化工計算ツール No.36 摩擦係数 friction factor

 今回の投稿では、円管内流動における摩擦係数 friction factor について紹介します。流体輸送での配管圧力損失計算においては ファニングの式 Fanning eq. が使用されますが、式中には 摩擦係数 f が含まれています。この 摩擦係数ですが レイノルズ数と粗度の影響を受けて変化します。粗度については使用する配管材料によって大体決まっています。と言うか、自分で測るのも難しいので書籍等に記載されている値を使用するのが一般的です。一方、レイノルズ数ですが 平均流速、円管内径 に加えて、流体物性である 密度と粘度から決定されます。レイノルズ数さえ分かれば、様々な経験式を使って 摩擦係数値を算出可能です。ファニングの式中の摩擦係数 f を 4倍したのが 管摩擦係数 λ ですが、レイノルズ数とλとの関係を線図にしたのが有名な ムーディー線図 Moody Diagram ですね。1944年 L.F. Moody さんが Transaction ASME 66-8 に発表したとされています。



管摩擦係数 λ の方ですが、これは ダルシー・ワイズバッハの式 Darcy - Wisbech eq. に含まれています。式の出処が違うんですね。と言っても、言ってる事は同じなんで、基本 どっちを使っても同じ結果となります。ですが、ムーディー線図から λ を読み取って、ファニングの式の f に入れると おかしな結果になるので注意が必要です。まあ、はっきりとは分かりませんが 機械工学とかでは ダルシー・ワイズバッハの式を使うんでしょうか。化学工学では ファニングの式が多いようには感じますね。



摩擦係数とは?


流体力学やら化学工学関連の書籍やネットにもいろいろと有るんで、言わずもがなですが。以下のような感じですね。式①は円管内 流体要素 (内径基準) における力の釣り合いの式です。τw は壁面剪断応力で、圧力差によって流体を流す力と粘性によって流れに抵抗する力とが釣り合う事を表わしています。一方、式②は乱流においては圧力損失は流速のほぼ2乗に比例すると言う実験事実に基づき、壁面剪断応力は流体の運動エネルギーに比例するものとし、その際の比例定数を「摩擦係数」と定義しています。

で、式①と②を等値すると式③が得られますが、これは ファニングの式 ですね。式中の 4 はどっかから来たわけでは無くて、ちゃんと意味があります。4f を λ とすると ダルシー・ワイズバッハの式となりますね。




摩擦係数 計算式

層流域では 式④ が使用され、乱流域では 平滑管であれば 簡単なブラジウス式などが使われ、粗面管であれば コールブルック式 式⑤が使われますね。式⑤にはレイノルズ数 Re と 粗度ε 、円管内径 d が含まれています。粗度を内径で割り算しているので、所謂 相対粗度となっていますね。




計算例


✔ 層流域、乱流域 平滑管

上記の式④から⑧を使って計算した結果を以下に示します。ブラジウス式は簡便ですが高レイノルズ数域では低い値を与えるので注意が必要ですね。まあ 使えるのは 10万 くらいまででしょうか。それ以外の式では大体同じ様な値となりますが、式⑧は正直使いにくいです。右辺と左辺にλが入っているので、試行錯誤法によって解く必要があります。その点、式⑥と⑦は直接 λが得られるので便利です。それと、板谷の式を良く使っていました。反復計算は必要無いですし、プラントル ・カルマンの式 Prandtl - Karman eq.と同じ結果が得られます。






✔ 乱流域、粗面管

で、次に乱流域 粗面管の摩擦係数λ をコールブルック式で計算した結果を下図 上段に示します。試行錯誤法を使うので EXCEL のソルバー機能を使いました。粗さが有るほど より小さなレイノルズ数で一定値となる事が分かります。
また、コールブルック式は試行錯誤法で計算するので、やはり面倒です。なので、例えば スワミー・ジェインの式 Swamee - Jain eq. を使うと直接に摩擦係数が得られます。その結果が下段のグラフです。コールブルック式とほぼほぼ同じ結果なんですごく便利ですね。




