化工計算ツール No.29 乾燥器の物質・熱収支

 今回の投稿では、乾燥器の物質収支と熱収支計算について取り上げます。実務でも粉体の乾燥器について検討した事が何回か有ります。「粉もの」なんでいろいろと取り扱いが面倒でしたね。例えば、メーカーさんのパイロットスケールのバッチ乾燥器でモノの乾燥曲線を採取して云々という事をやりましたね。乾燥器の中のモノの様子をサイトグラス越しに観察出来たので、結構 面白かったですね。


さて、下図は一般的な乾燥曲線です。水分を含む被乾燥物を温度一定の熱風中に置き乾燥させます。この時の重量変化と温度変化は以下のようになります。ご存知のように、乾燥には減率乾燥期間と定率乾燥期間が有って、定率乾燥期間では水分の減少率 (乾燥速度) -dW/dt は一定ですが、減率乾燥期間になると乾燥速度自体が減少し始めます。また、温度は初期温度から上昇した後 一定温度 Tw となり定率乾燥期間では その温度を維持します。減率乾燥期間になるとまず表面温度 Ts が上昇し始め、徐々に被乾燥物の中心温度も上昇し始めます。最終的に乾燥がほぼ終了すると被乾燥物の温度は加熱媒体である熱風の温度に近づいていきます。





で、乾燥曲線は乾燥曲線として有るんですが、乾燥器の設計では どの程度の熱風を供給する必要があるのか?とか、その為にはどれくらいのエネルギーを投入する必要が有るのか?を明らかにする必要が有ります。この投稿では 連続運転されている熱風 乾燥器周りの物質の出入りと熱の出入りについて どの程度になるのかなと? と言う点を計算してみます。


含水率

計算式に入る前に、まずは含水率の定義について触れておく必要が有ります。この含水率ですが、湿量基準と乾量基準の2つがあります。分母が固体のみなのか、それとも (固体+水分) なのかが異なります。定義上 乾量基準 含水率は 100 [%] 以上となる事もあります。 一方、湿量基準 含水率は 0 ~ 100[%] までしか有りえません。





で、式③と④を使って乾量基準と湿量基準の含水率との関係をグラフにしてみると以下のようになります。だいぶ値が違いますよね。ですが、小さい値であればほぼ同じです。3番めのグラフには 10[%] 以下の W と X を描いていますが、3[%] 程度以下ではほとんど等しいですね。なので、この程度の含水率を取り扱うのであれば 湿量基準でも乾量基準でも どっちでもOKです。まあ、感覚的には湿量基準の方がしっくりきますね、0~100 なので。乾量基準は計算では何かと便利ですが、含水率 500[%] とか言われてもピンと来ないですね。





連続式 熱風乾燥器

対象となるのは以下のようなブロックフローで示される連続式 熱風乾燥器とします。トンネル型のような乾燥器に連続的に被乾燥物(湿潤固体)を装入します。乾燥器にはブロワーによって熱風が循環しており、この熱風によって熱が供給され被乾燥物中の水分が蒸発します。なので、熱風の水分量は増加します。そのままだと飽和状態となるので、熱風の一部を排気して その分の外気を導入します。

予め設定されている 入口出口含水率などの諸量は下図に示すとおりです。分かっている数値を使って物質収支計算を実施すれば、不明な数値を明らかにしていく事になりますね。んで、物質収支が得られればそれに基づいて熱収支の計算を実施します。水分を蒸発させるので、当然ながら蒸発潜熱分の熱量を供給する必要が有ります。




物質収支計算式は以下のとおりです。基本的には足したり引いたりなんでシンプルでは有るんですが、まあ固体と水分の両方について考慮するので少し面倒ですね。
で、一応 各計算式について説明しておきます。

式⑤ : 供給される被乾燥物中の水分 重量流量 計算式
式⑥ : 供給される被乾燥物中の固体 重量流量 計算式
式⑦ : 乾燥後の被乾燥物中の水分 重量流量 計算式
式⑧ : 入口と出口の水分流量の差から蒸発水分流量 計算式
式⑨ : 出口 被乾燥物の全重量流量(固体+水分) 計算式
式⑩ : 導入空気、乾燥器入口熱風、乾燥器出口熱風 絶対湿度
式⑪ : 絶対湿度 計算式
式⑫ : 水蒸気圧 計算式
式⑬ : 飽和水蒸気圧 計算式
式⑭ : 必要 外気導入流量 計算式
式⑮ : 乾燥器 熱風入口流量 計算式
式⑯ : 再使用 熱風流量 計算式

※ 飽和水蒸気圧 計算式は Antoine式です
 





で、次は熱収支計算式です。入熱量と出熱量を分けて計算します。熱量計算は水分の蒸発に伴う潜熱量と温度変化に伴う顕熱量が有るので、それぞれを計算します。

式⑰ : 入熱量 計算式
式⑱ : 導入空気 加熱負荷(入熱量) 計算式
式⑲ : 再使用熱風 加熱負荷(入熱量) 計算式
式⑳ : 出熱量 計算式
式㉑ : (水分蒸発 +水蒸気加熱) 出熱量 計算式
式㉒ : 再使用熱風 出熱量 計算式
式㉓ : 被加熱物 出熱量 計算式
式㉔ : 乾燥器 放熱量 計算式

