今回もポリマープロセスに関連する内容を取り上げようかと。タイトルに有るように「ポリマーストランドの冷却」です。ポリマー製造プロセスでは最後は固体としますが、デカい塊で出荷する訳では無く、大抵はペレット(数ミリの円筒形)としてそれを紙袋とかフレコンバックに詰めて出荷しますね。更に大量であればバルクローリー車で出荷しますね。
この工程は造粒工程などと言われますが、その名のとおり造粒機 Pelletizer が設置されています。造粒機にもいろいろなタイプが有りますが、一般的なのが ダイヘッドから溶融ポリマーをグイーっと押し出します。このスパゲッティ状のものがポリマーストランドであり、これを冷やします。そうすると固まりますから、適度な硬さの状態で切断します。
で、この冷却過程ですが普通は温水槽 Water Bath にポリマーストランドをくぐらせて水冷します。どんだけの時間で冷えるのか?とか、水温をどれくらいにしたら良いのか?とかは、まあ経験で大体これくらいってのが決まってるんですが、計算してみる事もある程度は可能です。ストランドはなが~いスパゲッティみたいなもので、その断面は円形です。それを外表面から冷却します。となると、これは「円柱座標系における非定常 一次元熱伝導問題」な訳で、まあ冷却過程の温度変化を EXCELで計算出来ますね、数値解析手法ですけど。厳密解も有りますが、式がすご~く複雑です。第一種ベッセル関数とかが出てきます。まあ、厳密解だと 冷却開始からの任意時間経過後の任意場所の温度をドンピシャ得られるんですが。
処理量の大きなペレタイザーと言えば、Automatik社の Underwater Strand Pelletizer USGシリーズとかが有名でしょうか。ネットで調べると、今はギヤポンプで有名な Maag社のグループ企業になっているようです。少し驚きました。
で、このペレタイザーですが ダイヘッドからのストランドを、斜めの樋みたいところで水スプレーをぶっかけて少し冷やしてから 水中でカッティングします (Wet Cut)。んで、ペレットの状態で水と一緒にザーッと流れていく間に更に冷却します。その後にドライヤーが有って水を分離します。
https://maag.com/products/m-usg/
今回紹介するのはそれなりに冷やしてから、空気中に有る回転刃でカットするのでコールドカット方式となりますね。じゃあ、ホットカットは有るのかと言えば有りますね。溶融状態のポリマーを水中に設置されたダイから押し出してカットします。溶融しているんで、カットすると自然に丸くなりますね。なので、丸ペレットとなりますね。
非定常 一次元熱伝導
✔ 基礎方程式
熱伝導が行なわれる基本的な形状としては、平板、円柱、そして球ですがいずれにしても基礎方程式は偏微分方程式です。下記の式には右辺に発熱項が含まれています。まあ、冷却したい場合には発熱は関係無いですね。ですが例えば、円柱状の金属棒の右端を温めて左端を冷やす場合の定常熱伝導では温度分布は直線となりますが、この金属棒に通電してジュール発熱をさせる場合の温度分布を式①で計算してみると上に凸の曲線となります。
✔ 数値解析手法
で、式②を解けば非定常過程の温度分布を逐一計算出来ます。が、前述の様に厳密解はすご~く複雑なのでパスします。代わりに、数値解析手法である 差分法を適用します。かつ、陰解法だと発散させずに計算出来ますが、行列式とかが出てくるので面倒です・・・。と言う事で、計算上の縛りが有りますが陽解法で解きます。この手の反復計算には EXCEL はうってつけですね。
上記 偏微分方程式を差分近似した結果が以下の式です。非定常なので各位置の温度の時間変化を逐一計算していきます。こんな計算手順ですね。
- 初期温度を設定
- ストランド表面 境界条件を設定 (今回は熱伝達係数と流体温度を指定)
- 初期温度と境界条件から 「少しだけ未来」の温度分布を計算
- 「少しだけ未来」の温度分布と境界条件から 「更に少し未来」の温度分布を計算
1と2と3 は最初だけで、後は 4 を延々と反復するだけです。で、前述の縛りですが 「少しだけ未来」はホントに少しだけです。例えば、初期温度からいきなり10分後の温度分布は計算出来ません。発散します。ストランド半径を10分割したとするとそれに応じて 式⑪ の関係を満たすように時間幅Δt を決める必要があります。まあ、やってみると分かりますけど温度分布がジグザクになってあり得ない値となります。
ストランド温度分布の計算ですが、円柱なので真ん中には境界条件は有りません。無いと言うか、差分法なので少しだけ外側の温度と同じとします(なので熱は流れない)。ストランド表面ですが、熱伝達係数と流体温度と「現在」の温度から「少しだけ未来」の温度が計算されますね。真ん中の温度とストランド表面温度が決まれば、後は式⑤で次々と計算出来ますね。式⑤を見て分かるように、温度は「その場所の温度」と「少しだけ内側の温度」と「少しだけ外側の温度」から計算されます。その場所に入ってくる熱量と出ていく熱量があって、入っている量よりも出ていく量が大きければ温度は下がりますね。陽解法は見た感じで分かりやすいので良いですね。
計算例
✔ 計算条件
今回は ポリスチレン物性を使って計算してみます。まずは、ストランド外径を設定します。そして、冷却条件(熱伝達係数と冷却用流体温度)を設定します。これらの付与条件下でストランド温度分布の経時変化を計算する事になります。まあ、経時変化と言ってもストランドはずーっと動いているので 経過時間✕ストランド走行速度=走行距離となりますね。
- ポリマーストランド外径 3 [mm]
- ストランド走行速度 250 [mm/sec]
- ポリマーストランド初期温度 200 [℃]
- 空冷部分① ストランド長 1[m], 10 [W/m2 K] , 30 [℃]
- 水冷部分 ストランド長 4[m], 200 [W/m2 K] , 40 [℃]
- 空冷部分② ストランド長 2[m], 10 [W/m2 K] , 30 [℃]
✔ 計算結果
まとめ
非定常熱伝導問題は まあ教科書とかでは 必ず出てきますし それなりに内容も知ってますが、実務で使う機会はそれほど多くは無いですね。と言うか、ほぼ有りませんね。そんな中でこのポリマーストランド冷却は数少ない適用事例でしたね。個人的にはやってみたいな~とは思ってたんですが、なかなかその機会には恵まれませんでした。
が、ついにその日がやって来たんですね。なので、嬉々として計算してました。空冷部や水冷部の熱伝達係数なども別途 推算したりとか、実際のストランド温度に合うように調節したりとかしてました。また、ストランドパスも今回の計算ではワンパスで単純ですが、モノによってはウォーターバスが前半後半に分かれてて 、しかもそれぞれ温度が違うとか 結構 計算も厄介でした。ストランドパス長も分かっている訳では無いので、CAD図面を読み込んで、そこに新たに寸法線を引いて実長を求めたりしてました。ストランドパス長を稼ぐために、ストランドをロールを使って一回戻したりするとかも有りましたね。例えば、ワンパスからスリーパスにするんですね(行って来て行って)。でもまあ計算自体は同じなんで経過時間(=パス長) と温度の関係を淡々と計算してました。
ついでと言う訳では無いですが、別の検討で ウォーターバスでは無くてエアーを使ってオール空冷で冷却出来るのか?と言う検討もしましたね。まあ、オール空冷は難しいですね。今にして思えば、ミスト噴霧冷却だったら出来たかもと思いますが・・・。
参考文献
- 「化学工学 高粘度流体のフラッシュおよびペレタイジング技術」第42巻 第7号 1978年
- 「偏微分方程式の数値解法入門」 森北出版 1993年
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