今回はケミカルプラントにおける電気・計装について取り上げます。まあ、前回の配管と同じくプラント・エンジニアリングとか詳細設計の領域なんだとは思いますが、「知りません・・・」 なんて事も言ってられませんし。この分野の専門家であるところの いわゆる「電計屋さん」と話をしなければならないので、ある程度の事は知っておく必要があります。また、基本設計実務では 「計装品リスト」、「単線結線図」や「モーターリスト」を作成しますが、見よう見まねで作ったりしてました。また、温度計とか流量計とか液面計などの計器類についての知識も必要となりますね。更にはPID制御などのプロセス制御に関連する内容も重要ですね。
などと言ってますが、そこまで詳しく知ってる訳でも無いですし、実務で経験した範囲もごく限られた内容です。なので、その中からいくつかトピックス的に紹介しようかと思います。まあ、やはりポリマー関連の項目が出てくるんですけどね。
下図は貯蔵タンク周りの P&ID , Piping & Instrument Diagram 的なものですが機器が有って配管があるのは当然ですが、それ以外に丸いバルーンが記載されています。これらが計装品ですね。PG は圧力計で LT は液面計、TI は温度計ですね。頭の文字が測定する物理量ですね。G はゲージ、T は発信器で I はインジケーターですかね。
電気・計装 Electrical & Instrumentation
一口で電計といっても、電気と計装とは結構違いますよね。電気だと受電・変電・配電などに関連する事ですね。一方、計装は計器類や制御系やシステムに関する事になるでしょうか。電気は何と言っても重要な動力源ですし、これが無ければ 撹拌機の電動機も回りませんし、ポンプも動きませんね。また、プラントを運転する上で 反応器の内温が何度なのかが不明であれば きちんと反応させる事が出来ません。また、タンクに液面計が無ければ 最悪 タンクのてっぺんにあるベントノズルから液が溢れてしまいます・・・。ある重工メーカーさんのホームページでは、電気系統は血流に例えており、計装制御系は神経や脳の機能に例えています。うまい事言いますよね。まあ、それくらい重要なんで専門のセクションと言うかエンジニアが設計・施工や運転を担っている訳なんだろうなと。
✔ 電気系 Electrical system
門外漢なのでほとんど何も知りませんが、そこそこの規模のケミカルプラントでは高圧や特別高圧で受電しているんでしょうか。交流電力では法規では以下のように決まっているようです。
- 低圧 600V 以下
- 高圧 600V を超えて 7000V 以下
- 特別高圧 7000V を超えるもの
で、電気系に関するドキュメントと言えば単線結線図 Single Line Diagram でしょうか。まあ、書いたことも作った事もほとんど無いのでアレなんですけど。ネットにも沢山 ありますよね。また、単線図があれば複線図もあるそうで、単線図はあくまでも概要を示したもので、詳細については複線図に描くんだそうです。電気配線なんで当然 複数本の電線がある訳で、より現実に近いのが複線図なのかなと。プロセス屋さん的に言えば、PFD, Process Flow Diagram と P&ID みたいなものなのかなと。
それと電力の配電方式ですが、ケミカルプラントでは「三相3線式」が一般的なのかな~と。一般家庭用だと「単相2線式」ですが。プラントでは電動機を使うので 三相3線式になるのかなと。
✔ 計装系 Instrumentation system
計器類ですが冒頭のP&IDにあるように 温度計、圧力計、液面計や流量計などがごく一般的に用いられますね。少し特殊な例だと密度計とか粘度計とかもあったりします。また、成分とかを測る例もあります。プロセスガスクロマトグラフィーとかでは、配管内の流体をサンプリングしてガスクロを打つと言う作業をまとめて自動的にやってしまいますが、特殊だと思いますね。
- 温度計 熱電対、測温抵抗体、放射温度計
- 圧力計 ブルドン管、歪みゲージ式
- 液面計 フロート式、差圧式、超音波式、放射線式
- 流量計 差圧式(オリフィス)、面積式(ロータメーター)、容量式(オーバル)、超音波式、質量流量計(コリオリ式)
液面計ですが、例えば重合反応器内の液面位置を測定する場合、結構大変です。まあ普通は 差圧式液面計を使うと思いますが、潜熱除去方式では内液がボコボコ 沸騰しており気泡を含んでいます。なので、内液の見掛け密度が変化していますね。
