化工計算ツール No.25 複合伝熱

 今回は複合伝熱について取り上げます。伝熱の三形態は以下のとおりです。

  • 熱伝導      Heat Conduction
  • 対流伝熱   Convection Heat Transfer
  • 放射伝熱   Radiation Heat Transfer
上記のうち、対流伝熱と放射伝熱が同時に起こっている場合 複合伝熱と呼びます。
例えば、下図のように保温配管が有り その表面から対流伝熱と放射伝熱によって放熱が起こっている場合などです。対流伝熱も外気風速が小さければ自然対流の影響が大きく、風速が大きくなってくると強制対流の影響が大きくなります。これに加えて、保温材表面から周囲への放射伝熱が加算される事になります。自然対流伝熱、強制対流伝熱 及び 放射伝熱の寄与がどの程度なのかを計算してみます。





※ 自然対流と強制対流が同時に起こっている場合は、「共存対流」と呼ばれます。この共存対流伝熱ですがなかなか取り扱いは面倒ですね。自然対流の向きと強制対流の向きの組み合わせによって、伝熱が促進されたり 阻害されたりします。手持ちの伝熱関連の書籍には記載されてませんでした。ネットで文献を調べるとチラホラと有りますが。上記のような放熱計算であれば、現実的には強制対流が支配的になるような条件(風速) で計算して、その結果を採用する事になるかと。



複合伝熱 計算式


無次元数

まずは、熱伝達係数推算に必要となる各種 無次元数についてリストアップしておきます。強制対流であればレイノルズ数、プラントル数 が必要ですが、自然対流となるとグラスホフ数が必要となります。グラスホフ数とプラントル数との積はレイリー数と呼ばれます。





推算式

強制対流伝熱、自然対流伝熱及び放射伝熱の推算式は以下のとおりです。まあ、強制対流と自然対流については一般的な推算式ですね。放射伝熱については 直接 熱伝達係数を算出する格好になっています。その際、総括吸収率Φ12 が必要となりますが、放射伝熱が起こっている面の配置によって変化します。普通使われるのは二番目の配置でしょうか。面①の周囲が面②によって全部囲まれている場合が相当します。その場合、総括吸収率は面①の放射率 ε1 と等しくなります。





計算結果


自然対流と強制対流

以下の条件で自然対流と強制対流における熱伝達係数を計算してみた結果です。せっかくなので外気風速を変化させています。また、保温配管表面の放射率 emissivity は 0.9 [ - ] としています。 外装材がピカピカのステン板とかであれば 0.2とかだいぶ小さい値になるかと思いますが、まあ多少大きめにしています。

  • 保温配管 外径           150[mm]
  • 表面温度               29 [℃]
  • 外気温度                     25 [℃]
  • 保温配管 表面 放射率 0.9 [ - ]

風速が増加すると強制対流 熱伝達係数は当然増加します。と言っても、気体なので熱伝達係数自体は液体の場合と比べると2桁ほど小さいですね。自然対流 熱伝達係数ですが、この程度の温度差であれば 3.1 [W/m2 K] 程度ですね。

で、この共存対流ですが 日本機械学会の機械工学事典(Web版) によれば以下のように記載されています。

「主として自然対流と強制対流が共存している場合をさす.一般に,グラスホフ数とレイノルズ数の比Gr/Re2が1より十分小さければ熱伝達は強制対流が支配的であり,Gr/Re21ならば自然対流が支配的となる」

下段のグラフでは Gr/rRe2 に対して 熱伝達係数の比率をプロットしています。両対数グラフではうまい具合に直線となりました。




複合伝熱

対流伝熱と放射伝熱が同時に起こっている場合の熱伝達係数の値は以下のようになります。放射熱伝達係数は式⑧を用いて計算しますが、式中に含まれる総括吸収率Φ12 については配管が温度一様の空気や周囲構造物等によってグルっと包囲されていると考えて、式⑩ 即ち ⑪ を適用します。 

