化工計算ツール No.31 粉体層の圧力損失 Fixed Bed Pressure Drop

 今回の投稿では、粉粒体を充填した固定層に気体・液体を流す時の圧力損失を計算してみます。粉体工学会の Web 版 粉体工学用語辞典には固定層について以下のように記載されています。 


 「固定層は,充塡粒子間の空隙に気体や液体,あるいはその両方を流すことによって,ガス吸収,蒸留,吸着などの物質移動を含む操作や,触媒反応などの反応装置,さらに固液,固気分離など幅広い応用面をもつ。固定層では粒子径を小さくすることによって単位体積当たりの粒子表面積を大きくし,粒子—流体間,あるいは気体—液体間の有効な接触を得ることができるが,一方で流体の圧力損失を増大させるため,最適な粒子径が存在する」



上記のような反応装置や分離装置に使う以外にも、ろ過操作においても同様の状況が見られますし、また 粉体 充填層に空気を通過させて比表面積相当径を求める事も出来ますね。


固定層 圧力損失 計算式

固定層 圧力損失計算式は以下のとおりです。化学工学関連や粉体工学 関連書籍に記載されている、Kozeny - Carman 式 (K-C式)、Ergun 式ですね。導出の過程も面白いんですが、ここでは割愛します。一応、Hagen - Poiseuille 式も記載しておきますがこの式が基本ですね。

これらの式を使う上での注意事項は、式② K-C 式は層流域でのみ使用可能です。一方、式③は 層流域でも乱流域でも どちらでも仕様可能です。





計算例 1. 充填層の圧力損失

まずは、充填層の圧力損失を計算してみます。円筒状の容器に球形充填物を充填し、下から空気を流します。条件は以下のとおりです。せっかくなので空気の流量を変えて計算してみます。

  • 円筒 内径          500 [mm]
  • 円筒 充填高さ  1000 [mm]
  • 球形充填物 外径        5  [mm]
  • 充填層空隙率     0.37  [ - ]
  • 流体       空気 25[℃]  

で、結果ですが K-C 式とErgun 式 では途中までほぼ同じ数値となります。まあ、式が同じなので当然と言えば当然ですね。ただし、定数値が 180 と 150 で若干の差異があるので、K-C 式の方が少し高くなります。

そして、空気流量が 0.4 [m3/min] を超えた辺りから両者の値は逆転し、Ergun 式の方が大きくなります。Ergun式の右辺第二項(乱流項) の影響が大きくなった結果ですね。粒子外径基準のレイノルズ数だと 10 を過ぎた辺りとなります。この結果を見ると 粒子レイノルズ数が 10 以下であれば K-C式が適用可能ですが、それ以上であれば Ergun式を使うべきだと判断されます。



で、もう少し詳しく見てみます。Ergun式 の右辺第一項(層流項) と第二項 (乱流項) をそれぞれ計算してみた結果が以下のグラフです。乱流項には 空塔速度 u が含まれており、uの自乗で効いてくるので急激に増加するんですね。




計算例 2. 充填層通過 必要圧力


次に、円筒状の粉体充填層に所定量の水を、所定時間内に通過させる為に必要な圧力(液高さ) を計算してみます。条件は以下のとおりです。通過時間を変えて計算しています。

  • 粉体重量        20 [g]
  • 比表面積相当径       1 [μm]
  • 粒子 真密度    2500 [kg/m3]
  • 充填層 内径        70 [mm]
  • 充填層 高さ        10 [mm]
  • 流体        水 20 [℃]
  • 通過流量        500 [mL]


必要な圧力を計算しその圧力を静水圧で与えるものとすると、充填層の上に水層をおけば良いとなります。静水圧は ρgh で得られるので、液高さ h が求められます。計算には K-C式を変形し、流速 u について解いた式④を使用します。また、比表面積相当径が与えられているので式⑤で比表面積 Sv を求めます。更に、空隙率 ε は式⑥ で求めます。 

例えば、60 [min] で通水させるとすると、必要圧力は 5.71 [kPa] となり 液高さは 584 [mm] となります。まあ、この程度の圧力で OK と言う事ですね。水層の液高さを一定にしたいのであれば、水供給管とは別にオーバーフロー管と言うか逆U字管を設置して 上端部高さを調節してあげれば良いですね。




また、式④を使えば 通過時間を実測し 充填層粉体の比表面積とか比表面積相当径を求める事も出来ます。ただ、その場合は空気を使用するので 「空気透過法」となります。参考文献によれば 粒子径 1[μm] 以上、比表面積 1000 [m2/kg] 以下に適用可能との事です。


まとめ

今回は 粉体層の圧力損失についてご紹介しました。この手の技術検討は正直 あまりやった事は無いですが、確か バグフィルター ろ布表面の粉体層 圧力損失の計算をやった事があるような気がします。あまり突っ込んでやった訳では無いので詳細は忘れました・・・。また、CFD (数値流体解析) を実施した際に多孔質層の透過を取り扱う事があって、その際に見たマニュアルに Kozeny - Carman 式が記載されていましたね。パラメータを設定して云々だったような。まあ、実務では 乱流域も取り扱える Ergun式を適用すれば良いのかなと思いますね。層流項と乱流項とに分かれているので理解しやすいですしね。それと、高濃度空気輸送における圧力損失計算にも適用可能と有りました。空気輸送も粉体分野では良く出てくる事例ですね。製品ペレットの空気輸送についても、低濃度空気輸送では何回か検討した事があるので、また別の機会で取り上げたいと思います。


補足

冒頭の粉体工学用語事典の固定層の説明には、「最適な粒子径が存在する」との記述が有りました。粒子径が変わったら固定層の圧力損失はどうなるのかな?と思い計算してみました。ただし、実際に有る粉粒体で計算しようと考え、粉体技術ポケットブック巻末のデータを使用しました。具体的には、平均粒子径、粒子真密度 及び かさ密度が記載されているものを使用しました。で、以下のような結果です。空塔速度は 0.001 [m/sec] なので、まあ層流域ですね。

うーん、まあ当然と言えば当然なんでしょうが 粒子径が小さいと (=比表面積が大きい) と単位長さ当たりの圧力損失は増加します。だいぶバラついていますけどね。

粉体はかさ密度をとってみても緩めとか固めとか有りますし、加えて粒子径分布の影響もあるでしょうし なかなか一筋縄では行きませんね。




参考文献

  1. 「入門 粒子・粉体工学」 日刊工業新聞社 2002年刊
  2. 「粉体工学叢書 第7巻 粉体層の操作とシミュレーション」 日刊工業新聞社 2009年刊
  3. 「粉体技術ポケットブック」 工業調査会 1996年刊

     

Web Site

粉体工学用語辞典 「固定層, 固定床」http://www.sptj.jp/powderpedia/words/10714/


コメント