で、測定された差圧から液面高さを計算しますが、その時に密度値が必要となります (Δp=ρ✕g✕h)。この密度値にはどの値を入れれば良いのかな?となる訳ですね。ですが、バッチリの解決法が有りますね。それは、ロードセルで反応器の重さごと内液の重さを測る事です! この時、反応器に加えて撹拌機一式(インペラ・減速機・電動機)、もちろんギヤポンプとその電動機などの重さも全部 測ります。なので、ロードセルを複数個 (3個とか) 使いますね。で、和算器で測定値を合算して重量を出します。で、その重量値を使って排出用ギヤポンプの回転数をインバータ制御で増減させて内液量を一定に維持するって感じですね。これは 勤務していた韓国企業ではごく一般的でした。それを知った当時はまだまだロードセルも高価だったんで、「お金持ってんな~」と思いましたね。
ただし、適用するには注意点もあって、反応器に連結されている配管はリジッドでは駄目ですね。ロードセルの微妙な動き(上下動) を阻害しないようにします。なので、配管はフレキシブルパイプとします。しかも、フレキ部分は水平にします。垂直だと動きが逃げないからですね。ベローズ構造(ジャバラ) であれば垂直でも良いかと思いますが、取り合い部の剛性次第でしょうか。とまあ、知ったかぶりで書いてますが ロードセル屋さんから こんな据付仕様にして下さい、と言われるんですね。日本だと エー・アンド・デイ さんとかが大手なんでしょうか。
と、この投稿を書いている途中で思い出しましたね。パイロットプラント特有の苦労があります。それは流量ですね。添加剤を連続添加するんですが、パイロットスケールなんで流量が非常に少ないですね。すごーく小さい流量計を探しても限界があります。時間当たり流量 100 [mL] とかであれば、なかなか有りません。しかも、添加剤が比較的ネチョネチョした液であれば尚更ですね。 なんで、どうするかと言うとヒトが実測します・・・。
添加剤タンクの出口配管を分岐して、そこに目盛り付きのガラス管を付けておくんですね。コックの無いビュレットみたいなもんです。タンクとガラス管は配管で繋がっているんで、タンク内の液面位置を示していますね。んで、測定時には タンク ボトムのバルブをエイッと閉めると同時に ストップウォッチをスタートさせます。すると、ガラス管内の液が移送されていきますので ガラス管内の液面が下がってくるんですね。で、測定前後の目盛りと測定時間から流量が出ますね。例えば、1分間測定して 液量変化が 7.0 [mL] であれば、液量を60倍して 420 [mL/hr] となりますね。液密度を使って重量流量とし、ポリマー溶液 重量流量に対する添加比率を出せますね。まあ、プランジャーポンプなどの定量ポンプであれば一旦セットすればそうそうズレるものでも無いので、1シフトで数回も測れば御の字でしょうか。
と、ネットで調べると最近は微小流量計もいろいろとあるんですね。それなりの粘度でも測定可能とありますが、何だかんだで 上記のような方法が堅いのかなと(正直 ダルいですけど)。お金もかかりませんし。注意点はガラス管をすぐ壊してしまうので、下図のように金属製の保護管に入れる事ですね。添加剤タンクとかはパイロットプラントの隅っこなど狭い場所にあるのが、パイロットあるあるなので・・・。それと、測定後にタンクボトムのバルブを開けておかないと、そのうちガラス管内の液が空っぽになります。「えっ、添加剤入ってないじゃん!」となるので要注意ですね。
さて、温度や流量や圧力などの測定した物理量を使って制御する訳ですが、ここら辺は制御系や制御システムの話になってきますね。化工関連の書籍でも PID制御についてはほぼ確実に取り上げてますよね。比例制御、積分制御 そして 微分制御と言う事は知ってますが、それ以上はあまり・・・。まあ、制御については専門メーカーがやってくれますし。あまり困った経験も記憶も無いんで、結果オーライかなと。
撹拌機用 電動機 Agitator Motor
で、反応器の撹拌機についてはいろいろと計算したり仕様の決定もしたんですが、突き詰めると動力計算と言うか 「電動機容量はどれくらいなの?」を決める事が重要なのかなと。何キロワットの電動機を買えば良いのかって事ですね。で、ここいら辺りも結構 面白いんでどっかのタイミングで取り上げようかと思ってました。また、撹拌回転数を変えたい場合、方法として機械式とインバータ式が有りますね。小規模であれば機械式になるかと思いますが、結構大きな電動機とか 運転途中で回転数を広範囲に変えたいのであればインバータ式になるかなと。
✔ 電動機 定格 Motor Capacity
インペラは回転機器なんですが 動力源として電動機を使いますね。ケミカルプラントであれば三相誘導電動機 3-Phase Induction Motor ですね。で、更に全閉外扇形 TEFC だったりします。なおかつ、耐圧防爆タイプですよね、ケミカルプラントでは。ここら辺は他のサイトで解説されていますのでご参照下さい(手抜きです)。