で、結果ですが風速がそれほど速く無い場合は、放射伝熱の影響も無視できないのできちんと考慮しましょうと言う事でしょうか。風速が大きくなれば放射伝熱の影響は相対的に減少しますね。

  • 自然対流 + 放射伝熱   8.61 [W/m2 K]
  • 強制対流 + 放射伝熱 11.96 [W/m2 K]



まとめ

複合伝熱の一例として、保温配管表面における熱伝達係数 推算結果を紹介しました。参考文献によれば、JIS 保温材の放熱量計算に用いられている 熱伝達係数値 12 [W/m2 K] の根拠は、風速 0.5[m/sec] における 強制対流伝熱と放射伝熱との複合伝熱であると記載されています。と、手元のプラント配管ポケットブックを見てみると。放熱量計算における熱伝達係数は 10 [kcal/hr m2 ℃] とありました。これを SI 単位系に換算すると、11.6 [W/m2 K] なので値はほぼ合ってますね。実務でも特に気にせずに 10 を使ってましたが、まあこんなところが根拠なんでしょうね。

放射伝熱ですが、ごく普通のケミカルプラントではあまり考慮する事は正直無いと思います。よほど流体の流速が遅い場合とか、加熱壁面と流体との温度差が大きい場合には考慮するとは思います。もちろん、熱媒加熱用貫流ボイラの設計などでは コイルを放射伝熱部と対流伝熱部とに分けて 熱媒の受熱量を計算したりするので 放射伝熱の見積もりはきちんとするとは思いますが、特殊機器なんで良く分かりませんね。まあ餅は餅屋です。

冷房が効いている筈なのに なんか暑いな~と云うのは、部屋の壁温度が高いので放射伝熱によって受熱してしまう影響もあるんだと思います。反対に冬だと壁温度が低いので、なんか寒いな~と感じたりする訳ですね。ヨーロッパではお城は分厚い石造りだったりしますけど、冬には壁にタペストリを掛けて、かつ暖炉でガンガンと薪を燃やしてたりしますが、これも放射伝熱を考えれば説明がつくと何かで読んだ事が有ります。タペストリを掛けるのは冷たい壁の表面が露出しないようにする為で、暖炉で薪を燃やすのは放射伝熱によって人体に直接 熱を届ける為だとか。まあ、王様とか貴族が住むような広い部屋であれば 室内の空気全体を暖めるのは 難しいでしょうし、となると放射伝熱を有効に使う方が得策ですね。そして、王様や貴族はものすごく厚着していますが、あれは威厳を保つ云々よりは 単にものすごく寒いから、なんだとか。


補足

文献に記載されている 強制対流と自然対流との混合伝熱について補足しておきます。
空気中に水平加熱円柱があって加熱されており上向きの浮力流れが生じています。ここに水平方向の気流を流すとヌッセルト数がどのように変化するのかを実験的に検証しています。横軸は無次元パラメータで大きくなると自然対流が支配的になり、小さくなると強制対流が卓越します。まあ、こんな感じで整理できるんだと思います。

文献には、実験で得られた混合伝熱 ヌッセルト数を整理した式があります。その式を使って計算してみました。結果、2%ほど大きくなりましたが まあほぼ同じって感じでしょうか。文献の実験範囲から計算範囲が外れているので、あまり信憑性は無いかなと。

  • 自然対流 + 放射伝熱   8.61 [W/m2 K]
  • 強制対流 + 放射伝熱 11.96 [W/m2 K]
  • 混合伝熱 + 放射伝熱 12.18 [W/m2 K]





参考文献

  1. 「初歩から学ぶ化学装置設計 化学装置 9月号別冊」 工業調査会 2008年刊
  2. 「プラント配管ポケットブック 第6版」 日刊工業新聞社 2008年刊
  3.  ”水平加熱円柱まわりの強制-自然共存対流の流動と伝熱 (空気の場合)"
     北村 健三ら
     日本機械学会論文集 (B編) 73巻 725号 (2007-1) pp.239-246




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