今回の投稿では、乱流撹拌槽における所要動力について取り上げます。と言っても、ただの平板バッフル Flat Baffle では無くて、丸棒状のバッフル Cylindrical Baffle を設置した場合の撹拌所要動力についてです。
下図に示すように丸棒状のバッフルを液中に挿入した状態で撹拌したら、インペラの動力はどの程度になるか? って事ですね。実際の適用例としては、何と言っても 伝熱コイルでしょうか。ベッセル 側壁などの接液部面積だけでは伝熱面積が不足する場合に、追加伝熱面積を設置しますが、まあ普通は 円管としますね。なので、追加伝熱面積であると同時に撹拌動力を増加させるバッフルとしての効果も有ると言えます。 また、多少特殊ですが 平板バッフルだと裏面がデッドスペースになる為あえて丸棒とするとかも有りますね。
※ 丸棒状では無いですが、「ビーバーテール」タイプのバッフルってのは有りますね。その名のとおり、ビーバーのシッポみたいな形となっています。グラスライニング 反応器などには良く用いられているようです。基本 平板状なんですが、面取りして有ってカドが無いんですね。ライニングする時にカドが有ると難しいんでしょうね。んじゃ、丸棒でも良いのでは?と思いますが、それだとバッフルの効きが弱いんでしょうね。
邪魔棒 撹拌動力推算式
撹拌動力と言えばいつもいつもお世話になっている、 名古屋工業大学 工学部 加藤 禎人先生のグループの報文を参考とします。報文名は以下のとおりです。
「邪魔棒を備えた乱流撹拌槽の所要動力」 化学工学論文集 第30巻 第5号 2004年
✔ 丸棒状バッフル 撹拌槽
さて、丸棒状のバッフルですが、下図のような設置イメージですね。円周方向に何本か設置され、かつ半径方向にも設置されます。例えば、円周方向に4本 等配置であれば 90°づつズラして設置します。加えて半径方向に2本配置であれば、所定の間隔で内側にもう1本設置する感じでしょうか。なので、この場合は 丸棒状バッフルを 8本設置するのだと思います。
下図では他の例も描いていますが、こんな感じだと思います。こっちは半径方向に2本でそっちは3本とか あえて非対称になるようには設置しないですよね普通は。
そして、インペラですが 平板パドルと傾斜パドルの2種類について動力推算式が提示されています。一般的に使用される 傾斜パドルであれば ブレード枚数、インペラ径、ブレード幅 そして傾斜角度 (普通は45°) を設定しますね。
✔ 所要動力 推算式
動力推算式は以下のとおりとなります。元の報文には平板パドル 計算式も有りますが、今回はより一般的に使用される 傾斜パドルについて紹介します。また、丸棒状バッフルですが 槽壁にピッタリとくっつけて設置した場合の計算式と、バッフルを槽壁からある程度以上 離して設置した場合の計算式の両方が有ります。バッフルをピッタリくっつけるってのは あまり無いと思うので、離した場合のみをご紹介します。
式①中の Npi が 丸棒状バッフルを槽壁から離して設置した場合の動力数です。また、式中の x は式②から計算しますが、そこに円周方向バッフル数と半径方向バッフル数が含まれていますね。また、それ以外に Npmax,θ とか Np0 が含まれており これらも別途計算する必要があります。前者は 完全邪魔板条件における動力数であり最大の値となります。後者は邪魔板無し条件における動力数で こちらは最低の値となります。実際の動力数は 最大と最小の間のどっかに有るという事になるんですね。
で、 Npmax,θ と Np0 ですが 傾斜パドル 動力推算式から計算します。上記式①と②はあくまでも丸棒状バッフル 動力数を計算するものなのです。これらについても、やはり加藤先生のグループから発表されている動力推算式を使用可能です。こちらはだいぶ複雑で式も多いですね。元の報文には Npmax,θ 計算式は載っており、しかも簡単です (式⑯)。ですが、Np0 計算式については記載されておらず、「オッ、こんなんで計算出来るんだ!」とか思って良く調べると 別の報文にあたってみて 以下の式を全部計算しなきゃないんですね。何事も簡単では無いですね。
