さて、今回の投稿ですが タンクにおける噴流撹拌について取り上げます。まあ、撹拌操作では有りますが一般的なインペラによる撹拌では無くて、例えば 規模の大きな貯蔵用タンクの内液をポンプ循環して撹拌して混ぜるって事ですね。
デカいタンクとか既に使用しているタンクに、撹拌用インペラを設置するのは大変です。まあ、無い訳では無いですね。サイドエンタリング式撹拌機とかですね。吐出量 重視でマリンプロペラを使うのが一般的でしょうか。それも複数設置するとかですね。まあ、それも良いですが いろいろと面倒な事も多いので おいそれとは出来ないですね。そんな際にはタンク内に噴流ノズルを設置して、そこからの噴流で内液を撹拌するって事ですね。液をグルグル循環させるだけなので、既設のポンプや配管をそのまま使用できます。
と言うことで、この噴流撹拌について条件を変えて計算してみます。実務では少しやった事が有りますね。その際は、結構デカいタンク内液を液噴流で撹拌すると言うものでしたが、CFDで解析したみたりしましたね。
噴流撹拌 設計手順 Jet Agitation design procedure
あまり一般的では無い撹拌手法ですが、大抵の撹拌関連の書籍には記載されていますね。中でも、「液体混合技術 日刊工業新聞社 1989年刊」には比較的詳細に計算式や設計手順が記載されているので そちらを参考にします。原著者は、N.Harnby 、 M.F.Edwards、 A.W.Nienow の先生方ですね。訳者は高橋幸司 先生です。
✔ 設計手順
参考文献には下記のように設計手順が記載されていますね。平べったいタンクなのか背の高いタンクなのか とか、噴流経路長がどれくらいなのか とか、噴流速度はどの程度なのかを計算していきますね。そして、混合時間が計算されます。まあ、混合時間は短い方が良いですが 噴流撹拌の場合は なかなか大変ですね。その後、循環流量やポンプ吐出圧を計算します。
- 液体積から タンク 内径 T と液高さ H を決定
- 内径/液高さ比率 H/T から 軸噴流か側面噴流からを選択する
- 噴流経路長 X を計算する
- 側面注入噴流の場合、傾斜角βを計算する
- 噴流速度 Vj を計算する
- 噴流ノズル径 Dj を計算する
- 混合時間 t を計算する
- 噴流循環流量 Qj を計算する
- 循環ポンプ 吐出圧 P を計算する
✔ 計算式
各手順での計算式は以下のとおりです。
まずは、タンク寸法と液高さについてです。タンク形式としてはコーンルーフタンク Cone Roof Tank を想定しているので、単純に円筒形です。タンク全容積 V0 を設定し、タンク高さと内径との比率 H0/T を決めれば 式③から タンク内径 T が計算出来ますね。で、Hold-Up 容積を決めれば 液高さ H が計算されます。
見ると 軸流タイプと側面タイプが有るんですね。軸流タイプってのはタンクの中心軸線上にノズルを設置するタイプです。一方、側面タイプは側壁に設置します。また、噴流ノズルを1個だけ設置する場合と複数個設置する場合がありますね。
まあ、下図にあるように大抵の場合は 単一側面ノズルで事足りるのかなと思いますね。タンクの規模にも依るんでしょうけど。 H/T が 3.0 を超えるような平べったい場合や、H/T が 0.25 以下となるような細長い場合には 複数側面ノズルにすべきと書いてあります。
次に噴流経路長、ノズル角度、噴流速度の計算式は以下のとおりです。噴流経路長は液中の最も長い経路を採用します。ノズル角度もそうなるように設定しますね。そして、ノズルからの噴流速度ですが、臨界速度以上となるように設定します。この臨界速度ですが、タンク内液と噴流液との間の密度差が大きいと 密度成層が形成されるので、それを打破して撹拌する為の最低の速度です。ですが、まあ密度差が小さいと言うか無視して良いような場合には考えなくて良いですね。なので、そのような場合には噴流速度をエイッと決めて良いですね。で、この噴流速度が後述する 混合時間とか循環流量に影響しますね。
計算例 example
では、早速 計算してみます。そこそこの大きさのコーンルーフタンクに7割ほど液を装入し、噴流撹拌してみた場合の混合時間を計算してみます。
✔ 前提条件
- タンク全容積 100 [m3]
- タンク内径/高さ比率 1.5 [ - ]
- タンク内径 4,615 [mm]
- タンク高さ 6,592 [mm]
- 内液 水@30℃
- 密度 994 [kg/m3]
- 粘度 0.807 [m Pa s]
- ノズルタイプ 単一側面 & 上向き
図面にしてみると、そんなに大きな感じでは無いですね。このタンクの底板近傍に上向きノズルを設置して エイッと液を噴出させます。そうすると、内液断面のほぼ対角線に沿って噴流が形成され、これによって液全体が流動するって事ですね。
✔ 結果 混合時間
前述の条件で、ノズル径は固定し噴流速度を変えて混合時間を計算してみると上段グラフの結果となります。噴流速度が大きくなると混合時間は減少しますね。まあ、その分 エネルギーを投入しているので 内液の流動が増加する為ですね。例えば、噴流速度 2.0 [m/sec] であれば 混合時間 400 [sec] 程度ですね。7分弱くらいなんで、その程度で混ざるのであれば許容範囲かなと思いますね。