で、この三相誘導電動機ですが、例えば撹拌動力が 124 [kW] なんで 総効率 70[%] として 177 [kW] の電動機をお願いしますとメーカーさんに言っても アレですね。電動機の定格は決まっているので・・・。中途半端な値は無いですよね。配管とかと同じで飛び飛びの値となります。なので、ネットとかでカタログを見て合致する定格の電動機を当たってみます。
例えば、東芝三菱電機産業システムの三相誘導電動機の中大容量シリーズだと以下のようになります。単にこんな容量です だと面白く無いので、容量に対して電動機重量と kW当たりの重量をプロットしてグラフにしてみました。例えば 200 [kW] だと 1,080 [kg] ですね。まあ、鉄の塊みたいなものなんでこうなるんでしょうけど、重いですよね。で、キロワット当たりの重量だと 7~5 [kg] なんですね。因みに、何で 440 [V] 、60[Hz] の重量を選んで載せているかと言うと 勤めていた韓国企業のプラントでは 電源仕様がそうだったんですね。よそは知りませんけどね。
✔ 電動機 回転数 Motor Rotation Speed
撹拌回転数云々に触れる前に、そもそも大元の電動機の軸はどれくらいの回転数で回っているのかを見ておきます。
三相誘導電動機における軸回転数は、 周波数 F [Hz] と極数 p [ - ] から式①によって求められます。s はすべり slip で 普通は 0.01 ~ 0.05 との事です。
で、周波数を変えて と言っても 50 と 60 しか有りませんが、それと極数を 2、4、6、8 と変えて回転数を計算すると以下のようになります。すべりは 0.01 とします。
周波数 60 [Hz] で極数 4 [ - ] だと回転数は 1782 [rpm] となりますね。すべりがゼロであれば 1800 [rpm] なので、すべりが有ると回転数は少し減りますね。
✔ 減速機 Reducer
前述のように電動機自体はものすごいスピードで回転しています。一方、インペラの回転数は 量産スケールであれば 20 ~ 60 [rpm] くらいでしょうか。例えば 、30 [rpm] であれば ば電動機回転数 1782 [rpm] の 1/59 となります。なので、まずは減速機で減速する必要が有りますね。まあ、Vベルトを使う方法も有りますが減速機の方が一般的でしょうか。
入力側回転数と出力側回転数との比率が減速比となりますが、上記の例で 1782 [rpm] を 60[rpm] まで減速するとなると、減速比 は 29.7 [ー] となります。この減速比もメーカーさんで大体は決まっているので、その中から選びますね。例えば、パラマックス減速機 8000シリーズの平行軸タイプですと、近い減速比として 28 と 31.5 が有ります。
- 減速比 28 入力側 1782 [rpm] 出力側 63.6 [rpm]
- 減速比 31.5 入力側 1782 [rpm] 出力側 56.6 [rpm]
「やっぱ 回転数 は 60 [rpm] 以上としたい!」のであれば、減速比は 28 を採用する事になるでしょうか。因みに、小さめの減速機であれば サイクロ減速機もありますね。サイクロもパラマックスもどっちも住友重機械工業さんが扱っているようです。
✔ 変速方式 Speed Control system
えーっと、やっと変速方式までたどり着きました。変速方式には前述のように機械式とインバータ式 (電気式)が有ります。小さい撹拌機であれば 機械式で良いですね。と言うか、単にドラム缶の内液を撹拌したいとかであれば、回転数は固定でOKですね。可搬式撹拌機ってのもメーカーさんが色々有りますね。例えば、阪和化工機さんのドラム缶口金から挿入して使うタイプでは減速していませんね。1800 [rpm] でぶん回します。
小規模でもやっぱり変速したいのであれば 機械式バイエル無段減速機などが適用可能でしょうか。ハンドルが付いていて回転時にグルグルっと回して回転数を変える事が出来ます。パイロットプラントではこのタイプが良く使われてますね。注意点は、止まっている時にハンドルを回さないって事ですね。新入社員の時に何回も言われましたね。
