化工計算ツール No.35 リンス方式 回分, 連続操作 Rinsing Method - Batch , Continuous

 今回はリンス方式の 回分操作 (Batch) 連続操作 (Continuous) の違いについて投稿します。"Rinse" 所謂 「すすぎ」 ですね。分かりやすいのは洗濯機のすすぎ工程です。洗剤を使って洗浄をしますが、その後で脱水して終わりだと洗剤成分が衣類に残留します。雨に濡れたら泡だらけになるかも知れませんね・・・。 まあ、汚れを除去するが自分自身は衣類に一切残留しない 画期的な洗剤が開発されれば別ですが。なわけで、普通の電気洗濯機にはすすぎ工程が有って、水を使って洗剤成分を除去しています。また、回分操作とは槽内のすすぎ対象物にリンス液を供給して その後 所定時間 維持した後 排液する方法ですね。一方、連続操作とは槽内のすすぎ対象物にリンス液をずーっと供給・排出し続ける方法です(下図 参照)。

同じ様な事がケミカルプラントにも有って、反応させて終わりでは無くて、普通は 未反応成分や溶媒などを除去する 「分離工程」が存在します。「すすぐ」と言うか「洗浄」する感じでしょうか。ある化成品のプロジェクトですが、バッチプラントで反応させた後に複数回 洗浄して未反応成分等を除去しなければなりませんでした。まあ、そもそもバッチプラントなんでバッチ操作が基本なんですが、連続的に「すすぎ」をやれば良いんじゃないか?との意見も出て来るかも知れませんね。なので、連続操作とバッチ操作の違いを技術的に把握しておく事は重要ですね。





リンス方式 濃度 計算式


✔ すすぎ比 R

ある濃度A の原液を濃度 C (普通はゼロ) のすすぎ液ですすいで 濃度 B になった時の すすぎ比 Rは 式①によって求められます。式①に含まれるのは導電率 EC ですが、これは濃度と読み替えても良いですね。

完全にすすぎが行われたとすると、すすぎ後の濃度 B は すすぎ液 濃度 C と等しくなります。となると、式①の分子 A-B は A-C となるので、R=(A-C)/(A-C) K = 1/K = 1/0.9 = 1.11111・・・・ となりますね。すなわち、完全にすすぎが行われたと言うのは、完全に液が置換されたと言う事になります。




✔ バッチ・連続 方式 濃度計算式

で、バッチと連続リンスにおける濃度変化計算式は以下のとおりです。基本的には物質収支の計算となりますね。バッチでは回数N が含まれており、毎回加えた リンス液の分だけ濃度はだんだんと薄まっていきます。一方、連続では 完全混合槽 1槽の滞留時間分布 計算式と基本 同じです。

バッチでは前工程からすすぎ対象の固体 a[kg]が濡れた状態で来るとします。で、固体と同伴水との合計が b[kg] とします。となると、固体同伴水は (b - a) [kg] となりますね。ここに洗剤成分が含まれているとなります。そして、ここにキレイな液を d [kg] 加えます。すると、希釈されて 濃度は 式②の右辺のとおりとなります。 ただし これは すすぎ 1回分なんで N=1 となります。この操作を順次繰り返します。 式②の右辺が 1/10 であれば、N=1 で 1/10 となり、N=2 では 1/10 ✕ 1/10 = 1/100 となりますね。

一方、連続の場合は前工程から来た同伴水こみの固体に液をジャーっと加えます。所定量となるまで加えた後は オーバーフローさせて その後ずーっとリンス操作を続ける事になります。この時、所定量まで液を加えた時点 (連続操作に切り替わる時点) の濃度が初期濃度 C0 となります。  



計算例


✔ バッチ・連続 濃度変化

参考文献に記載されていた以下の条件で計算してみます。まあ、洗濯を想定している訳ですが、洗濯後の固体がビショビショのままですすぎ工程に来るとします。このビショビショが同伴水ですが ここに洗剤成分が含まれているので、リンス水ですすぐ事になります。

バッチの場合は、リンス水を投入して しばらくかき混ぜて、その後 排水(脱水)します。この操作を繰り返します。連続の場合は、リンス水を投入して所定量になったら、そのままずーっとリンス水を供給し続けます。

  • 固体 重量                a       2.2 [kg]
  • 固体 + 同伴水 重量   b       5.0 [kg]
  • リンス水               d     32.0 [kg]
  • 初期濃度              C0      1.6 [g/L]
  • リンス水 滞留量     V     32.0 [L]
  • リンス水 流量    v    15.0 [L/min]

