今回の投稿では直方体偏芯撹拌槽の所要動力についてご紹介します。普通、撹拌槽は竪型円筒容器で下鏡板は 2:1 半楕円体(ED) とか 10% 皿型 (SD) で、必要に応じて バッフル が設置されます。が、下図のような直方体形状の所謂 角槽での動力はどうなるのかな~と言う疑問が湧きますね。例えば、仮設タンクとか地下ピットなんかは角槽だったりしますね。ここで、内液温度をなるべく均一にしたいとか、懸濁物が沈降しないようにしたいとかの場合には撹拌しますね。で、適当にそこいらへんの撹拌機を設置しただけでは 効果が出なかったりします。なので、どの程度の動力が必要なのか?を見積もる事は重要ですね。
偏芯直方体撹拌槽 動力計算式
直方体撹拌槽 仕様を円筒型撹拌槽 仕様に変換して、円筒型撹拌槽 動力推算式を適用する感じになります。で、下図のような変換を実施します。長辺と短辺が有って、短辺の寸法に√2 を掛け算して 直径に変換します。また、バッフルですが 個数は 1 となり、板幅は 直方体断面の対角線長さの 10% となります。ここまで求めていれば動力推算式が適用可能です。
インペラですが、ここでは 傾斜パドル Pitched Paddle とします。参考文献にはフラットパドル Flat Paddle 、プロペラ Propeller についての推算式が記載されていますが割愛します。で、PP翼の仕様は下図のとおりですね。インペラ径、ブレード幅 そして ブレード傾斜角度です。
さて、動力推算式ですが 結構複雑です。しかも、使う数式が多いです。まあ、EXCEL で作っておけば良いんですが、数式の入力が面倒ですね。分数の形になっているので、変なところで割り算してしまうと全然違う結果になるので注意が必要です。
で、以下の式ですが いきなり 式①でドカンと出る訳では無くて、インペラ寸法に基づくパラメータ値をまず計算して、それを使って 層流項 CL、遷移流項Ctr、乱流項Ctの値を求めます。そして、更にそれらの値を使って 摩擦係数 fを求めます。それで、やっと式①で バッフル無し条件の動力数 Np0 が得られます。また、別途 式⑱で完全バッフル条件の動力数 Npmax を求めます。で、実際の動力数は Np0 と Npmax との間に存在するので 式⑭ 若しくは 式⑯ で実際の動力数を求めます。式⑭ は撹拌機が槽中心にある場合で、式⑯は 偏芯している場合に使用します。
それと、以下の一連の式には 槽径 D は含まれますが バッフル数 nB と バッフル幅 Bwは含まれていません。元々のPP翼 動力推算式には 上記の値を入れますが、ここで紹介する推算式には 既に織り込まれています。 なので、入力する必要は有りません。
動力推算例
動力線図
動力推算例を以下に示します。縦横比 2 の角槽に PP翼を設置して撹拌する場合の 動力曲線です。参考文献の計算結果を併せて示していますが、まあ大体同じかなと。で、偏芯させた場合でも 動力数にはあまり大きな差異は無いんですね。まあ、あんまり偏芯させて設置しないですよね。側壁にぶつかる危険性も有りますし・・・。
撹拌動力
同じ角槽・インペラ仕様で常温の水を撹拌した時の動力 P と 単位体積当たりの動力 Pv を計算してみた結果を以下に示します。因みに液量は 16 [m3] となります。
- 回転数 100 [rpm]
- 動力値 中心 1.15 [kW] 偏芯 1.72 [kW]
- Pv値 中心 0.07 [kW/m3] 偏芯 0.11 [kW/m3]
まとめ
投稿しておいてアレですが、角槽の動力推算についてはやった事は有りません・・・。ですが、円筒型容器についてはいろいろとやりましたね。動力推算式の出典は 毎回お世話になっている 名工大 加藤禎人 先生のグループによるものです。この撹拌動力ですが、加藤先生の論文 「撹拌槽の設計・操作における撹拌所要動力の重要性」 2009年 化工論文集 にもあるように、流動特性、混合特性、伝熱特性 及び 物質移動特性の根幹にあるのが撹拌所要動力と言及されていますが、激しく同意したいですね。更には、電動機容量の選定や撹拌軸強度計算においても やはり撹拌動力が重要となります。
エンジニアになってすぐの頃には 今回の様な実践的な推算式は無かった様に記憶しています。まあ、永田先生の推算式くらいでしょうか。無いのであれば実験で求めれば良いのですが、モデル実験をするにしても、これがまた非常に大変で時間が必要となります。最近であれば CFD で解析すると言う選択肢も無い訳では無いですが、誰でもお手軽に出来るものでは無いですね。大手の企業さんとかでは、市販の高価なソフトウェアを使ってやってるんでしょうけど。3D CAD とかも最近ではフリーウェアのソフトが有ったりして モデリングも慣れればそう手間も無く出来ますが、モデリングした結果を使って そのまま CFD 解析出来るようになれば 非常に便利だとは思うんですが。そうなると、推算式を探してくる手間も無く、推算式の適用範囲の縛りも関係無く 、直接に動力やらフローパターンとかが得られる様になるかな~と思うんですが 難しいんでしょうね・・・。フリーウェア CFD では OpenFoam とかが有りますが、だいぶ敷居が高かったです 私には。
で、余談ですが 以前からすごく気になっているのは、ケミカルラボとかで使う マグネチックスターラーの撹拌動力ですね。こんなのも、CFD だと出せるのかなと思いますが、誰かやってないのかな~。
参考文献
- 「直方体型偏芯撹拌槽の所要動力の相関」 化工論文集 第39巻 第6号 2013年
- 「撹拌槽の設計・操作における撹拌所要動力の重要性」 化工論文集 第35巻 第2号 2009年
web site
- 阪和化工機株式会社 https://www.hanwa-jp.com/product/vertical/hp500/index.html
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