最小とする L/D についてです。式⑦ですが円筒型ベッセルの表面積の計算式です。で、式⑧は円筒胴に内圧P が加えられた際の肉厚 t の計算式です。ここいら辺りは材料力学関連の書籍を見れば書いてありますね。更に肉厚が分かったところで表面積を掛け算すれば鋼材の体積が出ます。体積に鋼材密度を掛け算すれば重量となります(式⑨)。
式⑨を整理して式⑩にして、その一部を関数 f(n) とします(式⑪)。一次導関数は式⑫となります。




n に対して f(n) と f'(n) をプロットすると以下のようになります。
溶接線の場合と異なり最小値は持ちません。グラフにあるように単調に減少するだけです。この結果から、L/D を大きくする 即ち 細長くすると重量は減少します。細長くなると言う事は内径が減少する事なので、肉厚は薄くてすみます。結果として鋼材体積、重量は減ると言う事になります。まあ、L/D = 3 くらいまでは重量の減少度合いは大きいですが、それ以降の減少度合いは小さくなります。なので、あまりにも細長くしても重量の減少は頭打ちになる事が分かります。




まとめ

参考文献には以下のように記載してあります。加圧下で使用されるベッセルであれば このような L/D 決定指標が適用可能と思います。

  1. 重量最小を考慮する場合でフランジを追加するのであれば、L/D が小さくなると内径が大きくなりフランジ重量がかさむ(コストアップ)
  2. L/D 決定の際には 架構のビームスパン (最大 8m)や計装品ノズル(特に液面計)の必要長さを考慮する
  3. 溶接線最小を考慮する場合、まずは L/D 2~3 を選定し、フランジ厚みが増える加圧仕様では L/D 4~5 まで増加させ 併せて 上記 2. を考慮する

一方、大気圧下で使用され 設計圧力が Full Liquid であるようなベッセルでは L/D はあまり気にしなくても良いように考えます。まあ、そのようなベッセルでは上部鏡板は ED とかにはせずに フラットにしちゃいますね。ノズルも設置しやすいし、液や粉を投入する為のフタとかも設置しやすいですね。


補足

溶接線最小、重量最小のどちらの場合でも 関数 f(n) を導出し、更にその一次導関数 f'(n) を求めています。参考文献には微分した結果のみ記載してあったので、一応自分でもやってみようかと思いましたが、正直面倒くさいです・・・。このご時世、ネットで出来るのかなと思って検索してみると、有るんですね。便利ですね。

https://www.derivative-calculator.net/

式⑤を微分してみると以下のように出力されます。以下の画像では一次導関数だけですが、二次導関数も出せたりします。




参考文献

  1. 「化学装置 2008年 4号」 プラントエンジニアリングメモ 第13回  
  2. 「絵とき配管技術 基礎のきそ」 日刊工業新聞社 2012年


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