今回の投稿は安全に関する内容で、安全弁 Pressure Safety Valve からの蒸気噴出量の計算法についてです。噴出量と言っても、PSV が噴出可能な量を計算するのでは無くて、容器から噴出させなければならない量を計算します。噴出可能な量は別途 計算式が有って、例えば PSV メーカーさんのウェブサイトでも閲覧出来ます。で、この可能な噴出量は噴出すべき量よりも当然大きくないと PSV を設置する意味が無いですね。PSV サイズ (噴出面積) が甚だしく不足していれば、十分に蒸気を噴出させる事が出来ず 容器の内圧は上がり続けます。これでは PSVを設置した意味が有りません・・・。そんなこんなで、適切な PSV サイズを決定する為には まずは どんだけの噴出量なのか? を明確にする必要があると言う訳です。
今回紹介するのは、 API 521 外部火災における入熱量の計算とそれに基づく噴出量の算定です。下図に有るように、容器 近傍で外部火災が発生しており それによる放射熱が容器への入熱量となります。それにより内液温度は上昇し 設定圧に到達すると PSV が作動し 蒸気が噴出します。で、この蒸気は内液が蒸発して発生したものなので 噴出量は入熱量を内液の潜熱で割り算したものとなります。もし、内液が単一成分であれば その物質の潜熱となり、混合成分であれば 発生蒸気の組成を別途計算する事で 平均の潜熱が得られます。
この手の計算は実務では結構やりましたね。2010年代だったんですが、やはり結構安全には厳しくなっていて 大は反応器、小は原料貯蔵用ベッセルまで 噴出量を計算しました。その時に使用したのが 今回紹介する計算方法でした。
※ API American Petroleum Institute 米国石油協会
米国石油産業の共通の権益を促進することを目的とし 1919 年に設立された米国の中心的な石油業界団体であり、その研究成果、各種の作業規準、工業規格はいまや世界的な影響力を持っている。米国、カナダ、メキシコの主要石油会社約 300 社の法人会員、7,000 人の個人会員を擁し、その本拠をワシントンに置いている。その主な活動は (1) 各種規格・規準の設定普及、(2) 石油技術の研究・開発、(3) 石油事業に関する国家的関心事項に対する政府との協力、(4) 各種情報サービス、(5) 保健衛生・環境保全・保安対策、などと多岐にわたっている。協会誌として“Weekly Statistical Bulletin”がある。近年の活動として、(1) 国内エネルギー供給の確保、(2) 連邦政府管轄鉱区の開放への働きかけ、(3) 適正な税制への働きかけ、(4) 天然ガス価格の統制撤廃、などにその比重が置かれている。
米国石油産業の共通の権益を促進することを目的とし 1919 年に設立された米国の中心的な石油業界団体であり、その研究成果、各種の作業規準、工業規格はいまや世界的な影響力を持っている。米国、カナダ、メキシコの主要石油会社約 300 社の法人会員、7,000 人の個人会員を擁し、その本拠をワシントンに置いている。その主な活動は (1) 各種規格・規準の設定普及、(2) 石油技術の研究・開発、(3) 石油事業に関する国家的関心事項に対する政府との協力、(4) 各種情報サービス、(5) 保健衛生・環境保全・保安対策、などと多岐にわたっている。協会誌として“Weekly Statistical Bulletin”がある。近年の活動として、(1) 国内エネルギー供給の確保、(2) 連邦政府管轄鉱区の開放への働きかけ、(3) 適正な税制への働きかけ、(4) 天然ガス価格の統制撤廃、などにその比重が置かれている。
出典 : 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 JOGMEC ホームページ 用語一覧より
https://www.api.org/
外部火災 計算式
API 521 に基づく 外部火災による容器への入熱量 計算式ですが、そんなに面倒では有りません。以下に示すように計算式は1つだけですね。本当はもう1つ有りますが、それは式①の定数値 C1 が異なるもので消火設備の無い場合に適用される、と有ります。が、ケミカルプラントにおいて消火設備の無い工場は有り得ないので、まあ考えなくても良いと思いますね。また、定数値 F は容器に施工されている保温材の効果を表わしています。保温材の無い、鉄皮がむき出しの場合には F=1 となります。一方、何らかの保温材が施工されていれば、そのコンダクタンス値 に応じて Fの値を決めます。原本には表しかないので、線形近似して一次式にしてみました。
で、Wetted surface 接液部面積 Aswですが 例えば プロセスベッセルでは 通常運転時の液面位置までを接液部面積として算定すると有ります。ただし、その高さの上限は 7.6 [m] とすると明記してあります。高さの基準面は Ground Level ですよね。なので、もし容器の液面位置が GL から 10 [m] 以上のところに有ったとしても、7.6 [m] までを考慮すれば良いとなります。 まあ、プロセスベッセルではよほどの大きなものでも無い限り 液面位置が 7.6[m] を超える事は考えにくいですね。