✔ 使用上の注意点
更に この推算式を使用する上での制約条件が2つ有ります。報文ではこれらの値を槽内径D で除して無次元化しています。なので、スケールが違っても適用可能ですね。
- 丸棒状バッフルと槽壁とのクリアランス Cw
- 丸棒状バッフル間のクリアランス Cb
試しに 槽内径 2000[mm] の場合で作図してみました。丸棒状バッフルとして 40A ステンパイプを設置するものとします。円周方向 8個で半径方向 5個なので 計 40個 設置してみましたけど、詰め込んだ感じは無いですね。槽壁とのクリアランスはもう少し狭くするのが一般的なようにも感じますが、撹拌動力の観点からはこれくらいは離さないと影響が出てしまうって事でしょうか。また、パイプ間隙 距離は 42[mm] が必要ですが、40A ステンパイプは 外径 48.3[mm] なので まあ パイプ1本分の距離が確保してあれば良いよって感じなんで、これは感覚的には有るな~と思いますね。
計算例 丸棒状バッフル 動力曲線
✔ バッフル無し、丸棒状バッフル
早速計算してみますが、せっかくなんで 前述の図の仕様で計算してみます。
- 撹拌槽 : 内径 2,000[mm] 、液面高 2,000[mm]
- インペラ : 4ブレード 45° 傾斜パドル 外径 800[mm]、ブレード幅 150[mm]
- 丸棒状バッフル : 40A ステンパイプ 外径 48.3 [mm]、40本
まあ、バッフルを設置するとレイノルズ数の比較的小さいうちに動力数はほぼ一定となりますね。計算結果でもそのようになっています。バッフル無しの場合を併せて描いていますが、ダラダラーっと低下していますね。
✔ 平板バッフル、丸棒状バッフル
せっかくなんで、一般的な平板バッフルと比較してみます。平板バッフルの場合、幅は槽径の1/10 で枚数は 4枚ってのが基本ですね。槽径 2,000[mm] であれば バッフル幅は 200[mm] となります。なんですが、200A ステンパイプの外径 219.1[mm]に合わせてみます。
で、計算してみると平板バッフルの方が乱流域の動力数は大きいという結果になりました。まあ予想通りでしょうか。平板と丸棒では抗力係数が違いますんでこうなるんでしょうね。
- 平板バッフル Np = 1.525 Re = 5,330,000
- 丸棒状バッフル Np = 1.155 Re = 5,330,000
下図の丸棒状バッフル仕様はまあ現実的では無いと思いますね・・・。追加伝熱面積であれば もっと細い円管を多数設置した方が得策ですね。また、単なるバッフルを設置したいのであれば、平板バッフルにして幅を増減させてバッフルの効きを調節すれば良いですね。どうしても丸棒状バッフルにしたい!のであればアレですけど。
計算例 バッフル仕様の影響
✔ バッフル配置と動力数
完全な乱流域であれば 動力数は一定となるので、バッフル仕様を変えた場合の動力数の大小を計算して比較してみます。バッフル配置は以下のとおりとします。
- 円周方向 2、4、8個
- 半径方向 1、2、3、4、5個
例えば、円周方向 4個で半径方向 3個であれば 4✕3 なので 全部で 12個の丸棒状バッフルを設置するものとなります (多分)。前述の例では、円周方向には8個 (45°刻み) で半径方向には 5個なので 8✕5で 40個となります。
結果ですが 当然ながら バッフル数が増えれば乱流域の動力数は増加します。下図では円周方向 4個は 緑色の棒グラフですが半径方向のバッフル数が増えれば 動力数も確実に増えていますね。
で、今回計算していて 「?」と思ったのが バッフル数が同じでも配置によって動力数が少しですが異なる結果になりました。下図にも描いてますが、同じバッフル数であっても 円周方向にバラバラに配置したほうが 動力数が小さくなる、逆に 半径方向にかたまって配置すると動力数は大きくなるって事でしょうか。まあ、違うって言っても10% 弱では有るんですけど。
