今回は集塵装置のひとつである、湿式洗浄塔について取り上げます。まあ、いわゆるスクラバーですね。以前、投稿 No.43 ではベンチュリスクラバー について取り上げました。ベンチュリスクラバーも湿式洗浄装置ではありますが、今回取り上げるのは スプレー塔タイプの方です。ベンチュリスクラバーほどには集塵性能は良くは有りませんが、比較的 お手軽ですね。まあ、排ガス量が多いとそれなりに大型化しますけど。
実務でも集塵装置については何度か検討しましたね。粉ものを扱うとか、粉塵が発生する工場であれば局所排気設備が必須ですし、そうすると除害設備もこれまた必須ですね。そのまま大気に放散する事は出来ないので。デカい粒子であればサイクロンで事足りますが、それよりも小さい粒子とか、とにかく全部捕集したい!のであれば バグフィルターとかでしょうか。で、前述のようにガスが高温だったりとか、揮発性ガス成分が同伴する場合は スプレー塔タイプのスクラバーが適用されますね。それと、排ガス中に水蒸気やミストを含む場合にも使われますね。バグフィルターとかだと濾布がビショビショになって閉塞したりしますので。便利ですがその反面 洗浄水循環系が必要になったり、排水処理が必要になるんでアレですけど。
湿式洗浄塔 構造・特性
このスクラバーですが明確な設計に使える計算式は見当たりません・・・。こういう傾向になると言うのは集塵装置関連の書籍で見かけますが。「なーんだ、じゃ検討とか出来ないのでは?」と思いますが、やってました。要は装置の大きさを知りたい訳なんで 塔の空塔速度と液ガス比が分かれば、ざっくりとでは有りますが仕様は決定できますね。まあ、実際に導入する際には専門のメーカーさんに依頼する事にはなるかと思いますけど。予備的な検討では、「ここにスクラバーを置きたいけど、スペースはどれくらいかな?」を知りたい事が有りますが、その程度であれば 自分でやりますね。
✔ 基本構造
下図のとおりですね。並行流と対向流がありますが、対向流しか見たことは無いですね。どちらの場合も、水スプレーを降らしている中に排ガスを通過させるって事ですね。水滴は重量で落下してスクラバー底部に溜まり、循環使用されます。ガスは入口から出口に向かって流れますね。参考書籍では、並行流の場合 内装物が有りますね。液の捕集器と再分散器でしょうか。こんなのを設置しておくと、洗浄水が液膜状に流れ落ちるので、その液膜をガスが通過する事になり捕集効率が良くなるって事でしょうか。一方、対向流の場合には 特にそのような仕掛けは必要ないですね 正面衝突しているので。逆に余計な内装物が有ると、ガス流れが阻害されてしまいますね。それと、どちらの場合もミストセパレーターは設置しますね。ミストが同伴されると下流のブロワにダメージがありますので。
✔ 運転範囲・特性
いくつか集塵装置関係の書籍に当たってみると、スクラバーの運転範囲とか特性が記載されています。前述のとおり、仕様検討においては 空塔速度と液ガス比が重要ですね。以下にまとめてみます。
空塔速度は 1 ~ 2 [m/sec] 程度ですね。排ガスの流量は設計の前提条件として決まっているので、流量を空塔速度で割り算すればスクラバー内のガス流路断面積が得られます。普通、スクラバーは円筒形状とするので 直径が計算されますね。
次に液ガス比ですが、排ガス流量 [m3/hr] に対して使用する洗浄水 流量 [Liter/hr]との比率です。どっちも流量ですが、[m3] と [Liter] なので、この様な表記となります。まあ、液ガス比は 1 [L/m3] 程度でしょうか。これで使用する洗浄水流量が得られます。
で、分離径はどれも 3.0 [μm] ですね。冒頭のグラフにはスクラバーの部分捕集効率が描いてありますけど、3.0 [μm] ですと 90[%] 以上は分離されますね。
仕様決定
✔ スクラバー内径・高さ
前述のとおり、排ガス流量と空塔速度から流路断面積が得られるので、円筒形状であれば内径が出ますね。で、高さの方ですが これは簡単では無いですね。スプレーを何段積むのかとか、ミストセパレーターの厚みはどの程度なのかを決める必要があります。更に、スクラバー下部にはガス入口/出口 ノズルが有りますが、設置する為の高さが必要ですよね。更に更にガス流れが整流される為の高さとかも必要かなと。加えて、スクラバー底部に洗浄水をある程度溜めますので その高さとかも必要ですね。
✔ スプレー仕様
洗浄水は単に多孔管からジャバジャバ流出させるだけでは捕集効率が悪いので、スプレーで噴霧しますね。このスプレーですが、まあメーカーさんの資料から選択しますね。これまた、フルコーンとかホロコーンとかタイプがあって、噴霧水滴径についても様々ですね。で、水滴径ですが これは決まりますよね、自動的に。と言うのも、排ガス 空塔速度が決まっているので これに逆らって水滴が重力で落下するだけの大きさが必要となります(対向流の場合)。
即ち、空塔速度 < 水滴終末速度 とならなければ、噴霧された液は全部 ガスに同伴されしまい、吹っ飛んでいきますね・・・。水滴 終末速度は Stokes、Allen、Newtonの式で計算出来ますね。と、こんな感じで 良さそうなスプレーを選択すると スプレー1個当りの流量ってのがカタログに載ってますね。洗浄水流量をスプレー流量で割り算すれば、スプレー必要個数が出ます。スプレーも1段だけ設置するってのは無いですよね。まあ、2段とか3段で ある程度間隔をもって設置しますよね。と、この辺りはスクラバー高さに影響してくるんですね。
