化工計算ツール No.34 竪型円筒容器の作図 Drawing a Vertical Cylindrical Vessel

 今回は化工計算では無くて、プロセスベッセルの作図方法と言うか手順についてです。このブログでもいろいろとベッセルを作図してきました。型式と言うかタイプとしては、「竪型円筒容器」となりますね。

で、この容器の作図ですが 適当に描いている訳では無くて、キチンと作図法が有ります。特に 上下Head (鏡板) については厳密に各部寸法の関係が決められていますので、それに従って作図します。と言うかしなければいけませんね。





竪型円筒容器 構成と各部寸法比


✔ 構成

竪型円筒容器と言っても各部の組み合わせで様々ですね。ですが、この投稿では鏡板は ED 若しくは SD 、シェルは円筒形状の組み合わせとします。それと、上下鏡板に別々のタイプを使う事は無いですね。


  • 鏡板は 2:1半楕円 ED 、 10% 皿型 SD
  • シェル部は円筒形状で竪型設置

鏡板については、以下の種類以外にもコニカルとか半球とかが有りますが、特に半球状とかは設計する頻度は無いですね。


✔ 10% 皿型 Standard Dished Head

この鏡板形状は以下の関係式が有りますので、それに従って内径 100[mm] の場合の各部寸法は下図のとおりとなります。10% ってのは、内径の 10% が ナックル部の半径になると言う事です。 SD は正直 描きにくいです。まあ、ひな形を作っておいてそれを拡大縮小すれば良いんですが。







✔ 2:1 半楕円体 Ellipsoidal Dished Head

長径と短径との比率が 2:1 である楕円を半分に切った形状です。内径 100[mm] の場合の各部寸法は以下のとおりとなります。ED は非常に描きやすいので大抵 こっちを採用してました。





✔ シェル部

円筒形状なので特に面倒では無いですね。内径とTL長との比率 L/D を決めてやれば OK です。L/D=1 だと内径と TL長は同じになりますね。





作図例


✔ 内径とTL長

内容積 V と L/D 値が決まっていれば、以下の式から内径 D と TL長 L は求まります。ED の方はキレイな式ですが、SD の方は少し無理くりっぽいですね。





 以下の条件で SD と ED それぞれの 内径と TL長を決めて、作図してみます。

  • 内容積  10   [m3]
  • L/D    1.5  [ - ]
  • 上下鏡板 SD、ED

内径を求めてみると SDでも ED でも同じくらいであまり差異は無いですね。強いて言えば、SD の方が少し寸詰まりとなりますね。






✔ SD 作図

作図といってももちろん手書きでは無くて、ソフトウェアを使います。実務で良くと言うか通常 使っていたのが Microsoft社の Visio Professional® ですね。このブログの図面とかイラストの類も 2D のものは全て Visio で描いています。まあ、CAD と言えば AutoDesk社の AutoCAD 辺りが有名とは思いますが、個人で使うには高価ですしそこまで厳密に描いている訳でも無いですしね。

で、作図してみた結果は以下のとおりです。まあ、いきなりは描けないので補助的な図形をまず描いておいて、それに基づいて鏡板を作図します。やり方は人それぞれかと思いますが、例えば以下の手順になるかと。

  1. 中央の大きい四角形①を作図 (四角形を使用)
  2. 左右の小さい四角形②を作図
  3. 左右の小さい円③を作図
  4. 点abを通る円弧を作図 (円弧3点を使用)
  5. 点bcを通る円弧を作図 
  6. 点cdを通る円弧を作図
  7. TLの直線を作図 (直線を使用)
  8. 各線分を選択して結合しひとつの図形とする
  9. 上鏡板をコピーし 180° 回転させる
  10. シェル部を作図 (四角形を使用)
  11. 上下鏡板、シェル部を適宜 結合

各部寸法は予め EXCELで計算しておきますね。んで、下図で言えば四角形①と②を作図して配置します。最近のこの手のソフトウェアではスナップとか接着とか自動的に辺とか点をピッタリくっつけてくれるので便利です。で、SD は3つの円弧が滑らかに接続する事によって構成されているので、それぞれの円弧を作図します。これまた、便利な機能が有って 「円弧3点」を使用します。3つの点を指定して円弧を作図するんですね。Visio に限らず 同様の機能は大抵の CAD ソフトウェアには有ると思います。

