今回の投稿は伝熱に関してですが、相変化を伴う熱移動である「凝縮熱伝達」 Condensation Heat Transfer について取り上げます。相変化を伴う熱移動には 「沸騰熱伝達」Boiling Heat Transfer もありますが、それはまた別の機会に取り上げたいと思います。
この凝縮熱伝達ですが いろんなところで使われていますが、あまりピンとは来ないですよね。最も身近なのは 冷えたコップとか瓶の表面への結露でしょうか。空気中の水蒸気が凝縮している訳ですが、凝縮潜熱を放出しているのでこれも熱伝達です。でもって、コップとか瓶とかの内液は徐々にですが温くなっていきますね。ですが、まあこれは意図してやってる訳では無いですね。で、凝縮熱伝達を積極的に進めて利用しているモノのひとつとして、例えば エアコンが挙げられますね。と言っても、室内機と室外機がパイプで結ばれているだけで、これまたピンと来ないですね。室内機と室外機には熱交換器が内蔵されており、ここで冷媒蒸気の凝縮が起こっています。冷房だと室外機で凝縮し、暖房だと室内機で凝縮していますね。
凝縮は潜熱を放出する 「加熱する熱伝達」なので、夏に室外機の前を通ると熱風がブワーッと吹き付けて来る事も納得ですね。まあ、それはそれで嫌ですけど・・・。一方、沸騰は潜熱を除去するので「冷却する熱伝達」なんですね。
凝縮熱伝達係数 推算式
✔ 凝縮の形態
何かの蒸気を凝縮させるには冷たい伝熱面に接触させれば良いですね。それが、平板だったり円管だったりします。当然、地球上では重力が有るので 凝縮した液は下に流れ落ちます。で、この時の凝縮液の形態によって大きく2つに分類されます。ひとつは「膜状凝縮」Filmwise Condensation です。その名のとおり、凝縮液が流下液膜を形成します。もうひとつは 「滴状凝縮」 Dropwise Condensation です。これは、これまたその名のとおり 凝縮液が液滴を形成します。
図を見ると一目瞭然ですよね。膜状凝縮では伝熱面の下に行くほど凝縮液量が増えるので液膜は厚くなります。一方、滴状凝縮では液滴が不規則に分布しています。で、液滴がある程度の大きさになると自重で流れ落ちます。まあ、当然と言えば当然で超巨大な液滴にはならないですね。で、この流れ落ちる際に自分の下側にある小さい液滴を巻き込んで行きます。そうすると新たにまっさらの伝熱面が露出して、そこに新たに凝縮が起こり微小液滴が形成されます(液滴 A)。てな感じで、滴状凝縮は挙動が不規則というか、非定常的なんですね。一方、膜状凝縮では流下液膜はその厚みは変化しません、基本的には。と言う事は、膜状凝縮の方が取り扱いが簡単なんですね。一方、滴状凝縮は見てて面白いですが取り扱いが複雑となります。
と言う事で、凝縮熱伝達においては 通常出現する膜状凝縮熱伝達係数の推算式は有りますし、それを使って設計が出来ます。一方、滴状凝縮では信頼出来ると言うか使える推算式はまだ有りません、と思います。実験データはたくさん有ると思いますけど。
そもそも、なんでこの2つの形態が有るのかと言う疑問が湧きますが、普通は膜状凝縮が起こります。で、滴状凝縮は伝熱面が液をはじきやすい場合、凝縮水の場合 撥水性の高い伝熱面では滴状凝縮が起こります。が、特別な表面処理をしないと起こりません。何か貴金属をメッキしてみたり、撥水性の高い有機物を塗布したりコーティングしたりとか いろいろ方法は有りますが、耐久性に欠けるとされています。
✔ 膜状凝縮熱伝達係数 Nusseltの理論式
膜状凝縮と言えば やはり Nusselt の理論式が有名ですね。伝熱関連の書籍にはほぼ必ず記載されています。ただし、適用範囲が有って 静止蒸気で液膜流れが層流である場合などで適用可能です。鉛直平板と円柱外面における理論式は以下のとおりです。書籍によっていろいろと表式の違いが有りますが、今回は甲藤 好郎先生の「伝熱概論」に基づいています。
凝縮熱伝達 計算例
✔ 垂直平板
飽和水蒸気中に冷却伝熱面を置くと体積力凝縮が起こりますが、その際の平均熱伝達係数を計算してみます。水蒸気温度は 100 [℃]、伝熱面表面温度 20 [℃] とします。伝熱面は垂直でその長さを変えています。
やはり凝縮熱伝達では熱伝達係数が非常に大きいですね。また、グラフを見て分かるように 伝熱面が長くなると熱伝達係数は低下します。何でかというと、流下液膜が厚くなる為ですね。液膜厚さの計算結果を併せて示していますが、厚くなるといっても 1ミリ以下では有るんですが。