※ 放熱量計算式における 熱伝達係数は 12 [W/m2 K] とし、伝熱面積は 110 [m2] とします。乾燥器は直方体形状であり、高さ2[m] 、幅 3[m] 、奥行き 15[m] とすると外気に触れている面積は 側壁 (2✕15)✕2 = 60 [m2] 、天板 3✕15 = 45 [m2] 、前後壁 3✕2✕2 = 12 [m2] となり合計 117 [m2] となるので、開口部などを差し引いて 110 [m2] とします。 




計算結果 


さて、計算結果です。の前に計算条件を再度 示します。

  • 入口 供給量     300 [kg/hr]
  • 入口温度   25   [℃]
  • 入口含水率  40   [%wb]
  • 排出温度         90   [℃]
  • 排出含水率        4   [%wb]

  • 熱風 入口温度 105 [℃]
  • 熱風 入口湿度  5.3 [%]
  • 熱風 出口温度   80 [℃]
  • 熱風 出口湿度   16 [%]
  • 熱風 循環流量 250 [m3/min]

  • 外気温度   25  [℃]
  • 外気湿度  70 [%]


せっかくなので、被乾燥物(湿潤固体) の供給流量を変えて計算しています。上記条件では外気導入量、全循環流量 及び 再使用流量は以下のとおりです。水分を 毎時 100キロ 蒸発させる為に 外気を 3,000 キロ近く導入する必要があります。


  • 蒸発水分量    112.5 [kg/hr]
  • 全循環流量  13,058 [kg-da/hr]
  • 再使用流量    9,965 [kg-da/hr]
  • 導入空気流量   3,093 [kg-da/hr]


また、当然ですが 被乾燥物 供給流量が増えると全循環流量、導入空気流量も比例して増加します。また、熱負荷ですが 上記条件では 534,919 [kJ/hr] 、149 [kW] となります。まあ、それほど大きくは無いですね。熱負荷の割合を見ると、水分の蒸発に使用される熱量の割合が大きいです。次に、排気熱風が持ち去る熱量ですね。この熱量をうまい具合に回収して導入空気の予熱に使えば省エネになりますね。




で、以下は 供給する被乾燥物の含水率を変えた場合の結果です。これまた当たり前ですが、水を多く含んだ固体を乾燥する場合 より多くの空気を導入する必要がありますし、より多くの熱量を投入する必要が有ります。逆に言うと、供給する湿潤固体を出来る限り脱水しておけば乾燥器の負荷が軽減される事になります。前工程の脱水装置で含水率を出来る限り下げる方が得策であると考えます。もちろん、水を絞るのにもエネルギーを投入する必要は有るんですが、水の大きな蒸発潜熱よりはまだマシですね。これを言いたい為に この計算を実施したと言っても過言では有りません。例えば、スクリュープレスなどで含水率が高い原料をギューっと絞れば含水率の低下したケーキを得る事が出来ますね。スクリュープレスでは、例えば 富国工業さんなどが有りますね。



まとめ

連続式 熱風乾燥器の物質・熱収支 について計算してみました。式自体はそれほど難しくは無いですし、EXCEL で計算シートを作っておけば ケーススタディは簡単に出来ますね。で、いろいろと検討してみて 含水率をこれくらいまで絞れば これくらいの熱負荷になるよ!とか、熱風循環用ブロワの能力はこれくらいで済むよ!とかの結果が得られるので有用ですね。

んでもって、次は乾燥器の大きさを決定する為の設計をする訳なんですが、乾燥器にも今回のような熱風受熱式とか、それ以外にも熱伝導式とか いろいろと種類があって、それぞれ設計に用いる計算式も異なりますので大変ですね。まあ乾燥器は専門メーカーに発注するので、自分たちでゼロから設計する訳では無いですけど。ただ、既設の乾燥器を能力増強する場合には ある程度は自分で技術検討しますので、それなりの知識や知見が必要となりますね。

乾燥器も以前勤めていた会社にはいろんなタイプが有って、興味深いものがありました。いろいろと考えられていますし、何よりも 実機が有るので これくらいの処理量ではこれくらいのサイズになるんだな~と言うのが分かって面白かったです。結構デカいものも有ったんですね、まあ詳しくは言えないですけど・・・。

また、技術検討の一環として大型の連続熱風式乾燥器を調査した事が有ります。アメリカの Wyssmont 社の "Turbo Dryer" と言うものでしたが、これはなかなかにギミックに富んでいると言うか構造的に面白い装置でしたね。  是非一度ご覧下さい。


参考文献

  1. 「初歩から学ぶ化学装置設計 化学装置 2008年 9月号 別冊」 工業調査会
  2. 「図解 粉体機器・装置の基礎」 工業調査会 2005年刊
  3. 「初歩から学ぶ乾燥技術」 工業調査会 2005年刊

Web Site

  1. 富国工業 http://www.fkc-net.co.jp/product/screwpress/index.html
  2. Komline-Wyssmont Turbo-Dryer® https://www.komline.com/products/turbo-dryer/



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