化工計算ツール No.57 シェル側熱伝達係数 Shell side Heat Transfer Coefficient in Tubular Exchanger

 さて、今回はひさしぶりに伝熱関連の投稿として、多管式熱交換器のシェル側熱伝達係数について取り上げてみます。多管式熱交換器なのでシェル(胴)とチューブ(管) から構成される訳ですが、チューブ壁面を介して高温側流体から低温側流体へと熱が移動します。この時の総括伝熱係数Uは 管内側熱伝達係数と管外側熱伝達係数 及び 管壁コンダクタンスから決定されますね。で、管外側 熱伝達係数が 今回取り上げる シェル側 熱伝達係数となります。

また、多管式熱交換器のシェル側には普通はバッフル(邪魔板)を設置して 管群に直角の流れを作り出しています。一般的なバッフル形状は切り欠き円(欠円形) です。そして、欠円部分の幅はシェル径の 25% とするのが これまた一般的ですね。まあ、絶対 こうする必要は無いですし、多少の上下は有りますね。更に、管群における管配列ですが三角配列と四角配列が有りますね。その辺りを諸々 考慮してシェル側熱伝達係数を計算してみます。



実務でも多管式熱交換器の設計と言うか仕様検討は何回もやりましたね。まあ、あくまでも概略的なものでしたけど。ポリマー溶液の加熱とかであれば普通は管内に通液させますので、シェル側は高温流体(熱媒体油) とかになりますね。となると、主な熱抵抗は管内側になるので、シェル側はざっくりとした計算でも OK となりますね。



シェル側熱伝達係数 計算式 Shell side HTC Calculation Equations

今回も「化学装置 プラントエンジニアリングメモ 」を参考にします。式①は J-factor の定義式です。ヌッセルト数とプラントル数と粘度補正項をかけ算したものですね。この式から分かるように J-factor の値が分かれば シェル側 熱伝達係数が得られますね。で、式②が J-factor を求める式です。チューブ配列とレイノルズ数によって定数値が変化します。元文献(フィート・ポンド系単位) が有って、SI単位系に変換しています。バッフルカット率 0 ~ 0.45 に適用可能ですね。まあ、バッフルカット 0 ってのは無いですね、全く流れないので・・・。 

で、大事なのはシェル側流路の相当直径 De ですね。チューブ配列で違います。四角配列が式⑤で 三角配列は式⑥です。相当直径は水力直径の4倍ですが、水力直径は 流路断面積[m2] を浸辺長さ [m] で割り算すれば得られますね。流路断面積と浸辺長さについては下図を見れば一目瞭然ですね。




計算例 example


✔ バッフルカット率 一定  constant Baffle-cut ratio

さて、早速計算してみます。計算条件は以下の通りとします。まあ、冷却器として多管式熱交換器を使用してみると言う感じですね。冷却媒体は水で代表温度は30[℃]とします。管外径とピッチは一般的な値ですね。ここで、シェル側の流量を変えて計算してみます。また、バッフルカット率は 0.25 (25%) で一定とします。

  • 流体物性     水 30[℃] 
  • 管外径      25.4 [mm]
  • 管ピッチ     32.0 [mm]
  • 管配列      三角、四角
  • バッフルカット率 0.25 [ - ]
  • シェル側流量   変化

計算結果は以下のとおりですね。まあ、この程度の熱伝達係数となりますね。もちろん更に流量を上げていけば管外側の流速が増加して熱伝達係数も大きくはなりますが、その代わりに圧力損失が大きくなりますね。なので、むやみに上げる事は出来ませんね。この辺が熱交換器の設計で難しいと言うか面倒くさいところです。まあ、そもそも流量は冷却水入出温度差と交換熱量で決まりますしね。とは言っても多管式熱交換器のシェル側の話なんで、バッフル間隔を調節して流速を上げる事自体は可能です。ですが、結果としてやはり圧力損失が過大になるので 限界が有りますね。

また 管配列の影響ですが、J-factor と ヌッセルト数には違いは無いですね。ただし、熱伝達係数にすると少しですが違いが有りますね。これは相当直径が違う為ですね。





