化工計算ツール No.24 局所排気 排風量

 有機溶剤や粉体を取り扱う作業場では必要に応じて局所排気設備を用います。略して「局排」と呼ばれますが、有機蒸気発生源や発塵源がフードによって囲まれていたり 若しくは  フードが接近して配置され、発生源の周囲空気を吸引する事により作業者が有機蒸気や粉塵に暴露・接触する事を防ぎます。下図にあるように、ダクト末端にフードが設置されており、周囲空気が吸引されています。このフード開口部に近接して発生源が有れば、発生した有機蒸気や粉塵は気流に同伴され開口部を通過してダクトへと排出されます。

局排については何度か検討した事も有りますね。ポリマープラントでも粉もの添加物を扱う事が多々あり、「なんかこの局排全然引っぱって無いんでちょっと検討して貰える?」的な案件が有りました。局排のフード自体に問題があったり、フード上流のダクトに問題が有ったりしました。

この局排ですが、きちんと設計上の指針が有り フード開口部における気流流速などが定められています。また、フード開口部と発生源との距離に応じて どの程度の排気風量 (排風量)とするべきかを計算する式が有ります。もちろん、フードのタイプもいろいろと有って、そのフードタイプに応じて適切な計算式を適用します。







排風量 計算式

以下のタイプのフードにおける排風量はそれぞれ下式で計算されます。

上段の囲い式 (Enclosure) ではフード開口部面積に所定の制御風速を掛け算して60倍すれば 排風量となります。k は開口部における風速の不均一を補正する為の係数です。風速が全く均一であれば k=1 となりますが、普通は 1 よりも大きな値となるようです。

中段は外付け式で円形と矩形が有ります。Xは開口部面から発生源までの距離であり、この位置で制御風速を達成する必要が有ります。下段は外付け式の縁にフランジを設置して、後方からの流入を防止したもので余計な排風量が削減されます。式③には定数値 0.75 が含まれていますが、フランジを設置する事で 排風量は 25% 減少する事になります。 で、このフランジの幅ですが 円形であれば 直径と同じ程度、矩形であれば 開口部の幅くらいは必要であるとされています。ただし、150[mm] 以上設置しても 効果は頭打ちになるとされており、最大で 150[mm] 設置すればOKとなりますね。

これら以外にもスリット式とかキャノピー式などが有りますが、まあ一般的に使用されるのは下図のタイプかなと。

 





制御風速

法令や規則により制御風速が定められています。専門書に記載されている値を以下に示します。粉じん則については作業内容によってもっと細かく定められていますが、制御風速の値を見るとだいたい下表のとおりとなっています。また、一番下の表はグラインダー用のフードについての制御風速です。有機蒸気などのガス状物質については制御風速は小さく、粉じんなどの固体状物質の制御風速は大きいな~と言うのが分かります。また、フード型式では囲み式よりも外付けの方が制御風速は大きいですね。





排風量 計算例


外付けフード 

で、外付け式フード (円形) について計算してみた結果を以下に示します。局排フードの開口部面から離れた箇所に発生源が有り、これを吸引します。 横軸は開口部面からの距離であり、離れれば離れるほど排風量は増加します。つまり、有機蒸気などの発生源が局排から遠いほど より大量の排風量が必要となります。

30センチ離れるとフランジ無しの円形フードでは 約 30 [m3/min] の排風量となります。正直 結構な風量ですね。これが10センチであれば 4 [m3/min] 程度の排風量ですみます。こんな局排フードが 10個もあるような局排システムであれば 大元の排気ブロワ容量は 300 と 40 [m3/min] となりますから、初期投資に大幅な差が出ますね。送風機メーカーのカタログを調べてみると、300 [m3/min] のブロワだと 本体重量 300キロ超、40 [m3/min]  のブロワだと 50キロ 程度です。排風量が大きいと当然 局排システムを構成するダクト径も大きくなるので、更にコストアップとなりますね・・・。

もちろん、あまりにフードに近すぎても作業がやりにくくなるので、作業内容や段取りなども考慮して適切な距離を決める必要が有りますね。




応用例 タンクへの粉体投入

参考文献に記載されている排風量 計算例を紹介しておきます。下図に示すようにタンクのノズルから紙袋に入った特定化学物質 粉体を投入します。この時、作業者が粉体に暴露しないように別途設けたダクトからから内部空気を吸引するものとします。この時の必要 排風量を求めます。

タンクに開口部であるノズルが設置されているので、囲い式フードと同じであると考える事が出来ます。なので、式①が適用可能です。特定化学物質 粒子状であれば制御風速 1.0[m/sec] となり、ノズル開口部において この風速を与える必要が有ります。開口部 面積は 0.0707 [m2] であり 制御風速を掛け算すれば排風量が出ます。また、補正係数 k ですが 1.0 として良いでしょう。ノズルとダクトとの距離 X が近いと 風速の不均一が発生するので k=1.1 程度にしたほうが良いとされていますが、この例では k=1.0 でOKとされています。結果として、排風量は 60×0.0707×1.0×1.0 = 4.24 [m3/min] となります。まあ、念の為 補正係数 k=1.1 としても 排風量は 4.67 [m3/min] と少し増えるだけですね。




まとめ

局所排気の排風量計算についてご紹介しました。局排自体は生産設備では無いですが、作業者の為には必要な設備ですし、能力が不十分だったりすると 作業者が粉まみれになったりして 所謂 「ブラック職場」になってしまいますね。また、局排設備は経年劣化が結構有ったりします。ダクトに粉じんが堆積して流路面積が減少していたとか、フレキシブルダクトが破れていて外気を吸い込んでいたとかは局排あるあるですね。なので、風速計を使ってフードで制御風速が出ているか確認すると言った点検やブロワ吸入側圧力の確認と言った運転状況のチェックは必須ですね。

局排システムとしては、各フードの排風量はもちろん重要ですが、フードやダクトの圧力損失も重要です。設計の際にはここいら辺りが非常に重要となります。排風量は各フードの排風を合計すれば済みますが、ダクトの圧力損失については排風量が徐々に加算されてきて、ブロワ吸入部で排風量最大となるので、排風量の増加を考慮して適切なダクト径を選択して 圧力損失を決定します。で、この圧力損失よりも大きな静圧を出せるブロワを選定しないと運転は出来ません。ここにも液体輸送配管の場合と同じ様に初期投資と運転費用の関係が有って、太いダクトにすれば圧力損失は減るのでブロワの電気代は減りますが、ダクト設置費用がかさみます。一方、細いダクトにすれば設置費用は減らせますが、圧力損失が過大となりブロワの電気代がかさみます。ダクトについても以前ご紹介した慣用流速が適用出来ますので、まずはざっくりとダクト径を決定して、その後で細部を詰めていくと言う進め方になるかと思います。あまり極端に風速が大きなダクトが出来ないように 分岐やレイアウトを決める事になるかと思います。結構地道な作業ですが、ここを端折ってしまうと いろいろと問題のある局排システムになってしまいますね。また、将来 局排フードを増設する可能性があるのであれば、ダクトをワンサイズ大きなものにしておくと言った考慮も必要になるかと思います。








参考文献

  1. 「新 やさしい局排設計教室」 中央労働災害防止協会 2012年刊





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