化工計算ツール No.27 加熱冷却システム

 今回はケミカルプラントでは最重要とも言える加熱冷却システムについてご紹介します。まあ、原料は普通常温でプラントに持ち込まれますし、そして製品も常温でプラントから持ち出されます。であれば、プラントの「入口」と「出口」だけを考えると熱の授受は無いように見えますが、実際には所定温度まで温めたり、そして今度は冷やしたりする事になります。ですので、どんな加熱冷却システムを適用したら良いか?が重要になりますね。

とは言っても、ケミカルプラントで使われるシステムはその温度域によって大体決まっているかと思います。下図は参考文献に記載されている内容を参考にして作成したものです。






加熱冷却システム 分類

加熱冷却システムですが上図では、温度域によって分類しています。ここで、誘導加熱以外は何らかの媒体が用いられています。で、媒体温度を調節する事によって、加熱したり冷却したり出来ますね。蒸気の場合は、まあ加熱しか出来ないですね。加えて、蒸気では凝縮潜熱を利用する事によって高効率での加熱が可能です。溶融塩は非常に高温(400℃以上) では適用される例もありますが特殊ですね。

  • 溶融塩  Molten Salt  高温で溶融する無機物
  • 熱媒   Hot Oil 芳香族有機化合物 液体・気体
  • 加圧蒸気 Steam  大気圧以上の水蒸気による加熱
  • 減圧蒸気 Vacuum Steam 大気圧以下の水蒸気による加熱
  • 冷却水  Cooling Water 20~30℃程度の水
  • 冷凍水  Chilled Water 0~20℃程度の水
  • 冷媒   Brine 0℃ 以下の液体  

で、媒体を加熱する手段としてはボイラとかファーネス(加熱炉)が有り、燃料によってガス焚きとか重油焚きとかが有りますね(混焼もあり)。小規模であれば電気ヒータも適用可能ですね。昔は C重油 とかでしたが、今は LNG焚きが多いんでしょうか。媒体の冷却では、冷却水であれば冷却塔 (Cooling Tower)、冷凍水や冷媒であれば 吸収式や圧縮式冷凍機とかでしょうか。あまり規模が大きくなくてガチガチに冷やしたいのであれば、媒体を介さずにフロンなどの冷媒直噴きなども見たことは有りますね。

これら以外にも、加熱手段として赤外線とかマイクロ波なども有るには有りますね。また、少し特殊ですが 液体の水を減圧下のジャケットに供給して液膜状に流下させ、その水の蒸発潜熱により冷却する方法も有りますね。

ケミカルプラントにおいて通常使われるのは、「熱媒」、「蒸気」、「温水」、「冷却水」、「冷凍水」くらいでしょうか。


液相循環加熱方式 温水 

まあいろいろと加熱方式には有りますが典型的な加熱方式の1つである 液相加熱方式について、被加熱液を所定温度まで加熱昇温する場合を想定し、仕様を計算したり図面を描いて 少し詳しく見てみます。


プロセスフロー

循環ポンプによる温水循環方式のプロセスフローは例えば以下のようになります。被加熱液の貯留されているジャケット付き容器、温水タンク、循環ポンプが配管で連結されて経路を構成しており、温度調節された温水が循環します。この場合は加熱を行うので、高温熱源である加熱用スチームが供給されます。もし、冷却もしたいのであればクーラーも設置する必要が有ります。


設計条件

このシステムの基本仕様を計算してみます。条件は以下のとおりとします。

  • 被加熱液 水
  • 内容量  5 [m3]
  • 温度   初期 20 → 最終 50 [℃]
  • 容器   竪型円筒 L/D=2, 上下鏡板 2:1 ED , 材質 SUS 肉厚 8 [mm]   
  • 加熱方式 温水による液相強制循環方式 
  • 加熱媒体 温水, 流量 5 ~ 40 [m3/hr]
  • 媒体温度 入 80 [℃]  
  • 加熱源  スチーム 120 [℃]





容器 仕様

被加熱液の容器は以下のようになります。L/D =2 なので少し縦長な感じですね。
HW を通液するジャケットを設置しています。もちろん、スパイラルバッフル付きです。この場合、接液部面積(=伝熱面積) は 14.07 [m2] となりました。液単位体積当たりの面積 A/V [m2/m3] は 2.814 となり、まあ悪くは無いですね。

