化工計算ツール No.39 気液分離器 Vapor - Liquid Separator

 今回の投稿では、気液分離器の一つである竪型ノックアウトドラム Knock Out Drum について取り上げます。ベーパーを移送する配管において ベーパー中に 液滴 Mist が含まれていると配管がビショビショになったり ブロワなどの回転機器に悪影響が有ります。なので、ミストを分離する必要があります。と言っても、基本は重力沈降による分離方法ですね。念のため、ワイヤメッシュを上部 (ベーパー出口) に設置する場合もあります。




ノックアウトドラム 計算式

竪型ノックアウトドラム 各部寸法 (内径 及び TL長) の計算式は以下のとおりです。ドラムに流入したミスト(液滴) は重力によって沈降します。一方、ベーパーは上方のノズルから流出します。この時、ベーパー流速 ミスト沈降速度 であれば ミストは徐々に下方に移動して 最終的に滞留液 液面に到達します。まあ、これで分離が完了する訳ですね。なので、ベーパー流速が 上記の関係となるように ドラム断面積を決定します。ドラム断面はまあ普通は円形なので 断面積が決まれば内径を決定出来ますね。ここいら辺は、スクラバーとかのスプレー塔でも同じ事が言えます。吸収液や洗浄液をスプレーなどで微細な液滴状にして降らせますが、上昇するガス流速が過大だと液滴が全部 吹っ飛んでしまうので 全く用をなさないですね。なので、ガス流速が液滴の沈降速度よりも小さくなる様に塔径を決定しますね。

また、ドラム高ですが H1 と H2 は ドラム径を基準にして決定します。更に H3 は滞留液量に由来しますが、ドラムに流入するミスト流量と平均滞留時間との積として決定されます。 



また、ミストの終末速度 ut が必要になりますが、ミスト径を設定して以下の計算式で計算します。化工関連の書籍には必ずと言っていいほど記載されていますね。ミスト径基準のレイノルズ数によって 3つの式を使い分けますね。




ドラム 設計例

で、以下の条件でドラム寸法を計算してみました。有機蒸気中にミストが含まれておりそれをドラムで沈降分離します。ミスト径は 100 [μm] とします。因みにミストの終末速度は 0.182 [m/sec] となりますが、レイノルズ数は 36 [ - ] なので Allenの式で計算します。

  • ベーパー重量流量  1,000 [kg/hr]
  • 液重量流量     1,000 [kg/hr]
  • ベーパー密度    10 [kg/m3]
  • ベーパー粘度    5 [μ Pa s]
  • 液密度       850 [kg/m3]
  • ミスト径      100 [μm]
  • 液滞留時間     3 [min]

ドラム各部の寸法は以下のようになりました。H1高さは 内径と同じ (H1=1.0✕D) とし、H2高さは 内径の半分 (H2=0.5✕D) としました。式③と式④で計算するとだいぶ寸詰まりな感じになるのでちょいと長めにしました。

  • ドラム内径   441 [mm]
  • H1高さ    441 [mm]
  • H2高さ    220 [mm]
  • H3高さ    385 [mm] 
  • TL 高さ   1,046 [mm]

作図すると以下のようになりました。入口ノズルと出口ベーパーノズルは 100A とし、出口液ノズルは 50A としました。まあ、こんな感じでしょうか。それっぽいですね。



せっかくなんで、ミスト径を変えて各部寸法を計算してみました。ミストが小さくなると終末速度が小さくなるのでドラム径を大きくしてベーパー流速を小さくする必要があります。一方、ミストが大きくなるとドラム径は小さくてすむ事になります。で、ドラム径が変わるドラム各部の高さにも影響が有ります。

具体的には、ミスト径が大きくなるとドラム径が小さくなります。となると、ドラムは細くなりますが、一方で 滞留液量は維持する必要が有ります。結果、ドラム下部を長くして その液量を確保する必要が有ります。



と、書いていても分かりにくいので図にしてみます。こうやって見ると、ミスト径 100 [μm] くらいがちょうど良い感じですね。小さいミストだとドラムが太すぎて滞留液量は下鏡板にしか溜まりません。一方、大きいミストだとドラムが細すぎて液滞留部が長くなりすぎます。なので、このタイプのノックアウトドラムは 100 [μm] くらいのミストを分離するのに適しているんだろうな~と思いますね。



許容蒸気速度 Blackwell 法

「化学装置」に記載されている Blackwell 法を用いて許容蒸気速度 umax [m/sec] を計算し、それに基づいてドラム径を求め 各部寸法を決定すると下図のようになります。前述の方法に比較すると少し細くなりますね。

この方法は気液流量比、密度比からフローパラメータを求めて、それを用いて速度定数 Kv [m/sec] を求めます。更にその速度定数値を用いて許容蒸気速度が得られれば ドラム径が計算出来ますね。この方法ではミスト終末速度は計算しません。まあ、そこいらへんの諸々を速度定数 Kv としてまとめてあるんだと思います。




まとめ

気液分離器と言うほど大げさでは無く、もっと小さめのポットは何回か設計しましたね。例えば、コンパウンド設備では原料樹脂を二軸押出機で溶融して、そこに添加剤やら顔料やらを混練します。ダイヘッドの孔から溶融した樹脂をストランド状に押し出しますが、温度が高いので添加剤やらのベーパーが揮発します。で、そのままにしては環境が汚染されますしダイヘッドも汚れるので局所排気で周りの空気ごと吸引しますね。で、それを除害設備まで移送して処理しますが、ダクトが長かったりすると途中で析出したりしていろいろと問題が有ります。なので、わりとすぐ近くにポットを設置して ミストを除去します。

まあ、樹脂添加剤は大体 蒸気圧が小さくて融点温度も高いので少し冷やすと ポット内で析出して固まります(所謂 溜め殺し)。んで、定期的にポットをバイパスさせて その間に溜まった中身を排出します。融点温度以上にすれば液体になるんで、例えば スチームトレースで加熱するとかですね。溶けたところでポットの底のドレンバルブを開けてジャーっと排出します。たまには全部バラして掃除すれば十分ですね。 小さいとは言えポット内のガス流速をきちんと計算して内径やら各部寸法やらを決定しましたね。




参考文献

  1. 「化学装置 プラントエンジニアリングメモ 第142回 気液分離ドラムの許容蒸気速度」 2019年 10月号
  2. 「入門化学プラント設計」 培風館 1998年刊







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