で、以下の計算結果になりました。バッチの結果を見ると、数回すすぐだけで洗剤濃度は激減しています。すすぎ比 R も2回のすすぎで 1.1 を超えているので ほぼほぼすすぎは完了しているのかなと。それ以上すすいでも 確かにキレイにはなりますが、手間がかかるだけですね。一方、連続の場合 槽数 1 の滞留時間分布と同様の結果となります。徐々に洗剤濃度は減少していきますね。



✔ バッチ・連続 比較

で、バッチと連続の結果は上記のとおりですが、ここで両者を比較してみます。
下図 上段のグラフは同じ濃度となるバッチ リンス回数と 連続 リンス時間との関係です。バッチ リンス回数 2回の場合は、連続では 5.4 [min] において得られます。
で、使用するリンス水量ですが これは下段のグラフに示しています。2回 すすぐので リンス水量は 32 [L] ✕ 2回 = 64 [L] となります。一方、連続では 15 [L/min] ✕ 5.4 [min] = 80.6 [L] となりますね。 バッチ 64 [L] に対して連続 80.6 [L] なので、1.26倍ほどの差異がある事が分かります。

このように、バッチと連続ではリンス水量に結構な差が有ることが分かりますね。すすぎ回数が 更に多くなるとこの差は更に拡大します。で、この差異は何に起因するかと言えば 、滞留時間分布ですね、やはり。連続ですすぐのはキレイなリンス水をどんどん入れているので より早くすすげそうです。ですが、連続では せっかく投入したキレイなリンス水が十分に洗剤成分を持ち去る事無く すぐに槽外に排出されてしまう分が確実に有ります。一方、バッチでは 十分にリンス水に洗剤成分を移行させ、更にそのリンス水をほぼ全て排出させるので 無駄が無いですね。これが決定的な違いです。ただし、バッチでは溜めたり排出したりとかの操作が必要なので、操作自体は少し面倒となりますね。



まとめ

今回は、リンス方式における バッチ操作と連続操作の違いについて 紹介しました。皆さんのご自宅にも電気洗濯機が有るかと思いますが、すすぎ工程はバッチすすぎ (溜めすすぎ) になっていると思います。これは適当にそうなっているのでは無くきちんと理由があって、使用する水量を減らす為に 採用されているとなりますね。もちろん、連続操作である 「注水すすぎ」を選べるようになっているようです。泡切れの悪い場合は溜めすすぎよりは注水すすぎの方が良いように思えますね。上記の計算では、同伴水はリンス水とすぐに完全に混ざり合うと言うのが前提ですので。それと、バッチ操作でも連続操作でも それなりにリンス水量が必要になると言うことですね。ケチって少ないリンス水量ですすげば、どっちの方式でもいつまで経ってもすすぎは終わりません。逆に固体(衣類)に比較してものすごい大量のリンス水を用いれば、すすぎは1回で終わりです。バッチも連続も関係無いですね。後は、リンス水を排水すれば終了となりますね。

昔、中学生の頃 実家に二槽式洗濯機が有りましたが、その時は すすぎは 連続でやっていたように記憶しています。ジャーっと流しっぱなしですね。今考えると、時間もかかるし 水も無駄だったんですね・・・。 まあ、今から40年以上も前なんで、自動的に注水→すすぎ→排水 とかを繰り返す様な機能は無かったんだと思いますが。それと、大学生になって近所のコインランドリーで洗濯するようになりましたが、洗濯した後に一旦脱水槽で脱水すれば 早くすすげると言うのを知りました。これは 洗剤成分を含む同伴水をなるだけ分離する事によって、初期濃度を低下させる効果が有るんですね。ですが、結局は連続すすぎだったんで そこはアレですね。昔の二槽式洗濯機と言えばこんな感じでしょうか。色味が何とも昭和ですよね。脱水槽に洗濯物を適当に入れて回転させると、「ガゴン ガゴン ガゴン」ともの凄いデカい音がするってのは、洗濯機あるあるですね。

また、余談ですが韓国に住んでいた時には毎週末 自分で洗濯していましたが、洗濯機は 確か サムソン の1槽式だったかなと。すすぎは2回でしたね。洗剤での洗いが終わると一旦排水します。その後、注水→すすぎ→排水・脱水 を2回繰り返してました、確か。それと、これは韓国あるあるだと思いますが、洗濯にお湯を使います!洗濯機には給水栓が2つ有って、普通の水と都市ガスボイラからの温水を供給可能です。見てると、水と温水が同時に供給されてましたね。これで何が便利かと言うと、真冬とかでも洗濯物が冷たく無いっ!ってのが良かったですね。 まあ、汚れ落ちとかも良いのかなと思いますが、その辺りは良く分かりませんね。








参考文献


  1. 「化学装置 2018年 2月号 プラントエンジニアリングメモ 第124回」 工業通信
  2. 「化学工学  家庭用品の化学工学 洗濯機」第50巻 第5号 309ページ 1986年 







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