スパイラルバッフルですが、寸法が決まっている訳では有りません。HW は螺旋状の流路を下から上に流れて行きますが、断面の平均流速が 常識的な値となるようにすれば良いと考えます。まあ、1.0 [m/sec] 前後でしょうか。また、矩形流路なので相当直径に変換します。ただし、普通の相当直径では無くて 伝熱の相当直径を適用しています。下図にあるように、浸辺長さとして「伝熱が起こっている辺長」のみを用います。







必要加熱時間

上記条件で計算してみると被加熱液を所定温度まで加熱するのに必要な時間は以下の様になりました。1時間以下くらいとなりますが、この程度であれば許容出来るかなと思います。これが 2・3時間となると 少し厳しいですね。 計算式は このブログの 「化工計算ツール No.5 物体の冷却」でご紹介したものです。今回は加熱ですが、使う式は全く同じですね。一応、再掲しておきます。

使用する式②には 総括伝熱係数 U が含まれます。Jacket側については 流路 相当直径と平均流速 及び 物性値を使ってレイノルズ数を計算し、強制対流熱伝達係数 推算式を適用しています。一方、ベッセル内側については まあ何らかの撹拌がされていると想定し、熱伝達係数値 500 [W/m2 K] に固定しています。まあ、この投稿では本題では無いので。

さて 、グラフに示すように HW 流量を変化させて計算していますが、むやみに流量を増やしてもあまり効果が無い事が分かります。このグラフで Heat Capacity は、どれくらいの加熱能力が有るかを示しています。で、この加熱能力ですが 加熱開始直後に最大値となり、その後はどんどん減少します。加熱開始時は 被加熱液温度が低く、一方 HW 温度は 80 [℃] ですので温度差は最大となる為です。被加熱液の温度が上がってくると 温度差も小さくなるので 加熱能力も減少しますね。この条件では、加熱能力は 150 ~ 300 [kW] くらいですね。





HW Tank 仕様

温水タンクですが、以下の図では角タンクとしています。大気開放のタンクなので内圧は液ヘッドだけですし、強度が心配であれば 補強用のリブを溶接すれば良いかと。容量ですが、まあ 2.0[m3] もあれば良いと思いますね。HW 循環流量を 20 [m3/hr] として、HW 滞留時間を 5[min] とすれば、20 ÷ 60 ✕ 5 = 1.67 [m3] となりますね。滞留時間ですが、貯留用のタンクとかでは無くプロセス中に設置されるベッセルなので、まあこの程度なのかなと思います。大きすぎると無駄ですし、かと言って 小さすぎると 加熱開始直後に冷たいHWが戻ってきて タンク内のHW温度が下がり過ぎます。それと、ポンプのキャビテーションを避ける上では多少は液深が有ったほうが良いですね。加熱用スチームは液中に浸漬した多孔管から吹き込むようにしています。







循環系 配管・ポンプ

配管ですが 液体の場合の慣用流速 3.0 [m/sec] となるようにサイズを選定してみます。HW 流量 20 [m3/hr] であれば、内径は 49 [mm] くらいとなりました。なので、配管サイズは 2B (50A) を選定します。となると、平均流速は 2.4 [m/sec] となります。

また、ポンプ仕様ですが流量と吐出圧(揚程) 及び 電動機容量です。流量は自分で決定出来ますが、揚程は配管圧力損失が定まらないと決めようが無いですね。で、圧力損失の計算には配管全長(実長と相当長)が必要となりますが、これには機器レイアウトが必要となります。ですが、まあざっくりと 50[m] と仮定します。それに加えてポンプ吐出口と循環系 最大高との差異、所謂 実揚程は 5[m] とします。

  • HW 流量    20 [m3/hr]
  • 配管サイズ  2B (50A)
  • 平均流速   2.4 [m/sec]
  • 実揚程       5 [m]
  • 配管全長    50 [m] (実長 + 継手等 相当長)
  • 全揚程    8.7 [m]

ポンプタイプですが、そこそこ温度の高い温水なので キャンドポンプとします。となると、ベンダーとしては帝国電機さんか日機装さんとかになるので ホームページに記載されている Q-H図から適合する機種が有るかを確認すると、まあ有りますね。電動機容量は 1 [kW] にも満たない程度なんでだいぶ小さめですね。


