化工計算ツール No.60 ベルヌイの定理アレコレ Bernoulli's Theorem a la carte

 今回は流動の基本とも言うべき、ベルヌイの定理 Bernoulli's theorem について取り上げます。んで、アラカルト a la carte としていますんで、ベルヌイの定理に関する項目についていくつか計算してみます。余談ですが、このアラカルトは元々はフランス語で 「単品で注文する料理」の事なんだとか。まあ、趣旨としては当たらずも遠からずってところでしょうか。


で、参考書籍である「ブルーバックス 高校数学で分かる流体力学」には流体力学の天才として以下の方々の名前が挙げられてました。年代順に並べてみるとこんな感じなんですね (書籍中の図を参考にしてます)。このダニエル ベルヌイ Daniel Bernoulli は 18世紀の人でオランダ生まれとの事です。いろいろと有ったようですがスイスのバーゼル大学に職を得て、1738年に「水力学 Hydrodynamica」 を著しました。これが流体力学の始まりなんでしょうか。ライト兄弟による動力飛行機の初飛行は1903年でしたが、 Hydrodynamica 出版から165年後の出来事となりますね。そして、今年 2023年は ライト兄弟の初飛行から 120年 経ってるんですね。




図中に記載されている科学者と言うか研究者ですが、錚々たるメンバーですね。オイラー方程式のオイラー、ダランベールの背理のダランベール、ナビエ-ストークス方程式のナビエとストークス、ハーゲン・ポアズイユの法則のハーゲンとポアズイユ、無次元数レイノルズ数のレイノルズ、クッタ-ジューコフスキーは翼理論で有名ですね。
で、全部が全部ヨーロッパの人たちなんですよね。当時、科学 特に数学の発達に伴って流体力学も一緒に発展した行ったと言う感じなんでしょうか。まあ、確かに流体力学の専門書なんかはほとんど数学の本なのか?くらいに数式だらけですしね。



ベルヌイの定理 Bernoulli's Theorem

まあ、いろいろな書籍にも必ず載ってますし、これまた多くのサイトでも取り上げられてますんでアレですけど。理想流体の定常流れにおいて微小流体を想定して、運動量の収支をとるんですね。この微小流体には 入口を 面1 とし、出口を 面 2 とします。この区間を通過する際に速度変化や圧力変化 及び 高さの変化があるものと考えます。また、理想流体は密度が一定でかつ粘性が無い流体ですね。となると、微小流体 断面での流れは一様となります (速度分布は無い)。

で、運動量ですが 流体では質量 ✕ 速度なので微小流体の面1 と面2 についてそれぞれ求められますね。また、圧力については 面積 ✕ 圧力 なので、やはり 面1 と 面2 について求められます。また、微小流体に働く重力については 質量 ✕ 重力加速度 なので 微小流体 全体の質量を求めて それに重力加速度を掛け算します。

運動量収支式が 式①で これを整理すると式②になります。これを S・ρ で割り算して整理すると式③となりますが、これが オイラーの式です。これだけでも何となく分かりますが、これを積分すると 目出度く ベルヌイの定理 式④が得られますね。式⑤は 面1 と 面2 の速度、圧力、高さを用いて表わした式ですね。





で、このベルヌイの定理ですが 式④では 単位は 比エネルギー [J/kg] となっています。ですが、今ひとつ分かりにくいので チョチョイと変換して別の単位とする事も可能です。
式⑥ は 式④と同じで元々のベルヌイの定理ですが、これを重力加速度で割り算すると式⑦となり、高さの次元となります。また、式⑥に密度を掛け算すると式⑧となり、圧力の次元となります。ここで、左辺 1項目は重力による圧力で、2項目は動圧で、3項目は 静圧ですね。動圧と静圧の和を全圧と呼びますね。




適用例  example


では、早速 ベルヌイの定理 適用例をいくつか見ていきます。やはり、これらのについても書籍やサイトがそれこそ山ほど有るんでアレなんですけど。

✔ ピトー管 Pitot Tube

まあ、何と言っても まず 出てくるのがピトー管でしょうか。全圧と静圧との差として動圧を取り出し、それを例えば マノメーターを用いて 液位差として実測します。ここで、ベルヌイの定理を用いれば 流速が計算できますね。