✔ バッフルカット率を変化させた場合     change  Baffle-cut ratio


次に、その他の条件は固定してバッフルカット率だけを変化させて計算してみます。バッフルカット率が増加するとシェル側熱伝達係数は低下しますね。





何故このような結果になるのかですが、参考文献では特に触れていません。ですが、バッフルカット率が大きくなるとシェル側の流れが変化するせいなのかな~と思います。というのを図にしてみると上記のような感じなのかなと。
バッフル同士が互いにグイッと食い込んでいる場合には管群に対して直交して流れる割合が多いですね。一方、バッフルが小さいと流れは管群の真ん中辺りだけを流れるので端っこの管では流れが遅くなりますよね。まあ、こんな感じでバッフルカット率で熱伝達係数が減少するのかなと。この辺りは CFD とかで解析すれば一発で分かりますね。と言うか、やってますよね。
ただ、毎回毎回 CFD で解析するのも大変なので、今回のような実験式と言うか計算式が多管式熱交換器 設計ソフトウェア HTRI、HTFS には実装されているんだと思います。勿論、もっと精度が良くて適用範囲が広い計算式だとは思いますけど。


Kern の方法との比較  compare with Kern method

とまあ、こんな感じでバッフルカット率を考慮してシェル側熱伝達係数を計算する事が出来ますね。ですが、実務では「熱交換器設計ハンドブック」に記載されている Kernの方法を使ってました。この方法では バッフルカット率 0.25 限定ですが、まあほとんどの場合 0.25 なんで特に問題は無かったですね。

✔ シェル径・管配置    shell diameter, tube layout

で、この方法ですが シェル中心線における質量速度 Gc を使います。今回は以前使った管配置図を流用します (No.26 多管式熱交換器のシェル径) 。まあ、シェル径としてはそんなに大きく無いですね。と言うか、大きいと作図するのが面倒なので・・・。

下図に示すように青色実線の部分が流路長となります。で、バッフル間隔を設定すれば 流路面積となりますね。この流路面積を通過する際の質量速度をレイノルズ数の計算に使用します。下図の例ですと、流路長が 170.8 [mm] なので 例えば バッフル間隔が 300 [mm] であれば流路面積は 0.0512 [m2] となりますね。ここに 体積流量 20 [m3/hr] で流すと 平均流速は 0.108 [m/sec] となります。質量速度であれば、液密度 994 [kg/m3] なので 107.8 [kg/m2 sec] となります。



✔ 計算例  example 

で、シェル側流量を変化させて計算してみると以下のとおりです。見て分かるように J-factor による計算結果と同じですね。まあ、違っても困るわけですけど。
また、熱伝達係数の大きさですが 例えば液流量 20 [m3/hr] ですと質量速度 107.8 [kg/m2 sec] となる訳ですが、熱伝達係数は 1534 [W/m2 K] となりますね。まあ、これくらいの値であれば 大きな熱抵抗とはなりませんね。




まとめ  Wrap-Up

今回は多管式熱交換器 シェル側熱伝達係数を計算してみました。以前紹介したポリマー脱揮装置は結構デカい多管式熱交換器でしたが、シェル側熱伝達係数も一応計算してました。まあ、主な熱抵抗は管内側にあるので 多少の誤差があってもあまり問題は無いですね。

このシェル側熱伝達係数ですが、単相流れの場合には 今回のように比較的簡単に計算出来ますが、これが例えば 凝縮とか沸騰など 相変化を伴う場合には いろいろと大変ですね。例えば、ポリマー脱揮装置から排気されるベーパーの凝縮回収には、やはり多管式熱交換器を使いますが ベーパーはシェル側に流します。しかも、圧力損失を小さくする為に 分割流れ Split Flow とかにするんですね。うーん、こうなってくるとチャチャッとエクセルで計算するようなレベルでは無いので、エンジニアリング会社とかに計算を依頼しますね。まあ、自前で設計ソフトウェアである HTRI とか HTFS とかを持っていれば計算出来ますけど。






参考文献


  1. 「化学装置 プラントエンジニアリングメモ 第130回」 2018年 9月号
  2. 「化学装置 プラントエンジニアリングメモ 第129回」 2018年 8月号
  3. 「熱交換器設計ハンドブック」 工学図書 1974年刊







コメント