液相循環加熱方式 熱媒

これまでの実務では温水循環系も何回かやりましたが、最も手掛けたのが熱媒系でしょうか。温度が高いので熱媒体油を使用します。下図に例を示しましたが、加熱源として熱媒ボイラーを使います。このボイラーと循環ポンプ、配管からメインループを構成します。ここを高温熱媒が循環します。そして、各ユーザー(反応器とか)はポンプと配管でサブループを構成しており、ここにも熱媒が循環しています。んでもって、必要に応じてメインループからサブループへと熱媒を供給し、加熱に必要な熱量を賄います。うーん、よく考えられていますね。このシステムを初めて見た際には結構感動しました。温水循環系と違うのは、このシステム自体が閉ループなので 熱媒の熱膨張を逃がすための膨張タンクを システムの一番高い場所に設置する事でしょうか。もちろん、温水循環系でもあっても閉ループとするのであれば 温水膨張タンクが必要となります。





メインループの配管仕様やサブループの配管仕様などを決定するのは結構大変でした。レイアウトも決めておかないといけませんし。また、上図では メインループは1本だけですが、これを2本にする場合も有ります。高温熱媒と低温熱媒の2本ですね。そして、サブループ内の熱媒温度が所定温度となる様に高温と低温を混ぜ合わせます。これまた良く考えられていますね。ですが、設計に要する業務負荷は確実に増加します。

量産プラントの熱媒系の改善検討をやる場合、各ユーザーの必要熱負荷の算定から始まって サブループへの熱媒の流入量算定や圧力損失計算等々 する事は山ほど有りますね。なので、1週間から2週間ほどの業務負荷となってました。まあ、一度 EXCELシートを作成しておけば 結構楽にはなりますが。熱媒系には温水系には無い大変さがあるので、この投稿で紹介するには結構荷が重いですね。なので、ここまでとしておきます・・・。


まとめ

加熱冷却システム (と言っても加熱の方だけですが) について、計算例を交えながら紹介しました。地味では有りますが、加熱と冷却はケミカルプラントでは必須なので重要ですね。この手の計算例とかノウハウは 書籍や文献にもあまり載って無いので、実務を通してコツコツ 知識や知見を蓄積していくしか無いのかなと思います。まあ、基本は熱収支計算なので 足したり引いたりするだけでは有るんですが。

いずれにしても、ケミカルプラントにおける加熱と冷却に関してはいろいろと苦労しました。特に数十m3を超えるような量産スケールの反応器ではなかなか簡単では有りません。昇温工程のサイクルタイムを60分でとか言われても、伝熱面積が足りないので出来ませんね。加熱媒体の温度を上げて対応しようとしても、媒体が温水ですと 100度以上には出来ませんし・・・。同じ様に、冷却工程は 30分でとか言われても、低温熱源が 冷凍水であれば 媒体温度は 5度くらいまでしか下げられませんし・・・。 なので、加熱であれば専用のボイラで作ったキレイなスチームを直に反応器に噴き込むとかも検討しましたね。ですが、なかなか思うようには行きませんでしたね。

また、反応器では材質として 大抵 ステンレス (SUS304とか306) が使われますが、炭素鋼と比べて熱伝導率が あまり良くは無いです。まあプロセス流体が触れるのでステンを使うのは必須ですが、伝熱が結構 クリティカルになったりする場合には、苦肉の策として クラッド鋼の適用を検討したりもしました。母材の炭素鋼に合材としてステンを接合したものですね。例えば 反応器の図面に、"Clad 6+12" とか書いてあれば、ステン 6ミリと炭素鋼 12ミリを接合したクラッド鋼となります。旭化成さんの爆着クラッドなどが有りますね。まあ、内部に伝熱コイルを装入する! と決めてしまえば、ステン のソリッドでOKとはなりますけど、それはそれでリスクが有りますね。


参考文献

  1.  「化学装置の加熱システム」 神鋼パンテツク技報  第37巻 第2号 1993年
  2. 「熱媒システムハンドブック」 工業調査会 1996年刊
  3. 「熱交換器設計ハンドブック 第6章 非定常操作」 


Web Site

  1. 日機装 https://www.nikkiso.co.jp/
  2. 帝国電機 https://www.teikokudenki.co.jp/
  3. 旭化成  BAクラッド https://www.asahi-kasei.co.jp/baclad/jp/about/index.html




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