化工計算ツール No.38 貯槽 通気量 Storage Tank Breathing

 今回の投稿では 貯槽 通気量について取り上げます。ケミカルプラントではタンクやベッセルなどの液体貯槽設備が多数ありますね。タンクでもベッセルでも液の入りと出が有るわけですが、特に大気圧下での貯蔵タンクでは 液の入出によって外気との間に通気量が発生します。まあ、例えば貯水タンクでは内容液は水なので基本無害な訳ですから、無弁通気管 (ベント管) を設置しておけば良いですね。ですが、受入水量や払出水量に比較してベント管のサイズが小さすぎたりするとタンク内圧が上がりすぎたり、逆に下がり過ぎたります。タンクにも当然 設計圧力が有る訳で、それと比較して内圧が大きすぎたり小さすぎたりすると壊れます。なので、これくらいの容量のタンクでこれくらいの液量が出入りすれば、どの程度の通気量となるのかを予め計算しておく必要が有ります。と言っても、計算式も決まっているので それを使って通気量を求めます (JIS B8501-2013)。





また、PRTR Pollutant Release and Transfer Register 環境汚染物質 排出・移動登録制度においては 貯槽からの汚染物質の排出量を算定する必要があります。図で言えば 受入時には 吐出通気 Out - Breathing が発生しますが、内容液が有機溶剤であれば 当然蒸気圧が有る訳で、気相中にはある程度の溶剤成分が存在しています。それが空気と一緒に吐出される事になります。有機溶剤などは大抵 汚染物質なので環境中に排出されるのはマズいですね。 となると除害装置を設置する事になりますが、どれくらいの排出量になるのかを知っておく必要があるんですね。こちらについても計算式が有って排出量を算定可能となっています (PRTR等 排出量 算出マニュアル 経産省・環境省) 。




貯槽 通気量 計算式

 

✔ 吐出 通気量

吐出通気量は、液受入による通気量 + 温度変化による通気量の和となります。更に、大気圧変化による通気量を加える事も出来ます。ただし、タンク内容液の引火点温度と内容積によって使用する式が下図のように異なります。

引火点温度 40 [℃] が境界になります。また、タンク内容積 3,200 [kL] が境界となります。また、通気量は 標準状態(0℃、1気圧) における流量 [Nm3/hr] となります。 

引火点温度ですが、ガソリンだと -43[℃]、アセトンで -20[℃」、トルエンでは 4[℃] ですね。揮発性の高い溶剤だと引火点温度も低いですね。まあ蒸気圧が高いのでそうなりますけど。んでも、3,200 [kL] は 3,200 [m3] ですが だいぶデカいですね。原油タンクくらいでしょうか。内径 20[m] とすると 側壁高さは 10[m] ちょいとなりますね。




✔ 吸入 通気量

内容液を払出す場合の吸入通気量は以下のようになります。やはり引火点温度とタンク内容積によって使用する式が異なります。





通気量 計算例

以下の条件で通気量を計算してみます。この程度のタンク容量だと L/D は 1.5 くらいでも良いかと思いますけど、とりあえず 1.0 としています。また、内容液は 引火点温度の低い トルエンとしています。液 受入・払出 流量は タンク容量を 2時間で満タン・空っぽにする流量とします。


  • タンク容量   5,10,50,100,500 [m3]
  • L/D 比率    1.0
  • タンク気相部  タンク容量の50%
  • 内容液     トルエン 引火点温度 4[℃]
  • 液 受入流量    タンク容量を2時間で満タンにする流量
  • 液 払出流量    タンク容量を2時間で空っぽにする流量

で、計算してみると以下のようになりますね。吐出 通気量の方が大きくなりますが 計算式を見ると まあそうなりますね。更に詳細に通気量の内訳を見てみると、ほぼ 受入・払出流量で決まってしまう事が分かりますね。タンク容量が大きくなると 温度変化による通気量も効いてきますけど。また、大気圧変化による通気量はすごく小さいので考慮しなくても良いですね。



通気量はこのように計算できるんですが、タンクの天板に通気管のノズルを設置します。その際、どの程度のノズルサイズになるのかをざっくりと計算してみました。ノズルの平均流速を与えると 必要通気面積が出るので ノズル内径が得られますね。今回は 平均流速 5 [m/sec] としています。平均流速を小さくするとノズルサイズが大きくなり過ぎますんで、この程度としています。

例えばタンク容量 100[m3] ではタンク内径 5[m] となりますが、ここに ノズルサイズ 100[mm] の通気管を設置しても まあ全く問題は無いですね。 



ブリーザーバルブ

まあ、内容液がただの水とか排水とかの無害なものであれば 無弁通気管を設置するだけでOKですが。トルエンのような有機液体であれば ブリーザーバルブを設置して 所謂 ツーツーにはならないようにしますね。