量産反応器 全内容積が 60 [m3] で L/D値が 1.5 とすると、内径は 3.5 [m] 程度で 全高は 7 [m] ほどになります。 まあ満タンでは運転しないので 液面位置は これよりも下ですね。仮に 内液 比率 70[%] とすると 液面位置は 4.8 [m] となります。ただし、反応器 底面を GL にピッタリくっつけて設置する事はしないので、 GLから 1.5 [m] ほど持ち上げるとすれば GL からの液面高さは 6.3 [m] となります。この値は 7.6 [m] よりは小さいので、接液部面積は この液面位置 6.3 [m] を使って計算すれば良いとなりますね。と、こんな感じでよほどの背の高い容器で無ければ あまり気にする事は無いと思いますね。
計算例 竪型円筒容器
さて、早速 蒸気噴出量を計算してみます。以下の条件を適用しますが、保温材の施工厚みを変えてみます。
- 容器種別 竪型円筒容器 上下鏡板 2:1 正半楕円
- 全内容積 60 [m3]
- L/D 1.5 [ - ]
- 通常内容積 42 [m3]
- 内液 トルエン
- 保温材 ロックウール
- PSV 設定圧 0.5 [MPa G]
竪型円筒容器の外形は下図のようになります。まあ、量産スケール 反応器ですね。
液面高さは GL から 6238 [mm] なので、前述の 7.6[m] よりも低いです。なので、接液部面積は 通常液面位置で計算します。それと、接液部面積ですが 直胴部 接液部面積と下鏡板 接液部面積との合算とします。
この容器が外部火災に晒される事によって内液が加熱され温度が上昇します。そうすると蒸気圧が上昇するので容器内圧も上昇します。容器内圧が 安全弁 PSV 設定圧に到達すれば、PSV が作動し 噴出が始まります。で、内液がそのまま液状で噴出する訳では無くて、蒸発して蒸気となって噴出します。
保温材厚み 50 [mm] では以下のような結果となりました。蒸気噴出量は 毎分 12キログラムなので、1分で一斗缶(18L) の8割ほどのトルエンが噴出します。純トルエンなのでものすごく 危険ですね。
- 保温材厚み 50 [mm]
- PSV 設定圧 0.5 [MPa G]
- 噴出時温度 186.7 [℃]
- 入熱量 56,761 [W]
- 蒸発潜熱 305 [kJ/kg]
- 蒸気噴出量 11.17 [kg/min]
また、保温材厚みを変えて計算してみると以下のようになりました。厚みによって Environment factor F の値は大きく変化する事が分かります。結果として入熱量が変化し、蒸気噴出量も変化します。厚いほど入熱量が減少し、噴出量も減少します。
計算方法についてですが、PSV設定圧に対応する温度を知る必要が有ります。と言うのも、蒸発潜熱は温度で変化する為です。今回の場合に限らず、この手の計算では 蒸気圧式のひとつである Anoine式を変形して 蒸気圧から温度を計算する様にしていました。蒸気圧=設定圧となる温度が分かれば 蒸発潜熱式から 蒸発潜熱が得られます。まあ、蒸発潜熱についてはある温度範囲の平均値を使っても良いとは思いますが、それほど手間でも無いので この方法を使っていました。
※ 2FL 以上のフロアに設置されている容器の場合
例の 上限高さ 7.6[m] は GL からの高さとしましたが、例えば 下図のような 2FL とか 3FL に設置されている容器については どうしたら良いのかな~? といつも思っていました。例えば最上階に設置されている容器は GL から 20[m] ほどの距離が有りますが、んじゃ その容器については入熱量が無いので噴出量も無い事になりますが それだと困ります。
で、GL じゃなくて 各フロア鋼板上に可燃性液体が漏出し それに着火して外部火災が発生していると考えていましたね。で、例えば下図では 各フロアの階高は 5[m] なので 7.6[m] 以下です。なので、 そのフロアに設置している容器の通常液面高さから接液部面積を計算してました。
まとめ
今回は 外部火災時の 蒸気噴出量 計算法について紹介しました。冒頭でも触れたように 大小いろいろなサイズの容器、いろいろな種類の内液について計算を実施しました。EXCEL シートでひな形を作っておいて、それをダーッとコピーして条件を入力して計算してました。で、その結果を依頼元 (大体 製造部の担当者) にメールで提出してました。例えば、貯槽用容器を新設するとか既設容器を更新する際には、まとめて 10基分くらいの計算依頼が来たりしてましたね。内液物質も単体であれば計算は面倒では無いですね。まあ、混合液であっても 蒸気組成は Raoultの式で計算出来ますし。物性式は大体取り揃えて有ったので、転記して使ってました。
また、外部火災以外についても、例えば密封状態になった場合の液体膨張量から液体噴出量を計算したりとか、熱媒ジャケットにヘッダーからの高温熱媒が流入したと想定して容器内液の蒸気噴出量を計算したりとかしました。何というか、この手の検討ではPSV設定圧に到達する際の「シナリオ」をどう設定するのかが重要だったように記憶しています。あまりに非現実的なシナリオでは社内的にも社外的にも OK とはなりませんよね。「これじゃ全然ダメ!」と突っ返されるケースは無かったんで、まあ結果オーライだったのかとは思ってますけど。
参考文献
- 「API 521 Pressure - relieving and Depressuring Systems」
- 「プラント配管ポケットブック」 日刊工業新聞社 2008年刊
web site
- 米国石油協会 https://www.api.org/
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