で、液面表面に飽和水蒸気がどんどん凝縮してくるので、長くなればなるほど液膜は厚くなります。液膜表面で放出された潜熱は液膜内部を熱伝導で移動しますので、厚くなればなるほど熱抵抗が大きくなります。結果として熱伝達係数は低下します。
✔ 水平円柱外面
同じ条件で水平円柱外面における凝縮熱伝達係数を計算してみます。円柱外径を変化させています。円柱が太くなるとその分 外周長が長くなるので、垂直伝熱面が長くなるのと同じ影響が出ますね。なので、熱伝達係数は低下します。
とまあ、こんな感じで Nusselt の理論式を使えばどの程度の熱伝達係数値となるかが推算出来ますね。これはこれで使えますが、Nusselt の理論式にはいろいろと縛りが有るので、使用する上で制約が有ります。最も影響があるのが 「液膜流れが層流の場合」でしょうか。お風呂場で鏡にシャワーの水をかけると流下水膜が形成されますが、鏡の下の方では 「さざ波」みたいなのが確認されますね。これは流下水膜が波状流とか乱流になっている為で、これによって膜内の熱移動が影響を受けるんですね。なので、伝熱面が長いとか凝縮量が多いとかでは Nusselt の理論は適用出来ません。
上記の式⑥は膜レイノルズ数でこの値が 1400 くらいを超えると乱流になるとされています。
凝縮熱伝達係数 計算例 層流~乱流
膜レイノルズ数が大きい乱流域においては、下図中の式を使用可能です。膜レイノルズ数を与えれば 凝縮数 Nu* が計算出来るので 平均熱伝達係数 hm [W/m2 K] が得られます。ですが、そもそも凝縮量が不明な訳で となると膜レイノルズ数がナンボなのかも不明ですよね。なので、実際の計算では 仮定した平均熱伝達係数を使って伝熱量を求め、それを潜熱で割り算します。そうすると凝縮量が得られるんで、それを使って膜レイノルズ数を求めて 下図中の式で再度 平均熱伝達係数を計算します。これら 2つの平均熱伝達係数を比較して ほぼ同じであれば 最初の仮定が正しかった事になり、計算終了です。まあ、EXCEL のソルバー機能を使えば サクッと出来ますね。
Nusselt の理論では直接に 計算出来るので便利ですよね。一方、乱流域のように流れの状況が熱伝達係数に直接影響を与える場合には、面倒ですがこのような計算が必要となりますね。
まとめ
もう少し、例えば 円管群での凝縮熱伝達とか管内凝縮など いろいろとご紹介したい項目はあるんですが長くなりそうなんで また別の機会にでも。実務でも時々ですが コンデンサーの熱伝達係数の計算などはやってましたね。どんな場合でも基本になるのは Nusselt 式だとは思うんで計算方法やら どれくらいの膜厚になるか、ぐらいは計算しておいた方が後々役立ちますね。
と思い出したのが、斜めに設置してあるコンデンサーの管内凝縮ですね~。斜めに設置するってのはケミカルプラントでは割に良く見かけます。何故斜めにするかというか凝縮液がスムースに流れるようにですね。運転中はもちろん、運転停止中でも管内に液が残留しないようにですね。特に 重合しやすいモノマーが含まれる場合は 特に。まあ、斜めといっても角度は 5° くらいなんですけど。角度 45° で設置されているコンデンサーも有りましたね。何故 45° なのかは皆目不明でした。文献を調べていくつかの推算式で計算しましたが、斜めにする事で伝熱が促進されるという結果になったり、いやいや伝熱は悪くなるよ と言う結果になったりしました。検討報告書には両者を併記しましたけど。45°ってのは ちょうど中間なんで なかなか取り扱いにくいというか・・・。 いっそのこと垂直にしたら良いんじゃないかと思いましたね。
最後に滴状凝縮ですが、伝熱性能から言えば 最高の能力を示します。平均熱伝達係数の概略値をいくつか示します (ただし上限値)。ものすごく良いのが一目瞭然ですが、いかんせん長続きしないので実用化と言うか工業化は難しいですね。私が大学の時分からそう言われてましたが、あれから30年近く経っても状況は変わっていませんね。
参考文献
- 「伝熱概論 甲藤 好郎著」 養賢堂 2002年刊
- 「大学講義 伝熱工学 武山・大谷・相原著」 丸善 1983年刊
- 「膜状凝縮熱伝達 藤井哲著」 九州大学出版会 2005年刊
- 「プロメテウスの贈りもの 相原利雄著」 裳華房 2002年刊
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