化工計算ツール No.26 多管式熱交換器のシェル径

 今回は、多管式熱交換器 Shell & Tube Heat Exchanger のシェル径についてご紹介します。多管式熱交換は円筒型の胴 Shell に多数の伝熱管 Tube を設置し、この伝熱管を介して プロセス流体とユーティリティ流体との間で熱交換を行います。プロセス流体を加熱するのあれば 加熱器 Heater となりますし、冷却するのであれば冷却器 Cooler となりますね。もちろん、相変化を伴う場合もありますし、そうなると 蒸発器 Evaporator と凝縮器 Condenser となります。蒸留塔に設置される蒸発器は 特に再沸器 Reboiler と呼ばれます。

この多管式熱交換器ですが、ケミカルプラントではごく一般的に使用されています。ある程度以上の伝熱面積を有する熱交換器であれば、ほぼ多管式になるかと思います。特殊な用途であれば、例えば プレート式やスパイラル式も有るにはありますけど。

で、多管式熱交換器で大事なのは、この本数の伝熱管であればシェル径はどれくらいになるのか? でしょうか。 まあ、大きな多管式熱交換器(伝熱面積 数百m2以上) であればエンジニアリング会社や熱交換器製作メーカーに発注します。であれば、データシートや図面などがきちんと作成されるので それらを見れば 詳細な仕様や各部寸法なども明記されています。ですが、パイロットプラントに設置するような比較的小規模の熱交換器であれば、自分で設計する事が大半だと思います。そのような場合、どれくらいのシェル径になるのかを計算する事が出来れば便利です。






多孔管式熱交換器 

計算式を説明する前に、多管式熱交換器について復習しておきます。この熱交換器ですが、胴と伝熱管、そして前後のヘッドから構成されます。


多管式熱交換器 構造  Heat Exchanger Types

で、TEMA, Tubular Exchanger Manufacturer Association の分類を以下に転載しておきます。もう、これはケミカルエンジニアであればおなじみですね。組み合わせによっていろいろな型式がありますが、個人的には BEMとかBEUくらいしか見たことは無いですね。石油精製とか石油化学の分野ではいろいろとあるのかも知れませんが。




胴径  Shell Diameter

また、胴径ですが 以下に示すように比較的小さいものであれば鋼管を使いますが、大きくなれば 鋼板を巻いて胴とします。16B までは鋼管を使えますね。図には 内径 1,500[mm] まで描いてますが、まあ相当大きいですね。




伝熱管  Heat Transfer Tube

で、次は伝熱管ですが こちらも使うサイズが決まっています。以下の2種類が使われますが、これまでに見たデータシートや図面では 25.4 [mm] と 19.0[mm] がほとんどでした。  また、伝熱管の間隔 Pitch は管外径の1.25倍程度とします。なので、25.4[mm] では 32[mm] 、19.0[mm] では 25[mm] とします。管配列は下図に示すように三角配列若しくは四角配列とします。管束を機械的に洗浄するのであれば 四角配列としますが、まあ普通は三角配列でしょうか。





シェル径 計算式

シェル径、伝熱管 仕様(外径・ピッチ・数量) との関係式は以下のとおりです。式①は伝熱管本数、外径、ピッチ、パス数 Np からシェル径を求める式です。1 Pass であれば Np=1 となります。一方、式②~⑥はシェル径、伝熱管 外径、ピッチ及びパス数を与えて、設置出来る伝熱管本数を求める式です。まあ、式①を変形したものですね。なので、式①において伝熱管本数を変えて計算してみて所定のシェル径になるようにすれば、それが求めたい伝熱管本数ですね。EXCEL であれば、ソルバー機能を使えば計算出来ます。とは言え、いろいろとケーススタディしたいのであれば、いちいちソルバーを起動するのも面倒なんで 直接求める方が早いですね。





計算例 伝熱管本数からシェル径を求める

以下の条件でシェル径を計算した結果を以下に示します。

  • Tube OD     19.0, 25.4 [mm]
  • Pass No.       1
  • Tube Layout  Square, Triangular

伝熱管 1200 [ - ] では、以下のシェル径となりました。シェル径の差異はそこそこ有りますね。

  • 19.0 [mm] & Square        Tube  1,200 [ - ]  Shell ID  1,018 [mm]
  • 19.0 [mm] & Triangular    Tube  1,200 [ - ]  Shell ID    951 [mm]
  • 25.4 [mm] & Square        Tube  1,200 [ - ]  Shell ID  1,299 [mm]
  • 25.4 [mm] & Triangular    Tube  1,200 [ - ]  Shell ID  1,212 [mm] 


