化工計算ツール No.48 ポリマー乾燥 Polymer Drying

 今回も前回に引き続いて ポリマー関連の内容として、湿潤ポリマーの乾燥を取り上げます。懸濁重合や乳化重合などの分散媒(水ですね) を使用する重合プロセスでは、水との分離が必要となります。脱水工程で粗く水を絞り、その後の乾燥工程において水分を大幅に低下させます。


例えば 一般的な ABS 乳化重合のブロックフローは以下のようになります。予め乳化重合でポリブタジエン ラテックス PBD Latex を作っておき、それに乳化剤・開始剤と原料を混ぜてやはり乳化重合によって ABS グラフトポリマーを作ります。このABS ラテックスを塩析によって凝固させ、水洗して脱水します。脱水後の湿潤パウダーを乾燥させると ABS パウダーが得られます。このパウダーに 別途 製造された SAN ペレットをコンパウンディングすれば 製品 ABS ペレットが出来上がります。

このプロセス全体を見てみると、このブログで取り上げた 「No.44 ポリマー脱揮」 は SAN プロセスで出てきますし、「No.46 ポリマーストランド冷却」は 造粒工程やコンパウンド工程で出てきますね。で、今回の 「No.48 ポリマー乾燥」ですが 水を含んだポリマーパウダーの乾燥となりますね。大抵の場合 この手の乾燥では 流動層乾燥機 Fluidized Bed Dryer が使われますね。なので、今回は 「粉体の流動化」について計算してみます。

実は、「No.29 乾燥器の熱収支」で必要とされる熱量については紹介しているんですが、乾燥器の詳細については特に触れていませんでした。取り上げたのは 熱風加熱方式の熱収支ですが、まあ流動層乾燥器も同じタイプですね。






流動層 乾燥器


これまた粉体工学会の粉体工学用語辞典にお世話になります。流動層乾燥器の説明として以下のように記載されています(抜粋)。
 
” 流動層乾燥は,多孔板などの整流板上の粉粒体材料層に下部より熱風を吹き込み,これを流動化(流体から受ける抗力によって,各粒子がランダムな運動をしている状態)して乾燥する方式である。材料温度が均一なこと,伝熱容量係数が大きい点,材料の装置内滞留時間を自由に設定できる点が特徴としてあげられる。しかし,流動化に要する熱風風量が大きい場合には,集塵装置,送風機などの設備費が大きくなり,送風動力費もかさむこととなる ”

http://www.sptj.jp/powderpedia/words/12516/


✔ 粉体層の流動化

このブログでも 「No.31 粉体層の圧力損失」として Kozeny-Karman式とErgun式で粉体充填層を流体が通過する時の圧力損失を計算してみました。この時の粉体層はいわゆる固定層なので粒子は動きません。で、ここから流体の速度を上げていくと粉体層全体がボワーっと膨らんで層高が高くなります。この時点で流動化していますね。そして、更に流体速度を上げると ボコッボコッと気泡が発生するようになります。ここから更に速度を上げると 気泡が合体して 装置断面全体に気泡が広がるようになって上昇します。これがスラッギング状態ですね。

要は乾燥器内の空塔速度によって粉体層の流動化状態が変化するって事ですね。粉体関連のテキストを見ると 下図のように記載されていますね。で、Geldart による流動化マップによれば、 粒子径と 粒子密度差をプロットすると下図 下段のようになります。 "A" の領域は、粒子径が 40~100 [μm] 程度で 粒子密度が 2000 [kg/m3] 以下が該当しますが、層全体が膨張し均一流動化状態が存在するとされています。つまり、流動層乾燥器には適していると言う事になりますね。A以外の粒子だと均一に流動化しないとか、チャネリングするとか あまり好ましくない状態になるとされています。

それと、当然ですが 粒子の終末速度 Terminal Velocity よりも空塔速度が大きくなると 粒子は全部 吹き飛んでしまいますね。なので、これはもう普通の流動層とは言えないですね。で、吹き飛んでいった粒子は サイクロンで分離して リサイクルするようすれば高速流動層となりますね。





✔ 最小流動化速度

粒子径と粒子物性、流体物性が分かっていれば 終末速度は計算出来ますね。ただ、流動化に必要な速度はそれよりも小さいので 別途 計算する必要があります。
化学工学便覧 第6版 には以下の式が記載されています。