下図のような感じですね。上段のタイプは二重管になってまして、先端部は全圧孔、二重管 外側に静圧孔が有り、両者の差圧として動圧を取り出します。下段のタイプは分離タイプですね。例えば、航空機のピトー管は大体こんな感じでした。インチョン空港の出発ゲートで福岡行きのフライトを待ってますと、ボーディング・ブリッジに飛行機がグイーっと近寄って来るんですね。で、見ると確かにピトー管が有りますね。操縦席の窓のずーっと下側に全圧孔と静圧孔が有りましたね。更に全圧孔は機体表面から浮かせてあります。大抵、機首の右側(機体側から見て) に付いていたように記憶していますけどね。




で、早速 計算してみます。とは言っても、マノメーターの液位差と流速との関係くらいですかね。まあ、その逆でも良いですが。流体は30[℃] の空気と水で、マノメーター流体は 30[℃] の水と水銀とします。

結果は以下のとおりですね。空気で流速が 数十 [m/sec] であれば水マノメーターでも十分に測定可能ですね。一方、水銀マノメーターだと液位差が小さすぎて精度が悪いですね。まあ、マノメーターとかは使わずに差圧計とかを使えば良いですね。水の場合は水銀マノメーターしか使えませんよね。大学の研究室には結構デカい水銀マノメーターが有りまして、オリフィス流量計の差圧を実測してましたね。今は水銀もアレなんで使わないんでしょうね。水銀体温計とか子供の時は普通でしたが、今は無いですもんね。「1回使った体温計を振って元に戻す」ってのはもはや死語というか死動作なんですね・・・。

で、ついでに飛行機の巡航速度を 800 [km/hr] として ピトー管の差圧 (=動圧) を計算すると 35.5 [kPa] ですね。あっ、一応 空気密度は 外気温 -30 [℃] における値 1.44 [kg/m3] としました。まあ、大きいですが そこまでって感じでは無いですね。超高精度で超高信頼性の差圧計を使っているのかなと。ですが、せっかくのピトー管ですが 加熱装置を ON にしていないとピトー管が氷で閉塞して使えないって事があるそうです。飛行機が好きなんで、関連書籍とかもいくつか読んだんですね。その中にピトー管不具合に起因する航空機事故ってのが有りましたね。加熱のし忘れを防ぐ為に、キャプテンとコパイロットが「ピトーヒート オン」と発声して 確実に ON にするんだそうです。

 

✔ トリチェリの定理  Torrichelli's Equation


ピトー管とくると次はトリチェリの定理でしょうか。下図のように デカいタンクに水を張って、側壁とか底面の孔から重力で流出させます。液面における速度はほぼゼロとなりますし、液面近傍と流出孔近傍の圧力はどちらも同じなんで考えなくて良いですね。そして、密度も一定です。となると、適用されたベルヌイの定理はすごーく簡単になって、流出速度について解くと 2✕重力加速度✕高さの平方根となりますね 式⑩。これは重力下での自由落下速度と同じですね。まあ、理想流体なんでそうなるんですね。





あまり計算らしい計算でも無いですけど、一応結果は以下のとおりです。液位差が大きくなれば流出速度は増加しますね。式からも分かるように液位差の平方根に比例して増加するんですね。で、こんな感じですごく簡単に計算出来るんですが、世の中そんなに甘くは無くてこのとおりとはならないようです。

まあ、摩擦とか縮流とかによって速度は低下するようですね。摩擦の影響は速度係数として考慮し、縮流の影響を縮流係数として考慮して、両者の積を流量係数とします。調べてみると、速度係数は 0.96~0.98 とかですが 縮流係数は 0.64 くらいなので、流量係数は 0.61 とかになります。まあ、0.6 としている書籍も有りますね。なので、実際の流速は 理論値の 6割まで低下する事になりますね。うーん、結構 大きいですね。 それが下図の破線ですね。




✔ ベンチュリ管  Venturi Tube


ピトー管、トリチェリの定理 とくれば、次はベンチュリ管でしょうか。大体 この3つがセットで載っている書籍が多いように思いますね。

構造と流量計算式は以下のとおりですね。入口部 円管をテーパーを付けて絞り、少しだけ平行部 (Throat) を設けて、その先には緩いテーパーを付けて元の円管径まで戻します。ここで 入口部とスロート部にベルヌイの定理を適用して整理すると、最終的に式⑪が得られます。差圧検出用にマノメーターを使う場合は 式⑫になりますね。