ですが、伝熱管は同じですが伝熱面積は異なります。19.0 [mm] の伝熱面積は 71.6 [m2] で、25.4 [mm] の伝熱面積は 95.8 [m2] となります。まあ、伝熱管 外径が異なるので当たり前ですが、これだと少し面白く無いので伝熱面積を 80 [m2] となるように伝熱管の本数を調節してみたのが、下段のグラフです。




まあ、この程度の差異になるんですね、伝熱面積を同じにすると。

  • 19.0 [mm] & Square       Tube  1,340 [ - ]  Shell ID  1,074 [mm]
  • 19.0 [mm] & Triangular   Tube  1,340 [ - ]  Shell ID  1,002 [mm]
  • 25.4 [mm] & Square       Tube  1,003 [ - ]  Shell ID  1,192 [mm]
  • 25.4 [mm] & Triangular   Tube  1,003 [ - ]  Shell ID  1,112 [mm] 





計算例 シェル径から伝熱管 本数を求める

今度は式②から⑥までを使って与えられたシェル径で何本の伝熱管が設置出来るかを求めてみます。まあ、式①から得られる結果と同じですね。


  • 19.0 [mm] & Square        Shell ID  1,018 [mm]  Tube  1,155 [ - ]  
  • 19.0 [mm] & Triangular    Shell ID    951 [mm]   Tube  1,334 [ - ]  
  • 25.4 [mm] & Square        Shell ID  1,299 [mm]  Tube     695 [ - ]  
  • 25.4 [mm] & Triangular    Shell ID  1,212 [mm]  Tube     802 [ - ]  




Tube  Layout 例

せっかくなんで、Tube Layout 例も載せておきます。シェル径 1000[mm] とかであれば 図を描くのも大変なんで、シェル径は 300A 12B にしてみました。伝熱管 外径 25.4[mm] でピッチ 32[mm] の三角配列としました。計算してみると 伝熱管は56本設置可能となりました。で、実際に 図を描いてみると以下のようになります。うまく対称になるように設置してみると 55本となりました。 まあ、どうしても 56本にしたいのであれば、まだスペースは有るので 詰め込む事も可能です。普通 熱交換器の設計では 交換熱量は Over Design factor 1.2倍としますので、その時点で 伝熱面積は2割増しとなっているので 56が 55になっても問題は無いですね。

また、この場合のシェル径は 297.9 [mm] ですが、その内側に Φ 277.9 [mm] の破線を描いています。内径との差異は 20[mm] ですが、これが式①に含まれている 0.02 [m] です。製作する上では伝熱管をシェル内径にギリギリまで設置する事は出来ないので、製作上の余裕として含めていると言う事でしょうか。なので、伝熱管はこのΦ277.9[mm] の中に収まるように配置しています。まあ、もっと大きなシェル径であれば 50[mm]くらいとしても良いとは思いますけど。






まとめ

今回は多管式熱交換のシェル径と伝熱管本数との関係についてご紹介しました。上記の例にあるように大体こんな感じですね。伝熱管本数が増えるのであれば、同じ様な調子でシェル径が大きくなっていくだけです。久しぶりに Tube Layout を描きましたが、今は 専用のソフトウェアなどが有るんで、自動的に作成してくれるんだと思います。まあ、それでも実際に描いてみると 設計の感触が把握出来るので 面白いですね。

実務では結構大きな多管式熱交換器も扱ったりしましたが、図面だけでも 何枚もあって チェックするだけでも大変でした。熱交換器でも特にコンデンサーとかはいろいろと考えられていて面白かったですね。竪型のコンデンサーで、伝熱管の内壁に流下液膜を形成させたりとか。特殊は特殊なんですが、熱交換器設計ハンドブックには設計法が載ってたりするので、あーでもないこーでもないと検討しましたね。





参考文献

  1. 「化学装置 プラントエンジニアリングメモ 第123回」 2018年1月号 
  2. 「熱交換器設計ハンドブック」工学図書 1974年刊 
  3. 「プロセス機器構造設計シリーズ1 熱交換器」丸善 1969年刊
  4. 「入門 化学プラント設計」培風館 1998年刊

Web site

  1. TEMA Frequently Asked Questions.pdf  https://tema.org/


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