ムーディー線図

で、ムーディー線図は以下のようになりますね。まあ、今どきは線図から値を読み取る事は無いでしょうから 使いやすい計算式を知っておけば良いですね。下図中の破線は 摩擦係数がほぼ一定となるレイノルズ数を結んだものです。これより右側 (レイノルズ数が高い) では摩擦係数値は一定となって変化はしません。で、その時の 摩擦係数値は図中の計算式で求められます(上の方の式)。この式にはレイノルズ数が含まれておらず、相対粗度のみが含まれています。




実際の鋼管には粗度がありますが 例えば市販鋼管では 0.05[mm] と参考文献にあります。なので、1インチの配管だと相対粗度は 0.002 [ - ] くらいですね。実際に作図してみるとすごーく小さいです。上記の図にも一応ちゃんと描いてますが 小さすぎて良く分かりませんね。0.5 とか 1.0[mm] だと、何かあるな~と分かりますね。これがコンクリとか木製の管だともっと粗度が大きくなりますね。コンクリとかは土木分野で重要でしょうか。例えば、側溝とか暗渠とか。木製は さすがになかなかお目にかかる事は無いかと。

ムーディー線図を見ると レイノルズ数が数百万を超えるような領域では、摩擦係数には結構な差異があります。ですが、1万くらいだとそれほどの差異は無いですね。せっかくなんで、どの程度の差異が有るのか検証してみます。上図の1インチ 配管に20[℃] の水を流速 1 [m/sec] で流すと レイノルズ数は 27,234 となります。この条件での平滑管と粗面管の摩擦係数λは以下のように計算されます。まあ、2割増しくらいにはなりますね、粗面管だと。なんで、一応 粗面管として計算しておいたほうが無難ですね。

  • 平滑管       0.0241
  • 相対粗度 0.002  0.0288 

まとめ

円管の摩擦係数について紹介しました。冷却水や気体輸送では摩擦係数の値が必要なんで毎回計算していましたね。ですが、高粘度のポリマー溶液だと完全に層流域なんで 摩擦係数このみの圧力損失計算式を使ってました。また、ごくまれにレイノルズ数が遷移域になることが有ったりして、どの値を使うか結構迷いましたね。まあ、大きめの値を使っておけば安全側の設計になるんで 良いんですけどね。

それにしても、摩擦係数は f で行きたいですね。λ でも良いんですが、ずっと f で使ってきたんで λ だとピンと来ないんですね オーダー感と言うか何と言うか。やはり "4" は残していたいですね、ちゃんと意味が有るので。 

後、これまた余談ですが 大学の研究室では 粗面の摩擦係数を実測していました。テストセクションに水を流して テストピース前後の静圧差を取り出して 微差圧計で読み取ってました。で、水はドラム缶を半切りにした3メートルほど上のヘッドタンクから自然流下させてました。その時は、たまたま休憩していて何となくヘッドタンクを見てたんですが、グワッと表面張力で水面が盛り上がり、次に滝のように水が降ってきました。摩擦係数と聞くと いつもそのジャバーっと水が溢れ出すのを思い出しますね~。その後は研究室 総出で水を拭き取りましたよ。担当の学生は先生にすごく怒られてました・・・。後から聞くと 勢いよくヘッドタンクに水を供給していたらしいですが、液面位置が良く分からないんで バルブ開度を調節するのが遅れて溢れ出したとか。もちろん オーバーフロー配管は有ったんですが、あくまでもチョロチョロっと流すものなんで、そんなにデカい配管にはしていませんしね。その後は、空き缶か何かを使ったなんちゃってフロート式液面計を設置して、それを見ながら水を供給していたように記憶しています。まあ、でもちゃんと見てないと駄目ですよね。




参考文献

  1. 「配管技術ノート」 工業調査会 2004年
  2. 「技術資料 管路とダクトの流体抵抗 DVD-ROM版」 日本機械学会 2017年

web site

  1. 「化学工学資料のページ 伊東 章先生」  https://chemeng.web.fc2.com/




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