集塵機構と性能
✔ 集塵機構
- 水滴への衝突
- 冷却・凝縮による水滴径増大
- 拡散による水滴表面への接触
- 冷却水面への熱沈着
- 式② 小水滴径 相対速度は水滴径の自乗に比例するので、Ψ は 水滴径に比例して増加
- 式③ 中水滴径 相対速度は水滴径に比例するので、Ψは変化しない
- 式④ 大水滴径 相対速度は水滴径の平方根に比例するので、Ψは 水滴径に平方根に反比例する
✔ 集塵性能
計算例
んじゃ、早速 計算してみましょうか。まあ、あくまでも概略的なものなんでザックリと洗浄塔の大きさを把握するって感じですね。
✔ 前提条件
以下の排ガス条件に前述のスクラバー特性を適用してみます。
- 排ガス温度・種別 80 [℃] 空気
- 排ガス流量 300 [m3/min]
- 入口粉塵濃度 5 [g/m3] ※ 計算には使用しませんけど設定しときます
- 空塔速度 1 [m/sec]
- 液ガス比 1 [L/m3]
- 噴霧水滴 平均径 0.5 [mm]
✔ 計算結果
結果ですが下図のような感じですね。そこまでは大きくは無いですが、循環系の配管とかポンプとかの付帯設備を含めれば そこそこの設備になるのかなと思いますね。また、スプレーノズルですが 今回は 「霧のいけうち」から選定しました。排ガス流量が 300 [m3/min] で液ガス比が 1 [L/m3] なので、洗浄水量は 300 [L/min] となりますね。なので、スプレーノズル1個の流量が 5 [L/min] であれば ノズル個数は 60 個となります。
- 塔 内径 2523 [mm]
- 塔 全高 7000 [mm]
- 洗浄水量 300 [L/min] = 18 [m3/hr]
- スプレー仕様 フルコーン, 噴角 70度, 5 [L/min] @ 0.2 [MPa]
- スプレー数量 60 [EA], 20 ✕ 3段
スプレーノズルですが、そこそこの数量となるので3段にしています。普通はキレイな配置にしますね。円形のヘッダー配管を同心円状に2つ設置して、そこにスプレーノズルを設置します。中心のノズルは数量的には必要ないですけど、せっかくなんで付けてみました。
塔内径は簡単に決まりますが、塔高さはスプレーノズルをどれくらい詰め込むかとか、デミスターはどれくらいの厚みなのかとか、ボトムの滞留量はどれくらいにするのか などで変わりますね。なので、計算結果を図に描いてみて アレコレ検討するのがやはり重要でしょうか。
それと、水滴平均径を 0.5 [mm] としたのには訳が有ります。と言うのも、空塔速度 1[m/sec] であれば 、例えば 水滴径 0.3 [mm] では全部吹っ飛んで行きます・・・。終末速度が 0.8 [m/sec] くらいなので。参考書籍には 最適水滴径 0.3 [mm] 前後とありますんで、0.5 [mm] であれば当たらずも遠からず、でしょうか。どうしても、0.3 [mm] としたいのであれば、空塔速度を下げれば良いですね。ですが、その分 塔内径が増加しますね。
せっかくなんで、排ガス流量を変えるとサイズがどのように変化するかを計算してみました。さすがに 流量が 700 [m3/min] とかになると、だいぶ大きいですね。こうなると、洗浄塔本体は自立させるとしても、メンテナンス用の架台とか歩廊とかが必要になって、ストラクチャーを併せて建設する事になったりして、コストが嵩みますね。
まとめ Wrap-Up
とまあこんな感じで検討したりしてましたね。スクラバー本体の仕様検討もアレですけど、配管とかポンプとかフィルターとか、場合によっては洗浄水のクーラーとかの仕様も検討する必要が有るので、何やかんやで結構なボリュームになったりしましたね。んでもって、機器配置とかプロットプランも併せて検討しますね。
このスクラバーですが、サイクロンとかと比較して 割りと明確な設計法が無いのが少し困りますね。ベンチュリスクラバーでは結構細かく仕様を計算出来ますが。まあ、結局は専門メーカーに依頼するんで、結果オーライなのかも知れませんけど。運転条件を入力して集塵率と言うか捕集率がサクッと計算出来れば良いんですけどね。この手の液滴とか気泡とかが絡む機器ってのはなかなか大変ですね。便利では有るし、機器や装置として実現するのは比較的に容易なんですけど。 ですが、いざ詳細に検討してみようとすると液滴とか気泡は取り扱いが難しいですね。どうしても、ザックリとした取り扱いになってしまうのかなと。
メーカーさんとかはどうしてるのかな~と思いますね。全くこれまでに検討した事の無い排ガスであれば、プラントに小型のスクラバーを持ち込んで、実ガスで集塵テストとかでもするのかな~と思いますが。まあ、そこまで特殊な排ガスで無ければ、それまでの知見や経験とかで十分に対応出来るのかなと。
参考文献・書籍
- 「化学工学の進歩 16 気泡・液滴・分散 工学」槇書店 1982年刊
- 「はじめての集塵技術」 日刊工業新聞社 2013年刊
- 「図解 粉体 機器・装置の基礎」 工業調査会 2005年刊
- 「改訂 四版 化学工学便覧」 丸善 1978年刊
web site
- https://www.kirinoikeuchi.co.jp/products/full/301
霧のいけうち 製品情報>充円錐ノズル
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