で、結構デカい撹拌機であればインバータ式が適用されるのが一般的でしょうか。どんな元理で回転数が変わるかと言うと、式①を見ると分かりますね。分子にある 周波数 F を変えると 電動機回転数 nm が変わります。これまた無段階に変える事が可能です。周波数が 60 [Hz] であれば、上は 60 から 下は 6 [Hz] までが一般的ですね (1/10)。で、余談ですが 60 [Hz] を超えて運転する事も出来たりしますね。65とか70 [Hz] で運転させるとその分回転数が上がります。撹拌機ではこんな事はしませんが、例えば ギヤポンプでこれをするとギヤ回転数が上がるので 移送流量が増えるんですね。ちょっとでも早く液を排出したいとかで一時的に使うのは まあ許容出来るとしても、ずーっとその状態ってのは考えものですね。そもそもギヤポンプ自体が 超過した回転数で運転するようには設計されていないので・・・。まあ、多少の余裕は有るんでしょうけど。
で、インバータ式で変速する訳なんですが、インバータ専用電動機を使いますね。で、この専用電動機は 「定トルク特性」モーターなんですね。これは図にしてみると良く分かります。横軸は周波数ですが、まあこれは回転数とみても良いですね。一方、縦軸は電動機 動力です。緑色実線が回転数と動力との関係ですが、基底周波数(大元の電源周波数) において 電動機 定格動力となります。また、周波数ゼロにおいては回転数ゼロなので 動力もゼロとなります。なので、原点を通る直線となるんですね。まあ、実際には 基底周波数の1/10が下限なんで 6 [Hz] となりますけど。で、基底周波数を超えると定動力特性となり、水平な線となります。
この図に回転数と正味撹拌動力との関係 (オレンジ色実線)を重ねて描きます。これは別途 動力推算式を用いて計算します。で、これに機械的損失 Mechanical Loss を載っけます。例えば、総効率 70 [%] であれば 1.43倍となりますね。これが オレンジ色破線となります。で、ある回転数で撹拌している場合を想定すると、下図では正味動力 点a に機械的損失を加えて 点b の必要動力が得られます。で、その回転数における電動機 動力ってのは点c ですので、点b と比較します。下図では 点c > 点b なので、この場合は全く問題無く撹拌出来ますね。
で、いつもこうなる訳では無くて、粘度が違う液を撹拌する際には注意が必要です。粘度が低くなる分には良いですが、粘度が上がる場合ですね。それが以下のグラフです。見にくくなるので機械的損失込みの曲線だけを描いています。液粘度が高くなると当然正味撹拌動力が増加するので、機械的損失込みの必要動力も増加しますね。で、その曲線と電動機動力の直線との交点が複数 存在しています。この交点は 必要動力と電動機動力が等しくなる回転数を表わしています。つまり、ある液粘度ではその交点の回転数以上では撹拌出来ない、事になりますね。で、液粘度をどんどん上げていくと交点は左側に移動しています。これは回転が減る方向なので、液粘度が上がると撹拌可能な上限回転数は低下する事を意味しています。
これは特に高粘度液を取り扱うバッチ反応器などで問題となりますね。最初は低粘度なのでそれなりの回転数で撹拌出来ますが、反応後半で液粘度が上がってくると同じ回転数では 電動機のサーマルが効いて電源が落ちますね・・・。なので、液粘度増加に伴って回転数を下げる必要があります。とは言え、除熱量などの縛りでどうしても回転数を落としたく無い!と言うのであれば、しょうがないのでデカい電動機を設置しておく必要がありますね。などと言うことを事前に検討しておくんですよね。
✔ 計算例 液粘度 vs 撹拌上限回転数 example Upper Limit RPM
まあ、何事もちゃんと計算して確かめておいた方が良いですよね。なので、ダブルヘリカルリボンインペラで撹拌する場合を想定して 液粘度と撹拌上限回転数との関係を検証してみます。撹拌槽伝熱の時と同じ仕様ですが、液粘度を 50 [Pa s] としています。また、電動機定格は 100 [kW] として、回転数は 6~60 [rpm] でインバータ制御します。
で、結果を見ると 回転数 31.7 [rpm] が上限回転数となり その時の電動機動力は 52.82 [kW] となりますね。
まとめ Wrap - Up
参考文献・書籍 References
- 「化学産業における制御」 コロナ社 2002年刊
- 「プロセス制御」 コロナ社 2003年
- 「スッキリ! がってん! 高圧受電設備の本」 電気書院 2018年
- 「化学工学の進歩 42 最新 ミキシング技術の基礎と応用」 三恵社 2008年刊
ウェブサイト web site
- 東芝三菱電機産業システム https://www.tmeic.co.jp/
- 阪和化工機 https://www.hanwa-jp.com/
- 住友重機械工業 PTC事業部 https://cyclo.shi.co.jp/
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