今回の投稿では、加熱冷却システムと同じユーティリティの1つである 「真空システム」を取り上げます。減圧蒸留であるとか蒸発操作などでは装置内を大気圧下にする事が有りますが、その為には真空源と言うか低圧源が必要となります。そこで 真空ポンプ等から構成される真空システムが設置される事になります。
下図は参考文献から作成したもので、一般的な真空ポンプ形式とそれらの作動圧力範囲を示しています。この投稿では連続運転されている装置を想定して、真空ポンプの必要排気量を計算してみます。ただし、それほどの高真空では無く まあ数 [Torr] 程度の低真空 領域です。
真空システム 計算式
以下のような真空システムを想定します。真空容器と真空ポンプが導管(配管)で連結されており、容器内を排気します。容器内には外部からのリークガス Q3 のみがあるとします。もちろん連続的なものなので、常にこのガスを排気する必要が有ります。で、容器内の圧力を所定圧力 p1 に維持するとした時、必要な導管仕様(内径と長さ) 及び 真空排気量 qp を求めてみます。
- 容器と真空ポンプが導管(円形配管) で連結されている
- 容器内には外部からリークガス(空気) Q3 が常時 漏れこんでいる
- 容器内 ガス発生 Q1、容器材質からのガス発生 Q2 及び 逆流 Q4 は考慮しない
- 容器内の圧力を p1 に維持する
検討手順は概略以下のようになります。実効排気速度 qeff とコンダクタンス K の単位は同じであり、K は qeff よりも大きい必要が有ります。式⑤を見ると分かるように、右辺第一項は qeff の逆数であり、右辺第二項は K の逆数です。もし、qeff = K であれば 右辺はゼロとなり ポンプ排気速度 qp は無限大となりますので、答えが得られません。なので、式④に示すように K > qeff である必要が有ります。
- 真空排気量 Q の決定
- 実効排気速度 qeff の決定
- 導管のコンダクタンスを計算
- 真空ポンプ 排気速度 qp を計算
計算結果
以下の条件で計算してみます。計算式を見て分かるように、定常状態であれば容器 内容積は関係有りませんね。まあ、運転開始時の減圧工程にどれくらいの時間がかかるのかは重要です。なので、必要な減圧時間を別途計算しておく必要が有ります。特に、何回も減圧と大気開放を繰り返すような バッチ工程では重要ですね。
- Air Leak 流量 1.0 [m3/hr] @大気圧
- 導管 長さ 20 [m]
- 容器内圧 5.0 [Torr] に維持する
導管 内径の影響
容器内圧の影響
圧力損失 計算との比較
まあ、上記のような感じで真空システムの仕様を計算出来ます。コンダクタンスを使っていますが、正直なところ実務では 普通の圧力損失 計算式 即ち ファニングの式を使っていました。と言うのも、 低真空領域 つまりは粘性流領域であれば ファニングの式で十分計算出来るからですね。と、その辺りを計算してみたのが以下の結果です。導管仕様を固定して Air Leak 流量を変えて 平均流速とレイノルズ数を計算しています。Air Leak 流量 1.0 [m3/hr] の場合ですと 流速はまあ速いですが レイノルズ数は 390 と明らかに層流域ですね。レイノルズ数 Re = (d ✕ u ✕ ρ) / μ の分子には密度値が有りますが、減圧下では非常に小さくなる為です。因みに粘度値はよほどの低圧にならない限り、常圧での値を使えます。
で、摩擦係数を求めて ファニングの式で圧力損失を計算すると 49 [Torr] となります。この値ですが、上記の式①~⑤を用いて求めた圧力差 47 [Torr] とほぼ同じですね。なので、式⑧はファニングの式で摩擦係数を 16/Re とした場合と同じと言う事になります。数[Torr] 程度の低真空領域であれば 一般的な圧力損失計算を適用して OK と言う事ですね。普通の圧力損失計算であれば 継手やバルブなどの損失係数などを適用出来るので何かと便利です。
まとめ
真空システム 仕様の計算についてご紹介しました。真空システムについては 何回か検討しましたが、圧力損失計算自体はまあ出来ますが システムへの負荷量がどれくらいなのかを決める方が難しかったですね。例えば、脱モノマー装置から分離されたモノマーベーパーですが途中のコンデンサーで全部叩き落とします。で、システムに飛散するのは不凝縮ガスとそれに随伴するごく微量のモノマーベーパーとなります。で、この不凝縮ガスですが 装置へと漏れ込む Air であったり、調圧用窒素であったりします。まあ、Air Leak 流量は 別途 決定する指標が有るので、それを使えば出せますね。随伴するベーパー流量もまあ推定可能です。ただ、本当に合っているのかは正直良く分かりませんでしたね・・・。なので、真空ポンプの仕様も どちらかと言えばデラックス化する方向なのかな~と。
また、真空システムの配管も結構 長かったりするので、太い配管にしても圧力損失はそれなりに有ります。と言っても、数 [Torr] なんですけどね。んでも、装置内圧が 例えば 5 [Torr] で 圧力損失が 3 [Torr] であれば 真空ポンプ入口圧力は 2 [Torr] 以下にする必要が有ります。若しくは、既設の真空ポンプ入口圧力が 3 [Torr] であれば、許容される圧力損失は 2 [Torr] となります。配管の途中にコンデンサーが有ったりすると コンデンサーに許容される圧力損失は 0.5 [Torr] とかになって、結構シビアですね。ただし、コンデンサーに流入したベーパーは凝縮して液体になり 圧力損失の発生源が無くなってしまうので、その点は好都合ですね。
補足
減圧装置への Air Leak 流量 計算例を以下に示します。「化学装置 2020年 8月号 プラントエンジニアリングメモ 第151回」からの抜粋です。下段グラフを見ると、装置内圧が大気圧に近づくと共に Air Leak 流量 [kg/hr] は増加していますが、これは Air 密度が増大する為と記載されていますね。この投稿では Air Leak 流量 1.0 [m3/hr] としていますが、これは 0.83 [kg/hr] に相当しますね (Air 密度 1.2 [kg/m3] として) 。
参考文献
- 「化学工学便覧 第6版」 丸善 1999年刊
- 「新版 真空技術読本」 オーム社 1994年刊
- 「化学装置 2020年 8月号 プラントエンジニアリングメモ 第151回」 工業通信
Web Site
- 真空のページ http://www.nucleng.kyoto-u.ac.jp/people/ikuji/edu/vac/
- アルバック https://showcase.ulvac.co.jp/en/how-to/basic-knowledge/types.html
- 神港精機 https://www.shinko-seiki.com/products/100/
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