下段グラフは噴流速度は固定して、ノズル径を変えて計算した結果です。こちらもノズル径が大きくなると混合時間は減少しますね。ノズル径が大きいと言う事は断面積が大きいと言う事で、その分 流量が増加しますね。なので、こちらも投入エネルギーが増加する為なんですね。
噴流速度増加もノズル径増加も、どちらも噴流流量(=循環流量)を増加させる方向ですね。なので、流量で相関できるのかな~と考えました。単純に流量でプロットするのも面白くないので、タンク内液容積 [m3] を循環流量 [m3/hr] で割り算して 空間時間としてみました。タンク内液が1回入れ替わるのに必要な時間となりますね。
結果を見てみると、まあさすがにバッチリ同じとはなりませんよね。この推算式も実験結果との誤差が結構あると参考文献には記載されてますし。まあ、でも空間時間が1時間程度であれば、5分とかそれくらいで混ざるって事ですね。タンク払い出し用のポンプ流量はもうちょっと大きそうですが、そうであれば 空間時間は 短くなるので 混ざるのも早くなりますね。
✔ 吐出圧
せっかくなのでポンプ吐出圧を計算してみます。噴流ノズル自体の圧力損失は 循環配管 圧力損失に含むものとします。配管呼び径は 100A で、配管長 (実長+相当長) 100 [m] とします。液高さは前述の図のとおりです。
- 循環配管 100A ✕ 100 [m]
- 配管内径 102.26 [mm]
- 液高さ 4,615 [mm]
まあ、そこそこな吐出圧にはなりますが 大半は 液高さによる静圧ですね。液は水なのでシャバシャバですから、よほど細い配管を使わない限り そこまで圧力損失が大きくなることは無いかなと。
✔ プロペラ撹拌機との比較
また、参考文献によれば 噴流撹拌とプロペラ撹拌機との撹拌効率の比較をすると、同一混合時間を得るために必要な動力は、噴流撹拌はプロペラ撹拌の 約7倍 の差が有ると記載されています。参考文献にはその辺りについても考察されていますが、あくまでも仮定を含んだものなので何とも言えませんね。実際、噴流撹拌では既存の設備が使用できると言う利点も有るし、撹拌機の設置にはそれなりの手間やコストも必要なんだと言ってますね。格段に良好な混合性能で無くても許容出来るんであれば、噴流撹拌も選定可能って事ですかね。
まとめ
以前実務で検討したのは、いわゆるタンク洗浄についてですね。タンク内液を混ぜると言うか、液を流動させて底板に堆積しているスラッジとかを浮遊させられるのか?ってものでした。スラッジが浮遊すれば 液に同伴させて タンク出口ノズルから排出されますんで、まあストレーナーとかフィルターで捕集除去すれば良いですね。まあ、結構デカいタンクでしたね。CFD で解析しましたが、非定常計算をずーっと長時間実行させて 流れ場が形成される過程を再現してみましたね。 今回の計算例を振り返ってみると 得られた混合時間は 非定常的な部分を含んだものなのかな~と思いました。と、参考文献には 「回分混合時間」と有るので、止まっている状態からポンプをONにして流動を開始させてから 混合完了するまでの時間なんだろうなとは思いますね。
この噴流撹拌ですが、噴流ノズルを使わなくても ポンプ循環して混ぜると言うのは現場でも比較的普通にやってると思いますね。まあ、普通の受入れノズルから入れてるんでそこまで効率的では無いとは思いますが。やらないよりはマシですね。 ポンプ循環が重要になるのが、タンクに内部コイルを設置している場合でしょうか。底板に支柱を設置して、そこに配管を載っけますね。で、加熱であれば内部にスチームを流します。内液が低温になると凍結固化するような場合は必須ですね。で、ポンプ循環しないと円管表面からの自然対流となるので熱伝達が良くは無いですね。なので、液を流動させて強制対流とする事で熱伝達を促進させますね。更に流動させると内液全体の温度均一化にも効果が有りますね。
また、プロセスに装入する原料の調合槽などであれば、結構デカいですね。原料装入量 10 [m3/hr] で連続運転において 1シフトに1回調合するのであれば 80 [m3] ほどの液量となります (24時間÷3シフト✕10m3/hr)。竪型のベッセルとしても良いですが、気相部容積を見込んで 100[m3] 程度の流量とするのであれば、コーンルーフタンクを選択しても良いですね。となると、今回の計算例と同じですね。であれば、撹拌機を設置するよりもポンプ循環で混ぜるってのも十分に有りですよね。因みに、この調合槽は2つ必要です。1つが原料払い出し中に、もう1つの槽で調合して混ぜるって感じです。まあ、8時間あれば十分ですよね。循環流量が 例えば 50 [m3/hr] であれば、空間時間は 1.6 [hr] なので 8時間あれば 5回は入れ替わりますね。更に循環配管の途中にスタティックミキサーでも設定しておけば より万全かなと。まあ、よほどの比重差が有る場合以外は タンクにジャバジャバっと装入した時点で大体は混ざりますね。
参考文献
- 「液体混合技術」 日刊工業新聞社 1989年刊
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