で、流量と圧力差との関係を計算してみると以下のようになりますね。流体は水で、入口部を 100A とし スロート部 内径は 70[mm] としています。100 [m3/hr] で 圧力差 20 [kPa] くらいですね。この値はどうなんかな~と思って、計装品メーカーさんのサイトで確認するとまあ同じ様な感じでした。因みに Azbil (旧山武) さんですね。



で、Azbil さんのサイトをつらつら見てますと、なんとタップレス ベンチュリ管なるものが有るんですね。圧力取出し用の小さい孔(タップ)が無くて、代わりにリモートシールタイプの感圧部がドカンと管壁に直接付いてるんですね。まあ、取り合いのフランジは有りますけど。 懸濁物とかスラリーとか孔が詰まりやすいものに使えるんだとか。なかなか考えるものですね~。まあ、実際のところ 量産プラントとかでマノメーターは使いませんよね。


まとめ  Wrap-Up

温故知新じゃないですけど、流体力学の基本に立ち返ってベルヌイの定理を取り上げてみました。まあ、実務でもお世話になった事は有りますよね。ただ、タンクからの重力流出量とか流出所要時間を計算する事はありましたけど、トリチェリの定理をそのまま適用することは無いですよね。当然、タンクの下流には配管やらバルブやらが設置して有る訳で、それらの影響を加味しようとすれば 損失を考慮した計算をする必要が有ります。このブログでも重力流出時間を No.2 と No.3 で取り上げてますが、それなりに損失を考慮してますね。

流体力学関連の書籍でもベルヌイの定理は割りと最初の方に出てきますよね。まあ、基本中の基本ですし、理解しておいた方が良いですよね。式自体はそれほど難しいわけでも無いですし。特に前述の式⑧ (圧力基準のベルヌイの定理) は覚えておいたほうが良いのかな~と。ここの配管のヘッドがどうしたこうしたってのは、ケミカルエンジニアとしては必須ですし。

また、参考書籍の一つが 「ブルーバックス 高校数学でわかる流体力学」ですが、余程 頭の切れる高校生じゃないと理解は難しいかなと・・・。でも、コラムと言うか流体力学の歴史とか学者の人となりなどが書いてあって そこは面白かったです。また、「へーっ、そうなんだ」と思ったのが、船が二隻並走する場合の話で あまりに近づきすぎると危険なんだとか。 船間距離が近いとそこの流速が大きくなり更に船同士が近づくような力が働き、最悪 接触して事故になるとか。これはベルヌイの定理が悪い方向に働いた例だとか。うーん、海上給油とかの映像で二隻が並走するのは見た事がありますが、船体の大きさとか船速とかで並走時の距離とかが決まってるんでしょうか。素人考えでは、「何でもっと近づいてしないのかな?」とか思ってましたけど。まあさすがに接舷はしないと思ってましたけど。波浪で船体が揺動するとゴツンゴツンぶつかりますよね・・・。

で、最後に触れておきたいのが マリオットの瓶 Mariotte's Bottle ですね。これもやはりベルヌイの定理に基づいています。まあ、言ってみれば重力での自然流出なんですが 液面位置が変わっても流出量は変わらないと言う代物でして。図を見ていただければ分かります。流出量は 挿入された空気導入管 下端と液流出管との液位差 h のみで決まるんですね。なので、容器内の液面位置が変わっても流出量は変化しません。液位が①から②まではずーっと同じ流量で流出しますね。いや~良く考えられていますね。ネットで検索すると結構出てきます。簡単に一定流量で流出させたい場合などには好適ですね。こう言うのは流体力学の書籍とかでは 見かけたことが無いですね。なかなか面白いですし、かつ実用的でも有ると思うんですけど。





参考文献・書籍   References

  1. 「ブルーバックス 高校数学でわかる流体力学」 講談社 2014年刊
  2. 「ブルーバックス 流れのふしぎ」 講談社 2004年刊
  3. 「演習 水力学」 森北出版 1981年刊
  4. 「配管技術ノート」 工業調査会 2004年刊


web site

  1. アズビル株式会社 
    https://www.azbil.com/jp/




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