で、円弧を3つ作図した後に TLの直線を作図すると 図形が閉じますね。そのままだと単に線分の集まりなので、面にします。Visio では 線分の「結合」 機能が有るんでそれを使います。そうすると面となるので、下図のように塗りつぶして色を付けたり、他の図形と更にくっつける事も可能です。で、最終的に得られるのが下図の最下段の図ですね。上下鏡板と円筒部の図形はそのまま残していますが、別途 3つを結合した図も作っておいてそれを黄色に塗りつぶして重ねています。まあ、出来るだけ途中の部品的な図も残しておいた方が得策です。後で、少し修正したい場合など、例えば 円筒部の L/D を大きくしたいような場合、全部結合した後だと また最初から作図する必要が有るので面倒です。ホントにお絵かきとか塗り絵の世界なんですよね、正直なところ。まあ、ゴリゴリの機械系CADではもっと厳密にやるんだと思いますし、その業界での作法が有るんでしょうけど 私がやってたのは 所謂 「ポンチ絵」とか「マンガ」なんで 描きやすさとか見栄えの良さの方が重要でした。後、描いた図はEXCELに貼り付けますんで、Microsoft製品である Visio は 何かと便利でした。



✔ ED 作図

次に 2:1 半楕円の場合ですが、補助的な作図は不要なので楽ですね。作図手順は例えば 以下のとおりです。

  1. 2:1 楕円を作図 (円を使用)
  2. 楕円を長径線分で分割 (トリムを使用)
  3. TL 線分を作図
  4. 各線分を選択してひとつの図形とする
  5. 上鏡板をコピーして180°回転
  6. シェル部を作図 (四角形を使用)
  7. 上下鏡板、シェル部を適宜結合





SD と ED 比較

せっかくなので、SDとED の形状を比較してみます。鏡板単体で比較すると高さの差異は 92 [mm] 有りますが、全高で見ると 68 [mm] しか違いは有りません。
また、SD 形状ですが 2.5:1 半楕円とほぼほぼ同じなので、この形状で代替してもさほど問題は無いかと思います。





まとめ

今回は竪型円筒容器の作図方法についてご紹介しました。プロセスベッセルについては多数設計したり作図しましたが、SD で作図しないといけない時は正直面倒でしたね・・・。その点、EDは楽でした。思い返してみると、反応器などの大物は大抵 ED だったように記憶しています。まあ、例外はありましたけど。ライセンサーが欧米だったりすると、大物でも SD だった事がありましたね。

また、Microsoft Visio Professional ですが かれこれ 20年以上は使っているでしょうか。今は MS社ですが 使い始めた頃のバージョンは Visio 5 で Visio Japan 社から販売されていたと記憶しています。その後、MS社が買収して Office 製品になりました。

使用例ですが、ケミカルエンジニアにはおなじみの PFDや P&ID はもちろん、下図のような機器図面、プラントレイアウト・プロットプラン図面や テクニカルなイラストなどにも便利に使ってました。フローチャートくらいは何とかなりますが、さすがに寸法の有る図面は EXCEL の描画機能では手に余りますね。やはり餅は餅屋です。かと言って、前述の AutoCAD のようなゴリゴリの CAD だと非常に厳密で多機能なんですが、使いこなせないと言うか。機械図面では普通にレイヤーとか使うんでしょうけど、面倒くさいんで使ってませんでしたね。そこまででは無いんですよ、製造会社のケミカルエンジニアだと。繰り返しになりますが、お手軽に使えて 見栄えが良い絵が描けて んでもって EXCEL や Wordに貼り付けてもキレイってのが重要でしたね。

まあ、似たような機能のものが有って、例えば有料ですが EdrawMax エドラマックス などはだいぶお安く購入出来ますね。 ですが、やっぱり使い慣れているというか、MS製品の安心感が有ると言うか。現在は、ちょいと面倒ですが個人的にサブスク契約をして使っています。まあ、お安くは無いんですが 日割りにすると 80円弱でしょうか。





参考文献

  1. 「プロセス機器構造設計シリーズ 2.塔槽類」 丸善 1970年刊


web site

  1. 北海グループ 鏡板製品カタログ https://www.hokkai.co.jp/company/catalog/
  2. 日本鏡板工業 製品カタログ http://www.nkweb.co.jp/technology/downloads/
  3. Microsoft Visio https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/visio/flowchart-software

  



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