うまく考えてあって、タンク内圧が設定圧以上になると 吐出通気をしますし、設定圧以下になると吸引通気が行なわれます。アトモス弁と呼ばれる事がありますが、Atmosphere から来てるのかなと。メーカーでは例えば 金子産業さんとかが有りますね。動作の様子は下図のようになります。このタイプでは、大気へ吐出して大気を吸引します。




一方、トルエンのような有機蒸気を大気に吐出する訳にはいかないので ベント配管を接続して最終的に除害装置に送ります。また、大気を吸引すると酸素による品質劣化が懸念されるので 窒素ガスを吸引するように 窒素配管を接続しておきます。と言うのが下図です。良く考えられてますね。



PRTR 排出量 算出 

と、貯槽からの通気量計算は前述のとおりですが、せっかくなんで PRTR 排出量算出マニュアルを使って有機蒸気 排出量を計算してみます。

  • タンク容量        500 [m3]
  • タンク寸法        内径 10 [m]、側壁高 6.4 [m]
  • 内容液          トルエン
  • 年間平均外気温度差 5 [℃]
  • 年間受入量        500, 1000, 1500, 2000 [m3]

計算してみると温度変化による呼吸ロスの方が相当程度に大きいです。で、タンク容量は固定されているので 排出量も一定となります。 一方、この条件では 液の受入通気量による排出量は相対的に小さいです。で、受入量が増加すると 当然ですが排出量も増加します。とまあ、こんな感じで結構な量の内容液が排出されますが、受入液重量に対して 0.1 [wt%] 程度です。とは言え、このままにしておく事は出来ないので除害装置を使って処理する必要が有りますね。




まとめ

貯槽 通気量ですが たまーに 計算する案件が回って来ましたね。と言っても、通気量を計算すると言うよりは P&ID を見て ポンプ容量からタンクへの受入流量やタンクからの払出流量を決めてました。んで、データシートとかに記載して それに基づいて ブリーザーバルブ屋さんが適切なモデルを選定するって感じでしょうか。通気量の計算結果にも有ったように温度変化による通気量はあまり影響しないですし、それよりも受入・払出流量によって通気量はほぼ決まってしまいますしね。んじゃ、計算しなくても良いじゃんってなりますけど・・・。更に言うと 受入・払出流量は このタンクを何分位で満タンにしたいか?とか空っぽにしたいか? と言った要件から決まりますね。

また、温度の高い液をタンクに受け入れると 有機蒸気の排出量が増加してしまうので、途中の移送ライン中にクーラーを設置して温度を下げられるか? と言った検討もやりましたね。まあ、採用にはならなかったと記憶してますけどね。それと、有機蒸気 排出量の低減方法としては 通気管に小さめのベントガスコンデンサーを付けるとかも検討しましたね。その後、有機蒸気と言うか VOC 排出量の規制が厳しくなって タンクベントは集中して処理するようになったんだと思います。

処理方法としては、例えば RTO Regenerative Thermal Oxidizer 蓄熱式熱酸化処理装置とかでしょうか。温度を下げて凝縮回収するってのもありますけど、濃度がだいぶ希薄なんで相当温度を下げないと凝縮しないですね。となると冷凍機を使う訳で電気代がかさみます。それでも不十分であれば活性炭で吸着処理とかが更に必要となります。であれば、RTO の方が手っ取り早く全部 燃やしてしまう訳なんで 確実ですしエネルギー消費も少なめなんだと思いますね。まあ、装置自体はお安くは無いとは思いますが。

実際に貯槽の通気がうまくいかなくてトラブルが発生した事例ですが、例えば特定非営利活動法人 「失敗学会」の失敗知識データベースでは以下のような事例があります。

"コーンルーフタンクのブリーザー弁の取り外し点検工事で、ブリーザー弁を取り外した後のタンク上部のフランジに通気管を取り付けずに、仕切り板を取り付けた。その状態で付帯のポンプを起動し、内溶液を移送した。液面が低下しても、それを補う空気他のガスの流入がないため、タンクが変形し、開口した" 失敗事例ID CC0000011 

1996年川崎市の化学工場での事例と記載されています。20世紀だとこんな事もあったんだろうなとは思いますね。現場の工事担当者は貯槽の通気とかについては十分に知らなかったんでしょうし、プラントの運転員はまさか貯槽が密閉状態にあるとは思わなかったんでしょうね・・・。詳細は失敗学会の失敗知識データベースにあります。





参考文献

  1. 「金子産業 通気装置総合カタログ」 
  2. 「PRTR 排出量等算出マニュアル 第4.2 版 第Ⅲ部 資料編」 経産省・環境省

web site 

  1. 金子産業 通気装置 https://kaneko.co.jp/product/ventilating/
  2. 失敗学会 https://www.shippai.org/shippai/html/index.php






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