- 円周方向 8 ✕ 半径方向 1 計 8個 Np = 0.868
- 円周方向 4 ✕ 半径方向 2 計 8個 Np = 0.907
- 円周方向 2 ✕ 半径方向 4 計 8個 Np = 0.947
✔ 撹拌動力
バッフル有無とバッフル仕様を変えた場合の推定された撹拌動力P[kW] と単位体積あたりの動力 Pv [kW/m3] は以下のようになりますね。バッフル無し条件以外では そこまで大きな差異は無いですね。まあ、何か突っ込んでおけばそれなりに動力は食うよって事でしょうか。
まとめ
今回 丸棒状バッフルを設置した撹拌槽の動力数を計算してみましたが、なかなか面白いですね。この手の撹拌槽の動力を計算する事は実務でも何回か有ったんですが、この推算式を使った事は有りませんでした。まあ、伝熱コイル(円管)を設置した場合なんですが コイル外径=平板バッフル幅 として計算したりしてました。
んでも、特に根拠が有った訳では無いですが、コイル間隙距離は コイル外径と同じ程度に確保してましたね。これくらい離せば まあ別個のコイルとして扱っても良いんじゃないのかな~と考えたんですね。かと言って、コイル2本分も離してしまうとコイル数が稼げないので いろいろとケーススタディして決めたんですね。伝熱面積は確保しつつあんまりにも詰め込み過ぎないように、いろいろと試行錯誤して検討しましたね。この時 重要なのは実際に作図してみて どんな配置になるのかな~と言うのを確認する事かなと思いますね。もちろん、インペラは回転機器な訳で 最も内側のコイルがブレードに接触するのは有ってはならない事ですし、ある程度の距離をとるように配置してましたね。
んで、伝熱コイルの場合には動力計算して終わりじゃなくて 動力値からコイル表面の熱伝達係数を推算するってのが重要ですね。単位体積あたりの動力値 Pv [kW/m3] から 熱伝達係数値を推算し、その推算値を使って 可能な交換熱量を求める事が出来ますね。今回のような縦型のコイルに限らずスパイラル状のコイルでもビーバーテールであっても Pv値を求めさえすれば 熱伝達係数を推算可能です。以前は 「縦型コイルと傾斜パドルとの組み合わせにおける伝熱実験式」とか「スパイラルコイルとディスクタービンとの組み合わせによる伝熱実験式」を使っていたんだと思いますけど。この辺りも面白いんで、また別の機会にでもご紹介したいと思います。
補足
報文中に記載されている 傾斜パドルでの 完全邪魔板条件下の最大動力数 Npmax,θ 推算式なんですが、いくつかバージョンが有ると言うか違いが有るような・・・。以下のような感じです。報文によって計算式が3種類有って、各々 得られる値が異なります。前々から気にはなっていたんですけど。2009年発表の報文は様々なインペラの動力推算式が記載されているレビュー的なもので非常に便利でして、動力計算では 基本 この報文を参考にしてました。
そもそもの傾斜パドル 動力推算式は 1997年発表の報文に記載されているのが原著論文で、Type 2 が「正」なのかとは思いますが。手持ちの書籍で最も最近のものである2017年刊 「最近の化学工学66 多様化するニーズに応えるミキシング」 にも Type 2 が記載されていますし。
で、今回投稿の参考文献は 2004年発表のものですが、 うーん 報文中には Type 3 が記載されていますね。なので、今回投稿における計算も Type 3 の式を使用しています。多少高めになりますね。
参考文献
- 「邪魔棒を備えた乱流撹拌槽の所要動力」 化学工学論文集 第30巻 第5号 2004年
- 「最近の化学工学66 多様化するニーズに応えるミキシング」化学工学会編 2017年
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