化工計算ツール No.30 静止型混合器 Static Mixing Device

 今回の投稿では、撹拌混合装置の一種である 静止型混合器について取り上げます。静止型とあるように 管路内などに設置して内部を流動する流体を混ぜ合わせる装置です。分類上は静止型混合器と呼ばれますが まあ一般的には 「Static Mixer スタティックミキサー」 と言われる事が多いと思います。「Motionless Mixer」 とか 「In-line Mixer」 とも呼ばれますね。

高粘度ポリマーを扱うプラントでは、例えば ポリマー中に少量の添加剤を混合させたい場合などに使われます。また、下図のようにスタティックミキサー自体を管型反応器 Plug Flow Reactor として使用する場合も有りますね (Sluzer社 Static Mixer Reactor)。重合後半のそれなりに転化率が上昇した場合には、インペラによる撹拌の適用は困難となります。それでも、反応を進行させたい場合に例えば無撹拌の管型反応器を採用しますが、単なる直管では管断面における均一性が保たれません。なので、混合作用を有する SMR を使用します。
重合後半なので重合速度はだいぶ遅くはなっていますがそれでも重合はしていますし、その結果として重合熱が発生します。なので、これを除去する必要が有ります。SMRでは 内装物が伝熱管でありここに熱媒体油を通液します。つまり、伝熱管によって除熱を実施すると共に、伝熱管自体が流れの分割作用を有しており、これによって混合も実施します。

ですが、下図を見て分かるように何かトラブルが発生して SMR 内部にポリマーが詰まって閉塞してしまうと OUT です・・・。パイロットプラントスケールの SMR であれば、バンドルを抜き出して金属製のブラシでゴシゴシとこすればある程度は落ちます (実際やった事も有りますね)。その後は溶媒にしばらく漬けておくとか、最悪 焼きますね。






スタティックミキサー 種類

スタティックミキサーですがどんな時でも使ってOKでは無くて、以下の様な場合に適用されると有ります。端的に言えば、「連続操作で滞留時間が短くて、少量の液を大量の液に混ぜたい場合」ですね。更に、液の粘度比が極めて大きい場合にも適用されます。まあ、完全混合槽型反応器で良いような場合には、無理やりスタティックミキサーを使う必要は無いですね。スタティックミキサーを環状に連結して流動させて、流速をどんどん上げていくと完全混合状態に近づきますが、そのようなポリマープロセスも有ったりはします。


  • 連続操作であり一定流量比率で混合する
  • 滞留時間は短い 30分程度
  • プラグフロー性が必要でバックミキシングは不要
  • 混ぜるものの流量比が大きい 1 : 100
  • 混ぜるものの粘度比が大きい 1 : 100,000


まあいろいろな種類が有りますが、今回取り上げるのは 「層流域」における混合とします。化学工学便覧 第7版には以下のものが記載されています。このうち一般的なのは、Kenics と Sulzer でしょうか。この2つのタイプは特許切れなのかどうかは知りませんが、各社が似たような(と言うかほとんど同じ) ものを売り出しています。ネットで検索すれば山ほど出てきますね。

Kenics タイプですが、管内径とほぼ同じ幅で長さ 1.5倍の長方形のリボンをグイッと180度 ねじった形状で、それが 1エレメントです。このエレメントを90度ズラしてどんどんつなげます。形状がシンプルですが、エレメントによる分割作用、管中心から周辺への転換作用、エレメントが切り替わる事による反転作用によって混合が進行されるとあります。日本では 陶磁器で有名な 「ノリタケ」が製造販売しています。

一方、Sulzer タイプですがスイスの Sulzer社のものが有名です。スタティックミキサーといえば Sulzer SMX が定番ですね。形状は、円板を短冊状に切ってエイッと傾けて互い違いにします。これが1エレメントで、これを 90度 ズラしてどんどんつなげます。 Kenics と同じ様にやはり分割作用や反転作用により混合が進行するように思います。






スタティックミキサー 性能

さて、スタティックミキサーの性能ですがまあ一般的に考えれば 「長ければよく混ざる」となりますね。ただ、際限なく長くする事も出来ませんし、長ければ圧力損失が大きくなります。なので、この辺りのバランスが重要になるのかと思います。

参考文献に記載されている内容に基づいて作成したのが下図です。横軸は、管長を管径で割り算した無次元長さですね。縦軸は変動係数であり、標準偏差を平均濃度で割り算したものです。で、何の標準偏差かと言うと管断面における濃度の標準偏差です。平均濃度は その名の通り管断面における平均濃度です。で、この変動係数は混合の指標となります。良く混ざっていれば、管断面における濃度のバラツキの程度は小さくなるので、変動係数の値は小さくなります。

で、このグラフですが 管路を流れていけばいくほど、つまり管路が長くなればなるほど良く混ざる事を表しており、片対数グラフで直線になると言うことです。更に、スタティックミキサーの種類によって直線の傾きが異なりますが、傾きが大きければ大きいほど より短い管路長で混ざると言う事になり、混合性能が良好だと言えます。







グラフ中には 変動係数 0.05 に破線を引いてありますが、これは 濃度変動が 5[%] であり大体 混ざっているよと判断される値です。各直線と破線との交点が、各スタティックミキサーにおける必要な長さ Lt/Dt となります(ただし無次元長)。代表的なスタティックミキサーである Kenics と Sulzer SMX では 3倍も差がある事が分かります。


  • Kenics      必要 Lt/Dt 29
  • Sulzer SMX   必要 Lt/Dt    9

で、これでお仕舞では無くて、自然に混ざる訳では無くて 外部からエネルギーを投入しないと混合は進行しません。スタティックミキサーの場合には、エネルギーは液の流動により供給される訳で、結局 それは 管路の圧力損失となります。上記 2つのスタティックミキサーでは以下のとおりです。圧力損失比は 空管の圧力損失の何倍になるかを表します。見るとKenics と Sulzer SMX では 5.6倍 もの差異が有ります。