式①から③で最小流動化速度が計算出来ますが、流動化速度 umf が 粒子レイノルズ数の中に入っており あまり見通しが良くないですね。なので、式④と⑤は umf についての近似式となっており、直接に umf を計算出来ます。どちらの式を使うかは 無次元数 アルキメデス数によって異なりますね。アルキメデス数は式③ですが、粒子径と物性値が分かっていれば計算出来ますね。また、計算に用いる粒子径ですが 体面積平均粒子径とされています。球形粒子であれば直径となりますね。また、複数の粒子径を有する粒子を混ぜた状態での最小流動化速度は式⑥で計算されます。
ついでに、気泡流動化開始速度は式⑦で計算されます。





計算例 流動化速度


✔ 計算条件

では、早速 最小流動化速度を計算してみます。湿潤ポリマーパウダーを熱風で流動化するものとします。

  • 被乾燥物     ポリマーパウダー 
  • 真密度      1,000 [kg/m3]
  • 粒子径      30 ~ 300 [μm]
  • 流体       空気 80[℃]
  • 密度       0.999 [kg/m3]
  • 粘度       21.22 [μ Pa s]
      

✔ 最小流動化速度

粒子径を変えて計算してみると下図のような結果となりました。流動化開始速度はそれほど大きくは無いですね。まあ、あくまでも開始速度なんで実際には これよりも大きな空塔速度で運転しますね。粒子が吹っ飛んでしまう 終末速度 ut が 空塔速度の上限ですから、実際に適用される空塔速度は 両者の中間に有る事になりますね。
また、気泡流動化開始速度 計算式には微粒子の重量比率が必要ですが 粒子径 30[μm] では 1.00 とし、それ以上の粒子径では 0.3~0.1 に設定しています。

化学工学便覧 第4版に記載されている流動層乾燥器の設計手法を見ると、「空塔速度は 終末速度の 0.4 ~ 0.8 にする」と有ります。まあ、結構 空塔速度は大きくするんですが、そうであれば 気泡流動化状態と言う事になりますね。スラッギングまでは行かないと思いますけど。実際には パイロットスケールの流動層乾燥器で実粉を使ってデータ採取するのが普通ですね。まあ、実粉には粒子径分布とかも有りますしね。

下図下段の棒グラフは 粒子径 100 [μm] の各速度を比較したものですが、まあこの程度でしょうか。まあ、あまり空塔速度が大きくなると 熱風加熱負荷も増加しますし、ブロワ定格も増加しますね。





✔ 多成分 粒子混合層の最小流動化速度

最小流動化速度の異なる粒子を混合した場合、最小流動化速度がどのようになるかを計算してみます。条件と結果は以下のとおりです。
重量比率を見ると 2番目の粒子比率が最も大きいので、そちらに近い値になりそうなものですが、計算してみると だいぶ違いますね。因みに、粒子の重量比率を使って単純に平均値を求めてみると 粒子2 に近い値となります。この結果を見ると、混合層の場合 小さい方の速度の影響を強く受けるのかなと。




まとめ

流動層乾燥器における粒子の最小流動化速度について計算してみました。考えていたよりも案外小さいですね。実際の乾燥器における空塔速度はもっと大きいですね。粉モノの性状は千差万別なので、きちんとパイロットスケールの乾燥器で流動化実験をするべきですね。韓国に居た際に、日本の乾燥器メーカーさんを訪問して 乾燥実験に立ち会った事も何回か有りますね。流動化状態をサイトグラスから見られるんですが、結構 ボコボコいってました。気泡流動化状態にはなってたんでしょうね。 流動化とは良く言ったもので、本当に液体みたいな挙動を示すんですよね。なかなか見られるものでは無いので、面白かったですね。

また、流動層を初めて見たのは大学の化学工学実験でした。ガラス管の中に砂か何かを充填し、下部から空気を吹き込んで流動化してましたね。その時の事は今だに覚えているんで、まあ結構 印象に残ったんでしょうね。実験レポートの出来はまた別の話ですけど・・・。





参考文献


  1. 「化学工学便覧 第6版」 丸善 1999年刊
  2. 「化学工学便覧 第4版」 丸善 1978年刊
  3. 「流動層概論」 朝倉書店 1996年刊




コメント