  • Kenics    圧力損失比 p 6.9倍
  • Sulzer SMX   圧力損失比 p    39倍


ここで、必要 管路長 Lt/Dt と 圧力損失比 p とを掛け算してみると スタティックミキサーの実力を表す指標になると考えます。この指標値だと 両者の差異は 1.75倍となり、だいぶ差異は縮まりますね。それでも Sulzer SMX の方が大きい値なので、「良く混ざるけど圧力損失はちょいと大きめです」との評価になるかと。一方、Kenics は「そこそこ混ざるし 圧力損失もほどほどです」と判断されるかと。それほどシビアな条件でないのであれば、Kenicsで十分でしょう。粘度差がすごく大きいとか、流量比がすごく大きいと言ったシビアな条件では、SMX を使った方が確実に混ぜられるのかなと思いますね。 


  • Kenics       (Lt/Dt)p   200
  • Sulzer SMX    (Lt/Dt)p   350


下図のグラフは横軸に圧力損失比p をとり、縦軸に 必要管路長 Lt/Dt をとってプロットしたものです。だいぶバラついてますが、圧力損失が大きいスタティックミキサーほど必要な長さは短くて済む、と見えますね。


で、実は更に重要な点は 「コスト」です。一見して分かるように SMX は構造が複雑ですし、溶接するのも大変そうですよね。それに比べれば Kenics はネジってあるだけなので、構造も簡単で製作も容易に思えます。となると、購入費用は SMX > Kenics となり あまりコストをあまりかけたくない場合には Kenics を選択する事になるのかなと。まあ、実際の購入価格はどの程度なのかは 分かりませんけど。





計算事例

せっかくなので、実際の配管で計算してみます。計算条件は以下のとおりです。この条件で Kenics と Sulzer SMX を適用し、実長に対して混合指標(変動係数) と圧力損失を計算してみます。液物性は スチレン系ポリマー製造時の最終盤 段階に相当するかと。脱モノマー装置出口とかですね。主流流量に対して 重量比で 1[%] の溶融状態の添加剤を混合するものとします。粘度は主流と同程度って事とします。


  • 液粘度          500 [Pa s]
  • 液密度          900 [kg/m3]
  • 液比熱          2.0  [kJ/kg K]
  • 液熱伝導率     0.14 [w/m K]
  • 管内径     153.98 [mm]  ASME/ANSI SUS Pipe 150A 
  • 重量流量      2,000 [kg/hr]
  • 添加流量         20 [kg/hr] 

で、結果は下図のとおりです。一般的な混合完了の目安である変動係数 0.05 に到達するには SMX では 1.2 [m] で十分ですが、Kenics では 4 [m] 以上が必要となります。だいぶ違いますよね。 また、圧力損失ですが 計算された長さにおいて SMX では 1 [MPa] 程度、Kenics では 0.7 [MPa] 程度です。圧力損失もそこまで差異が有る訳では無いですね。となると、SMX でも良いのかなと思います。と言うのも、SMX の方が大幅に短いので 管路内に設置しやすいからですね。スペースに余裕があるのであれば Kenics でもOKですが。まあ、新規に建設するプラントであれば特に問題は無いですが、既設プラントに設置したいのであれば 短い方が何かと便利です。なので、多少高くても Sulzer SMX を選択する事になるのかなと。混合性能自体は申し分ないですし。

ついでに伝熱性能も計算してみました。管路の中心部と周辺部を強制的に入れ替えるので熱伝達係数は増加します。何も無い円管と比較してみると、Kenics では 2倍以上、Sulzer SMX では 5倍以上まで改善されます。まあ、圧力損失が大きくなっているんで、この程度は改善されるんですね。層流域なので余計に改善程度が大きくなるんですね。ただ、熱劣化しやすい製品であれば、スタティックミキサーを設置することで接液部面積が大幅に増加し、そこから焼け異物とか着色物が継続的に発生したりする事も有ります。なので、「良いのは分かるけどスタティックミキサーはやめとこうかな・・・」となったりもします。





Nusselt 数 計算式は以下のとおりです。






まとめ

静止型混合器 スタティックミキサーについて紹介しました。ポリマープラントでは高粘度液を取り扱うので、特に重合後半では 適用可能な混合器はスタティックミキサー一択になるかと思います。既設プラントへの適用については実務でも何回か実施しましたね。既に機器が設置してあるので、レイアウト的に厳しいものが有って あまりキレイでは無いですが、斜めに配置したりして結構苦労しました。圧力損失はもう少し大きくても良いので、もっと薄型のスタティックミキサーとかは無いのかな~と考えたりもしましたね。少し調べてみると まあ無い訳でもないようですが、ポリマープラントのような 数 [MPa] もの圧力に耐えられるのは厳しいなのかなと思いますね。




参考文献

  1. 「化学工学の進歩 34 ミキシング技術」 化学工学会編 槇書店
  2. 「化学工学便覧 第7版」 化学工学会編 丸善 2011年刊
  3. 「液体混合技術」 N.Harnby, M.F.Edwards, A.W. Nienow  高橋幸司訳 日刊工業新聞社 1989年刊
  4. 「最近の化学工学 ミキシング 変貌する撹拌・混合技術」 化学工学会関東支部編 化学工業社 1992年刊

Web Site

  1. Sulzer Polymer Production Technology :  https://www.sulzer.com/en/products/process-plants/polymer-production-technology
  2. Noritake : https://www.noritake.co.jp/products/eeg/majors/detail/14/





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